『氷柱の声』(著者:くどうれいん)は麻布中、海城中で出題されました!中学受験国語の入試問題の内容・あらすじを紹介します!
■『氷柱の声』(著者:くどうれいん)について
この本は、
・滝の絵(2011)
・Zamboa(2016)
・スズランテープ(2016)
・エスカレーター(2016)
・石巻(2017)
・春の海(2019)
・鴨しゃぶ(2020)
・黒板(2021)
・桜(2021)
と、主人公の伊智花が岩手県立高校の1年生から28歳までの間に出会った東日本大震災を経験した人たちを描いた9編の連作短編集のような形になっています。
このように書いてしまうと、いわゆる「震災ものか」と思われてしまいそうですが、筆者はあとがきで
と書いています。
この考え方が、作品を通じて描かれていて、私自身もとても共感できる作品でした。
入試においても、麻布中、海城中2校とも、この視点を理解できているかが問われる問題が出題されています。ただ、2校とも出題されたのは、一番最初の「滝の絵(2011)」からで、主人公が高校生のときです。
これ以降は、主人公伊智花が一人暮らししていたアパートの友人とお酒を飲みながら語ったり、大学の同期の男の子と交際してレストランや海に行ったり、コロッケ屋さんでバイトしたり、就職したフリーペーパーを作る編集部で取材したりと、あまり小学生向きのお話ではありません。
とても読みやすく書かれているので、読めないことはないと思いますが、「滝の絵(2011)」だけ読んでみればいいのではないでしょうか。
最後に、入試で出題された「滝の絵(2011)」のあらすじを載せてありますので、詳しくお知りになりたい方は確認なさってみてください。
また、この作品は、Amazon Audibleで聴くことも可能です。「滝の絵(2011)」だけ聴くと36分ですので、忙しい受験生にもおすすめです。
(Audibleは最初無料のお試し期間があります)
中学受験では、2022年度麻布中学校、2022年度第1回海城中学校の国語の入試問題で出題されました。
◆2022年度麻布中学校の国語の入試問題
「滝の絵」(2011)から出題されました。震災直後のホームセンターで買い物するシーンなどが中略となっていますが、ほぼ全文、最初から最後までが問題文となり、この文章1題からの設問となっています。
設問形式は、漢字の書き取りが1問、4択の記号選択問題が3問、自由記述問題が10問です。設問は12問ですが、2問が各2問ずつありました。
被災地に向けて描くように頼まれて描いたニセアカシアの絵をどのように評価され、それに対し伊智花はどう思い、自分が描きたくて一生懸命描いたた不動の滝の絵はどのように評価され、伊智花はどう思ったか。東日本大震災の後であったがゆえに行われた世間の評価、この視点に着目して読んでみてほしいです。
◆2022年度第1回海城中学校の国語の入試問題
大問1番で、「滝の絵」(2011)から出題され、大問2番は説明的文章で、大問2番まででした。
大問1番では、最初に「東日本大震災から1か月後、伊智花が美術部でコンクールで最優秀賞獲得を目指し、滝の絵の制作に没頭している」という説明があり、「顧問のみかちゃんから被災地に送る絵を描かないか」と言われる場面から最後までが出題されました。
大問1番の設問形式は、4択の記号選択問題が10問、抜き出しの問題が1問、60〜80字の記述問題が1問で全部で12問でした。
■『氷柱の声』より「滝の絵」(2011)のあらすじ(ネタバレ)
伊智花は岩手県立高校の2年生で美術部に所属し、コンクールを目指し、他界した祖母が大好きだった不動の滝をモデルに滝の絵を描いている。3月11日東日本大震災のあった日は盛岡の自宅にいて、揺れと水道電気の停止、その後しばらく学校も休校になった経験をしただけだった。顧問のみかちゃんが、被災地に送る絵を描かないかと連盟から連絡があったことを伊智花に話す。水道電気が停止したくらいしか経験しなかった自分が、大変な思いをしている人に応援なんて、と思うが、ニセアカシアの白い花が降る絵を描き、タイトルを「顔をあげて」として出展した。作品集の表紙になり、新聞社が取材に来たが、タイトルに込めた思いや、被災地の人にどんな思いを届けたいかを訊かれ、絵の技巧的な点には全く触れられなかった。みかちゃんだけが、ニセアカシアの絵の構図や迫力をわかってくれた。それ以後、伊智花は滝の絵に没頭し、「怒涛」と名付けてコンクールに出展した。しかし、最優秀賞は取れず、昨年より下がって、優良賞だった。最優秀賞を取った絵は、作為的で納得のいく作品ではなかった。世界史の先生が、伊智花の滝の絵を見て、立派な絵だと思うが、水が押し寄せてきて「怒涛」というのは、きつすぎると言った。伊智花は自分の絵が賞を獲れなかった理由がわかり、イーゼルを蹴飛ばし、滝の絵を抱きしめる。