本日の「読了」──その矛先は
安田浩一 安田菜津紀『外国人差別の現場』(朝日選書 2022)
ヤン ヨンヒ『兄 かぞくのくに』(小学館 2012)
哀しくなる読書というものがある。この二冊はどちらもその系統。
前書はタイトルからわかるとおりの内容で、入管と研修生(技能実習生)を主として扱ったノンフィクション。
後者は、最近知人がSNSで紹介していたドキュメンタリー(ETV特集「オモニの島 わたしの故郷〜映画監督・ヤンヨンヒ〜」)で著者を知って手にした。朝鮮半島(正確には済州島)出身者の両親を持つ著者の3人の兄(帰国事業で北朝鮮に“帰国”した)をめぐる物語である。
差別は厄介だ。そして御し難い。
個人のそれは、個人が非難され、社会的に制裁されればすむことなのだが、官許官製のそれはどうしたらよいのか、途方に暮れる。
読書で知るとその怒りの矛先は最終的に自分に向けることになるのだから、できれば避けて通りたい。
いままさにフィリピンの入管施設が話題になっている。ニュースで報じられるその緩さは驚くばかりだが、すくなくとも、施設職員に殺されることはないだろうし、送還に際しても、フィリピン国内事件で提訴されている人間に関しては、司法が送還に介入してくる点は素晴らしいとさえ思った。
格差や傾斜のない社会は存在しない。存在しないがゆえに、傾斜を緩和し、格差を小さくする制度をデフォルトで社会に組み込んでおく必要がある。
この二冊を読むと、わたしたちの国はいまあらたな「歴史認識問題」を醸成しているようにしか思えない。
人権主義か反人権かで敵味方を判別する世界に生き、そして「多様性を尊重し、包摂的な社会を実現していく」という首相を戴くいま読むと、“差別”について、より多面的複眼的に考える一助になるかもしれない。
[2023.02.09. ぶんろく]