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ボーの奇妙な冒険『ボーはおそれている』【映画レビュー】
★★★★☆
鑑賞日:2月18日
劇場:MOVIX三好
監督:アリ・アスター
出演:ホアキン・フェニックス
短編映画『Beau』
アスターが2011年に発表した7分の短編映画『Beau』が『ボーはおそれている』の出発点であり、ベースとなっている。同作は神経症の中年男性が母親に会うための旅に出ようとするが、部屋の鍵が何者かに盗まれるなど予期せぬ出来事に次々と見舞われる、という不条理コメディだ。
アリ・アスター監督長編映画3作目
『ヘレディタリー/継承』(2018)『ミッドサマー』(2019)と同様
今作も「家族」の物語となっていた
『ヘレディタリー/継承』
監督自身と家族に起きた辛い体験を癒すために作った 私的セラピーな家族崩壊物語
『ミッドサマー』
一家心中のトラウマを抱えた主人公が 旅先の白夜のホルガ村で新たな家族を手に入れる物語
「家族」の持つ呪縛性 閉塞性 運命共同体であり 逃れがたい存在
「ひとの家庭に首を突っ込むな」「家族のことは家族にしかわからない」という暗黙の秘匿性
そこから生み出される不協和音をアリ・アスター監督はさらけ出してくる
至極私的な パーソナル映画として鑑賞
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<ネタバレあり>
様々な家族 コミュニティーのカタチ
4つのパートに分かれている
●ボーの住むヤバい輩の町(コミュニティー)
一番好きなパート おそらくはオーバードーズによる幻覚症状と現実が混ざり合った世界 日常の中で起こる不条理な出来事からの脱出
水を求めて部屋を飛び出してからの流れが秀逸 輩具合も最高
●亡くなった息子を溺愛し 実の娘よりも他人のボーに愛を注ぐ家族
外から見えるはリッチで人格者で幸せな家族 しかし他者には分からない内輪の狂気 未来をも録画されているデビッド・リンチ的な闇 インキがぶ飲みはカオス
●森の中のコミュニティー
実写とアニメで描かれる別世界で ボーは3人の子を持つ父親 安住の地を見つけたかに見えたが「僕たちはどうして生まれたの?」とオチが付き 再三の逃亡
●実家
命からがらたどり着き 家族の秘密が明らかになっていく
狂気の塩梅が良く 時間の長さを感じさせない
J・ヒューズ監督のロードムービー傑作コメディ『大災難P.T.A.』(1987)
(S・マーティン&J・キャンディ最高!K・ベーコンもカメオ出演)に
匹敵するスピーディな展開 ロードムービーとしても楽しめた
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ほとんどはボーの視点で描かれるが
その実
TVショーの巨大セットで生活する『トゥルーマン・ショー』(1998)の主人公のように
ボーは母親の創り上げた世界の中で生きている
オープニングクレジットに見慣れぬ「MW」のロゴ
ボーだけでなくこの映画全体がモナ・ワッサーマン(MW:母親)の掌の上ってことなのだろう
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出産の苦しみを与えた夫への恨みが具現化したアレの怪物が登場で最高潮に
屋根裏のシーンは『ヘレディタリー/継承』のクライマックスを思い出した
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物語のラスト ボーは ボートに乗って母親の胎内へ還ってゆく
裁判ののち羊水に沈むボーはまた オープニングの出産シーンへと戻っていくのかもしれない
終わりなきループ 母親からは逃れられない
(聖域として)母の愛は無償のはずだが
モナはしっかり見返りを求めている
モナにとってはハッピーなエンディングであろう
独占欲 支配欲の塊で毒親 しかもメンヘラで
『ヘレディタリー/継承』でもみられた歪な または赤裸々な愛の表現
相変わらず 触れられたくない奥底の柔らかな部分を刺激してくる
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かつて雑誌「映画秘宝」(合同会社秘宝新社の編集発行で復活/インタビュー:町山智浩)の中でアリ・アスター監督は
「僕は映画のなかで起こることはまず文字通りに受け取ってほしい。同時にメタファーとしても理解してほしい」と話していた
また「ユーモアのセンスが歪んでいる」とも
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グラフィックデザイナーの大島依提亜がデザインしたポストカード
素敵だ
まだまだ考察が必要だが ホアキン・フェニックスの怪演だけでも一見の価値ありだ
次回作も過去3作と同様A24が製作で
タイトル『Eddington』(エディントン)という西部劇 と発表あり
COVIDパンデミック下の架空の鉱山町を舞台にしたウェスタン・ノワール
そして再び主演はホアキン・フェニックス
どんなクセツヨな西部劇をみせてくれるか 楽しみだ
(text by 電気羊は夢を見た)