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モテる男は免疫力が高い!? / 動物行動学から見る人間の本性(竹内久美子)

この記事では、月刊『ザ・フナイ』vol.198(2024年4月号)に掲載されている、動物行動学研究家・エッセイストの竹内久美子さんによる短期集中連載「動物行動学から見る人間の本性」の連載第1回目を記念して内容の一部分を公開いたします。

竹内久美子(たけうち くみこ)
1956年、愛知県生まれ。1979年、京都大学理学部卒。同大学院で動物行動学専攻。1992年、『そんなバカな! 遺伝子と神について』(文春文庫)で第8回講談社出版文化賞「科学出版賞」受賞。ほかに『浮気人類進化論――きびしい社会といいかげんな社会』(晶文社・文春文庫)、『世の中、ウソばっかり!――理性はわがままな遺伝子に勝てない!?』(PHP文庫)、「浮気」を「不倫」と呼ぶな――動物行動学で見る「日本型リベラル」考』(ワック。川村二郎氏との共着)、『動物が教えてくれるLOVE戦略』(ビジネス社)など著書多数

モテる男は免疫力が高い!?


私の肩書は、動物行動学研究家でエッセイストである。誤解されることが多いが、動物行動学に関してはあくまで「研究家」。「学者」ではない。

京都大学理学部を卒業後、大学院も同じく京大理学部の日高敏隆先生の研究室で過ごした。当時は学会発表や論文の提出も行い、学者見習いをしていたが、以降は学者の世界に身を置いていない。

この分野を学ぶことが好きで、知りえた知識を文章にして皆に紹介する、その際、自分の感想や自分流の考え、疑問点なども加え、楽しく読めることを心掛ける。そのようなスタイルで仕事をしてきた。学者ではないことを強調するために、かなり初期の頃に「研究家」と名乗ることにしたのだ。

それでも勝手に「学者」にされてしまう。そうしたうえで、学者のくせに学会発表もしていないし、論文も書いていない。こいつは偽学者、自称学者だ。学界ではまったく相手にされていない、と言われる始末なのだ。

連載の第一回である今回は、そもそも動物行動学とはなんぞやと、動物行動を考えるうえでのコツなどを見ていくことにしよう。

動物の二大テーマは生存と繁殖である。これ以外にはありえない。なぜなら動物は(動物に限らず、あらゆる生き物がそうなのだが)、遺伝子を次の世代に運ぶ、遺伝子の乗り物でしかないのだから。

いきなり言われるとびっくりされるかもしれないが、それは生命のごく初期の段階を考えるとわかってくる。生命とはまず、原始のスープと呼ばれる池のようなところから、自己複製子として誕生した。生命の本質とは自分で自分を複製できることだからである。自己複製子はのちにRNA、DNA、遺伝子と呼ばれるようになるものである。

自己複製子はむき出しのままだったが、それでは傷ついてしまうので、保護する物質や覆う膜などを自身でつくるようになった。こうして単細胞の生物ができ、やがて多細胞の生物や我々になじみの深い生物が進化。人間にまでも至るのである。

我々はつい、主体は我々自身にあり、遺伝子は我々を生かすために存在すると考えてしまうが、主体は最初から遺伝子の側にある。遺伝子が時間の旅をするために我々の体を利用しているだけであり、我々は遺伝子の乗り物にすぎないということになるのだ。

このあたりについて詳しくは、リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』(紀伊國屋書店)か、私の『そんなバカな! 遺伝子と神について』(文春文庫)を読んでイメージを深めていただきたい。

ともあれ、そうとなれば、まずはいかに生きながらえて遺伝子を運ぶか(生存)。そしてどんな相手との間に子をつくれば次世代以降に効率よく遺伝子を残せるか(繁殖)が二大テーマであることがわかるだろう。

しかもどちらのテーマにおいても問題になるのは免疫力である。生存に関しては疑問が生じる余地はないだろう。私たち動物の生存を脅かす最大のものは、捕食者でも飢餓でもなく、ウイルス、バクテリア、寄生虫といった他者に寄生しないと生きていけない連中、つまりパラサイトだ。

それらは人間にどんなに地位があろうと、お金があろうと、容赦なく襲い、命を奪っていく。よって生存において最も重要なのはそれらパラサイトと戦う力、つまり免疫力ということになる。

実は、私は前々から免疫力の重要性を主張してきたが、どんなに言葉を尽くしても、皆さん今一ピンとこないという様子を示していた。それよりもっと大事なことが他にあるだろうに、と。しかし新型コロナの流行によって状況は一変した。人間(人間に限らず、どんな生物も同様だが)、最後のとりでは免疫力なのだ。

では繁殖においても免疫力が問題となるとはどういうことだろう。繁殖においては相手選びをする。その際、人間の男に限定して考えると、顔がいいとかルックスがいい、声がいいというのはポイントが高い。さらにはスポーツができるとか、音楽の才能があることなどもモテる要素だ。

なんでそんな表面的な魅力にこだわるのだ。男は、いや人間は中身こそが最重要、表面で評価するなんて最低という主張もあるだろう。しかしこの一見浅はかに思える表面の魅力、表に表れる魅力こそが実は中身の充実、言い換えれば免疫力の強さをウソ偽りなく反映するものなのだ(そのことを証明する研究は多数存在する)。

またそうであるからこそ女はイケメン、イケボ(イケてるボイスの男)、スポーツ選手、ミュージシャンが大好きなのである。そういう免疫力の高い男を好み、彼との間に子をつくれば、父の免疫力の高さを受け継いだ子を得られる。

その子はウイルス、バクテリア、寄生虫など、パラサイトに強く、生き延びる可能性が高い、すなわち生存力に優れるというわけなのだ。相手選びとは生存力の高い子を得るために女が、免疫力の高い男を選ぶという過程なのだ。

ここでなぜ女が男を選ぶのか、男も女を選んでいるではないかという疑問がわき起こってくるに違いない。確かに人間の場合、男が女を選ぶ要素がある。特に美貌びぼうとか、スタイルの良さとか。顔の良さは日々の健康や長寿と関係があることがわかっているし、スタイルの良さ、特にバスト、ウエスト、ヒップのメリハリの良さは妊娠のしやすさを示していることがわかっている。

またヒップに対するウエストの比、WHR(Waist to Hip Ratio)が小さい、つまりウエストがよく引き締まっていると、健康、質のいい母乳が出る、本人と子の知能が高い、健康、声がいいなどがわかっている。

しかし人間も含め、動物界は圧倒的にメスがオスを選んでいる。それは一回の繁殖にかける時間とエネルギーが、オスとメスとであまりに違うというところに端を発するのだ………

お読みいただきありがとうございました!

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