倦怠感で死にそうな私は喫茶店に救われた
私は壊滅的に気力・体力が足りない。仕事場にいるときは気が張っているから気付かないのかもしれないが、家に帰ってきた途端「まるで熱が39℃あるかのような倦怠感」に襲われて布団に倒れ込んでしまう。だいたい7割くらいの確率で寝込んでいると思う。休日に至ってはほぼ毎回午前が半日分潰れてしまう。そういう意味で私はそこそこの社会不適合者なのだが、普段は一般の人に必死に擬態して仕事をしている。
実家にいた頃は「お風呂に入らずに布団に入る」なんてことは思いつきもしなかったのでどれだけ疲れていても必ず入浴してから寝ていたが、最近はお風呂に入るための体力、もっというと下着とパジャマを箪笥から持ってくる気力すら起きない。一度倒れるととにかく金縛りに遭ったように動けない。ただ、お風呂に一日入らなくても死ぬことはないけど歯周病は地味に怖いと思っているので、最後の力を振り絞って歯だけ磨いてから寝ている。過去には洗面所にすら行けない時のために枕元に歯ブラシと、口をゆすがなくていい歯磨き粉を置いていたこともある。
この倦怠感のせいで本来やるべき家事を半分も出来ず、食洗機と洗濯乾燥機を駆使してもなお部屋・脱衣所・流しが常にめちゃくちゃなので、一歩間違うとゴミ屋敷だと思う。「整頓されていないがせめて不潔にはしないようにしよう」との信念により、害虫が発生していないことがせめてもの救いだ。食洗機と洗濯乾燥機は一見何も考えなくても全自動で食器なり洗濯物を洗ってくれそうだが、実は入れるときに地味に頭を使うので疲れが限界の時は使うことが出来ない。食洗機は庫内にパズルのように食器を設置していく必要があり、食器が重なったり倒れて向きがおかしくなっているとうまく汚れが落ちない。洗濯機はネットに入れるものと入れないもの、乾燥機にかけてよいものとまずいものとをそれぞれ仕分ける必要がある。
断っておくが私は決して不潔が好きな人間ではなく、お風呂も好きだしすっきり片付いた綺麗な部屋に住みたい思いは人一倍強い。ただその分、理想との乖離があまりに大きいことがストレスとなって結果的に精神状態の悪化に繋がっている。精神状態が悪化することでいっそう倦怠感が強くなり、家事が出来ない。これは明らかに悪循環だ。自己肯定感が低い要因はここにもある。
衣食住のうち、とりあえず「衣」と「住」のダメージについて語ったが、なかなか深刻なのが「食」だ。私はお風呂に入れずに寝てしまった翌日は朝シャワーを浴びてから出勤している。本当はその所要時間分早く起きることが出来ると良いのだが、疲れが回復しにくい体質のせいか何時間寝てもどうしても早起きすることが出来ない。よっていつもの時間に起きて朝ご飯を犠牲にしていい加減なものを食べて出勤している。疲れている時こそ疲労回復のために栄養のあるものをしっかり食べないといけないことは私が一番分かっている。しかし、本当に疲れている時はそれすら出来ない。一応、レトルトカレーや冷凍八宝菜など、ご飯にかければ料理として成立するものを大量ストックしたり、まだ体力がマシなときにご飯を5合炊いてひたすら冷凍おにぎりを量産したりなどの対策は講じているが、どうしても限界がある。
私は休みの日に一人きりで寝込むことになった場合、家に簡単に食べられる状態の食料が無かったら食にありつくことを諦めることがしばしばある。ちなみに田舎なのでウーバーイーツは圏外である。たまに日本国内なのに家の中で餓死した状態で発見される方がいらっしゃるが、もし原因が経済的要因ではなくて体力的・精神的な部分だとしたらなんとなく気持ちが分かる。私は布団の上で一歩も動くことが出来ないまま、「ああ、人はこうやって餓死していくんだな…」と意識が遠のくことがある。特に夏場は冷房を入れそびれた状態で動けなくなると我ながら命の危険を感じる。食料はおろか水分やエアコンのリモコンすら取りに行くことすら出来ない。レトルトカレーとか冷凍八宝菜だけじゃなくてOS-1もストックしておく必要があるかもしれない。枕元に。
実は今日仕事が休みで、先程も危うく食事を諦めるところだった。しかし私は遠のく意識の中、あることを思い出した。前職の勤務先の向かいに喫茶店があって、その店では1000円ランチをやっている。ご飯と味噌汁とサラダ、主菜、副菜、小鉢、ドリンク、ゼリーというなかなかの品数のセット。毎日通うのは難しい値段だが、1000円払えばバランスの整った食事が保証されるので、食生活がおかしくなりかけたときに自分の身体に対する救済措置としてよくあの店にランチを食べに行っていた。
というわけで身体が重くて仕方がない自分を奮い立たせてあの喫茶店まで車を走らせた。ランチタイムが何時までだったかうろ覚えだったが、入り口にランチメニューの看板が立っていたので安堵した。もう常連客ではないのだが、常連だった頃のように「ランチで、ホットコーヒー」と店員さんに注文した。
程なくして見覚えのある豪華なお膳が運ばれてきた。大袈裟かもしれないが、私はそれを見て思わず涙ぐんでしまった。今の私の体調では、正直毎日生きていくことすら辛い。疲労感については散々調べたが結局何科を受診したら良いか分からず、市販のビタミン剤と鉄剤と漢方薬を飲んでなんとか凌いでいる。別件でメンタルクリニックを受診しているが、主治医に生活が回らない辛さを訴えてもいまいち解決に至っていない。病気を治すのが医師の仕事であって、生活の改善は専門外なのかもしれない。でも私は今日は一応、ちゃんとしたご飯にありつけた。野菜もお肉もたくさん摂れる。今日は一応、一日生きられる。映画「千と千尋の神隠し」でハクがくれたおにぎりを食べる千尋みたいに泣きながらご飯を食べた。本当においしかった。食べることってやっぱり生きていく上で大事だ。
今日はあれから体調が回復したので、洗濯したりアイロンをかけたりする余力が出来てそれなりに人間らしい生活を送ることが叶った。明日はどうなるか分からない。同じような体調の人は日々をどうやって生きているのだろう。ひょっとしたら家事代行みたいな業者さんにお願いした方がいいのかもしれない。