小説「息をつめて」感想
桂望実さんの「息をつめて」という小説を読みました。
読みやすく流れるような文体の裏に、砂袋のような重たいテーマが隠されていたストーリーだと思いました。
入り込んでしまったのか、時折呼吸が浅くなっている自分に気が付きます。
主人公は51歳の女性。
タイトル通り、世間から身を隠し息を殺すような日々を送っています。
何故なら、彼女は犯罪加害者の家族だから。
どこにでもいるような平凡な家族として過ごしてきたはずなのに、とある事件から彼女の生活は一変します。
元居た場所にこれ以上住むことが出来ず、職と住居を転々とし、誰にも素性を明かさず静かに一人暮らしても何故かマスコミに住所を突き止められ、再び新天地を探すというその繰り返しの日々。
そうしているうちにも、家族の出所日が徐々に迫ってきています。
また一緒に暮らせるのだろうか、という疑問を持ちながら。
時折差し込まれる回想シーンでは、幸せだった時もあれば、何かの前触れを思わせるところもあります。
違和感を覚え、愛情や教育ではどうにもならないと気づき、周りに助けを求めるもののやんわりと返されてしまった瞬間。
友達や親にも言えないような悩みを抱えてしまい、孤独を感じながらもどうにかせねばとする主人公の気持ちを思えば切なくなってしまいました。
家族の問題は本来家族全員で考えるべきなのに、現実は女性にばかり負担がいくものです。
最後に彼女はとある決断を下すのですが、まさにそれが情報社会の現代の恩恵という感じでした。
情報というものに実質助けられることも、せめて心が軽くなることもありますからね。
問題を抱えた家族がいる時、やはり自分の血を引いているからと責任を全うしようとする場合もあれば、最後の砦として専門家の門を叩く、というケースもあると思います。
しかしそれ以前の社会で、同じような立場の人はどうされていたのだろう、そして気持ちをどう持ち続けていたのかが気になりました。
彼女が最初に違和感を覚え行動を起こした時は、おそらくですけど多分10年以上も前。
社会の、家族問題に対する意識や対処方もやはり時代と共に進むのかなと思いました。
個の時代が叫ばれる現代ですが、いつの時代でも成人した家族とはどこまで繋がるか、どこで線引きをするのか、と最終的に決めるのは人それぞれだと思います。
ましてや何か抱える身内がいれば、最善とまではいかなくても、せめて緩やかな流れに持っていきたい、と思うのではないでしょうか。
生きているのは自分と家族だけではない、大勢の生活がある社会に迷惑をかけたくないと切実に願うのなら。
本を閉じた後も、色んな考えを巡らせられる一冊でした。