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「日本企業の勝算〜人口減少時代の最強経営〜」

最近テレビで見かけることが増えたデービッド・アトキンソン氏。彼をBSの地上波で見かけた時、彼の持論に興味が出た。ちょうどコロナウイルスで経営の困窮に喘ぐ企業の政府の支援についての議題の時だった。2〜3人の小企業を救うべきではない。ゾンビ企業と表現していたが親族のみで経営し、万年赤字そして成長せずに経営を維持し続けている企業に税金を投入するより重要なことがあるというようなニュアンスであった。

そこで関心を持ち、彼の著書を読み始めた。

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デービッド・アトキンソン氏 (YouTubeより)

デービッド・アトキンソン氏はオックスフォード大学を卒業後、ゴールドマンサックスで伝説のアナリストと言われた人物だ。

彼は日本企業の研究を行い、一つの持論に至る。それが上記の中小企業の淘汰だ。

と、それは言い過ぎなので訂正するが、中小企業の再定義を大きな課題として本書を展開していく。私も中小企業の経営者、いや零細企業の経営者なのだが、まずはデービッドアトキンソン氏がいう中小企業、特に小規模企業の定義だ。それは50人未満の企業のことを指す。この小規模企業が日本は圧倒的に多過ぎるのだというのが著者の大きな問題提起になっている。

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ちなみに私が関わる企業もこの小企業に当たる会社もあり胸が痛む。さて、それならその何がいけないのかという問題だが、

まず日本はこれから出生率の問題で国民の数がどんどん減少していくフェーズに入っていて超高齢化社会に入る。その中で社会保障費の負担は大きくのしかかるいわゆる絶望社会である。
この絶望社会にあって、光となるのは唯一「生産性向上」であるという。

これは最近、働き方改革などで散々マスコミに騒がれていることだが、その生産性向上が実現しない理由として私たちがその理由とする主なところは「中小企業は日本の宝」「サービス産業の生産性が低いのが、国全体の生産性が低い原因」「サービス業の生産性が低いのは、おもてなしに対価を求めない日本人の国民性が反映している」「大企業による搾取が日本の生産性を低下させている」「長時間の会議やハンコ文化が生産性を下げている」など列記される。

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この声に著者はデータ、統計で反論する。国の生産性を決める最大の要因は「産業構造」だ論じる。同じ「先進国」でもなぜ国によって生産性が違うのか日本の生産性がイタリアやスペインとあまり変わらないのはなぜか?例えば、2つの国に3000人の労働者がいるとしてA国では3社に1000人ずつの労働者を分配し、B国では1社に1000人、ほかの2000人を2人ずつ1000社に分配するとしてこの場合、人材の質、社会インフラの質、技術力がまったく同じだとしても、A国のほうがB国より明らかに生産性が高くなる。企業の規模が大きくなれば生産性が上がって、小さくなれば下がるというデータを明示している。

先進国の統計で(例としてアメリカ、ドイツ)、労働者が大企業と中堅企業に集中的に分配されている国のほうが、産業構造が強固で生産性が高いデータを示す。逆に、中堅企業と小規模事業者を中心に労働者が分配されている産業構造を持った国(日本、韓国、スペイン、イタリア)は、経済基盤が弱く、生産性も低いデータを示す。ちなみに、発展途上国では、ごく一部の大企業と大多数の小規模事業者に労働者が分配される。

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このようなデータを様々な角度で明示し企業の規模が生産性の向上のキーを握るという結論へ導く。規模を持つ企業は設備投資を行い、研究開発も進み、イノベーションが起こせると書いている。実際に大企業、中堅企業、小規模事業者の平均年収や生産性を数字でわかりやく比較してくれる。

統計学的に、日本の中小企業庁が発表している2019年の『中小企業白書』のデータでも、同様の傾向が。2016年の日本の大企業の生産性が826万円だったのに対し、中堅企業は456万円で、小規模事業者の生産性はさらに低く、342万円となる。

そしてEU28カ国に対してもそのデータを示すが、同様に大中小で企業規模ごとに生産性は規模に準じて出てくることが分かる。EU内でもドイツとイタリアの比較などで小規模事業者の割合が大きい国は生産性が圧倒的に低いデータが見やすい比較で示される。

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アメリカやドイツは大企業、そして中堅企業が非常に多い。そのため生産性がとても高いことが数字で見て取ることが出来る。このデータから著者の提言は税制優遇等で中小企業、特に小規模事業者でいることを促進するような制度をやめ、ある程度の規模を保持しようとする経営者が増えていくように税制を変えていくべきと提言。このタイミングで私もこの本を手に取ったことも何かの縁であるので生産性を考える尺度に“規模の定義”を加え、効率かつ生産性の高さを保つべき事業規模、従業員規模という視点を持っておきたいと考えた。これから人口減少社会を生きる我々そしてコロナ禍で我々が考えさせられる一冊かと思う。


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