お読書のコーナー⑧ ─『とらすの子』
さて、今回紹介するのは、この時期にピッタリなホラー小説。
芦花公園『とらすの子』だ。
芦花公園はWebサイト「カクヨム」に投稿していた作品をベースにした『ほねがらみ』(2021年)で幻冬舎よりデビュー、その後は新進気鋭のホラー作家として角川ホラー文庫より『異端の祝祭』(2021年)『漆黒の慕情』(2022年2月)の2作品を発表されている。
いま最も注目すべき作家のうちのひとりだと個人的には思っていて、今後の著作も楽しみだな~と思っていたところに『とらすの子』。その物語とあらすじについて触れてみたい。
あらすじ・紹介
都内で起きている連続無差別殺人事件を調査することになったライター・坂本美羽は、SNSで「犯人を知っている」と言うアカウントを見つけ接触を図る。そこで出会った少女から話を聞いていたところ、突然彼女は美羽の眼前で変死してしまう。彼女が話していた「その人が嫌だと思っている人を殺してくれる」という「マレ様」なる人物を追うことを美羽は決意する。
軸となる登場人物は3人で、Webライターの坂本美羽、彼女を悪漢から救ってくれ、のち友人となる警察官の白石瞳、そして高校生の川島希彦だ。
3人はそれぞれ形は違えど大きな「複雑なもの」を背負っていて、それも物語に大きく関係してくる。はじめは坂本・川島のエピソードが交互に、坂本に白石が接触してからは主に白石がメインとなる構成だ。途中途中で語られる本人たちの話や「マレ様」に関する手記が挿入される。
感想
最悪。決して物語の出来が最悪なのではなくて、ひたすらに最悪になる物語なのだ。メインのある2人は大きな「欠損」が、1人は小さな「欠損」があるのだけれど、そこの描き方が非常に上手だった。著者が本当にそういった経験をしてきたのではなかろうか、と思うくらいに気迫のあるリアリスティックな描写に何度も不快感を覚える。
これはつまり「書き手の本望」みたいなものだと思う。つまり、人を幸福にさせたり不幸にさせたり、不快な思いにさせるのは並大抵の文章力じゃできない。その点において過去の著作よりもますます磨きがかかっていて、ますますの「不快」を得ることができた。
ホラー小説に取り上げられる多くの作品は、妖怪や幽霊などの「ホラー」と人間が恐い、所謂「ヒトコワ」の2つがあると思うのだけれど、芦花公園氏はその2つを融合させるのが非常に上手だ。人ならざるモノが恐いし、人間も恐い。でもやはり、異形がこの世で一番恐い──、というのは王道だが、面白い。どちらもしっかり描かれているからこそ、だ。
ほとんど出オチ(読んでもらえれば分かる)じゃん、とこちらに思わせておいて、二転三転していく物語。脳内で想像することが嫌になるほどの描写。夏にピッタリ、と冒頭で述べたが、この『とらすの子』はなんというか、季節問わずオールシーズンで読める。どんな心境のときでも必ず「最悪」で悲しい気持ちになれる最高のホラー小説です。色々な人におすすめしたい。
あと、カバーの絵がカッコいいんです。
サインも書いていただいて(芳林堂書店で予約した)本当に嬉しい。
(終)
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