リンチとヴィル、ときどきホドロフスキー『DUNE』新旧比較してみた。
『デューン』とは
原作はフランク・ハーバートの「Dune」で1965年から20年間にわたって書き続けられてきたSF古典。ヒューゴー賞、ネビュラ賞を受賞している。1965年に発表された『デューン/砂の惑星』は、1971年以降複数の映画製作者が映画化の権利を所有するなど何度も映画化が試みられたが、物語の複雑さ重厚さにより映像化が困難な小説とされていた。
映画『デューン/砂の惑星』あれこれ
人類が宇宙で新たな帝国を築いた10190年、辺境にある砂漠の惑星アラキス、通称「デューン(砂丘)」を舞台にしたSF超大作。アラキスで採取される稀少な資源、香料(メランジ)を巡り様々な勢力の争いを描く壮大な物語。
ヴィルヌーヴ版とリンチ版
デイヴィッド・リンチ版『デューン/砂の惑星(1984)』の物語を
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督はPart1&Part2 2本でじっくりと壮大に描き出した印象だ。原作未読のため細かなところは分からないが、この2作品においては物語の大筋は同じである。
■ヴィルヌーヴ版『DUNE/デューン 砂の惑星』(2021年・米)155分
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:ティモシー・シャラメ
■ヴィルヌーヴ版『DUNE/デューン 砂の惑星PART2』(2024年・米)166分
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:ティモシー・シャラメ
ヴィルヌーヴ監督の引きで魅せる美しい画が好き。独特な効果音、理にかなったアクション、スタイリッシュなデザイン。何よりPART1&2合わせて約5時間半の時間をかけて丁寧に物語を描き没入感が凄い。
『ブレードランナー2049 (2017)』しかり、元映画に対するリスペクトを感じる。
■リンチ版『デューン/砂の惑星』(1984年・米)137分
監督:デイヴィッド・リンチ
出演:カイル・マクラクラン
音楽:ブライアン・イーノ、TOTO
リンチ版は様々な事情もあって詰め込み過ぎな印象だ。ラフカットの時点では4時間超えで、今なら前・後編の2つに分けるところだろうが、当時その発想はなかったのか編集で半分の尺にしてしまった。しかもリンチ監督はファイナル・カットの権利を与えられておらず、納得のいかない仕上がりのまま公開に至った。
今となってはカルト的な人気を誇るリンチ版であるが、公開当時は散々な評価だった。公開前は「スクリーン」「ロードショー」等々映画雑誌でも大々的に紹介されていたが、その後はスティングのことばかりで…確かにかっこよく見所のひとつではあるのだが。とはいえリンチ監督の”変態”な片鱗は随所に見ることができる。ハルコネン男爵の容姿やナビゲーターの造形などリンチ節が発揮されている。様々な大人の事情がある中、もがき苦しみ難産の末産み落とされた本作は、簡単に’’失敗作’’と断じ切れない、不思議な魅力にあふれている。大好きな監督の大好きな作品だ。
本作の撮影前には、ジョージ・ルーカスから『スター・ウォーズ /ジェダイの帰還(1983)』の監督オファーがあったようだが、リンチ監督はそれをきっぱりと断っている。
そして『デューン/砂の惑星』を知るうえで
ドキュメンタリー映画『ホドロフスキーのDUNE(2013)』
は外せない。
■ドキュメンタリー映画『ホドロフスキーのDUNE』(2013年・米)
監督:フランク・パヴィッチ
出演:アレハンドロ・ホドロフスキー
ミシェル・セドゥー
H.R.ギーガー
クリス・フォス
1965年に発表された『デューン砂の惑星』は、1971年以降複数の映画製作者が映画化の権利を所有するなど何度も映画化が試みられたが、物語の複雑さ重厚さにより映像化が困難な小説とされていた。
70年代に制作に着手していたのは、あの『エル・トポ(1970)』、『ホーリー・マウンテン(1973)』を撮ったアレハンドロ・ホドロフスキー監督。
メランジ=麻薬と捉え、ウィリアム・バロウズらに代表される60年代ドラッグ・カルチャーを背景に「デューン」世界をサイケデリックなトリップ映画として撮ろうとしていたのか。
ホドロフスキー監督は、オーソン・ウェルズ、グロリア・スワンソン、デビッド・キャラダイン、ミック・ジャガー、さらにはシュルレアリストであるサルバドール・ダリまでも出演(1分10万ドルを支払う契約だったとか?)させ、ダリ作「燃えるキリン」を作中に登場させるつもりでいた。音楽はピンク・フロイド、デザインにはジャン・ジロー(メビウス)やH・R・ギーガーを起用する予定であった。
12時間に及ぶ映画作品を構想していたのだが、残念ながらこのプロジェクトは最終的に頓挫してしまう。このドキュメンタリー映画で、どのような作品になっていたかを垣間見ることができる。
実現していれば間違いなく伝説になっていただろう(名作かは別として)。完成形を観てみたかった。
撮れなくなってしまったホドロフスキー監督が、撮ることが出来たリンチ監督の『デューン/砂の惑星』を劇場へ観に行くのだが、
映画が始まった時は悔しくて泣き出しそうだったのに、観ていく内に段々と元気が湧いてきて、ついには あまりのひどさに嬉しくなったと。「大失敗だ!」と無邪気に言い放つ、ホドロフスキー監督いいね。
●ミシェル・セドゥ=プロデューサー(女優レア・セドゥの大叔父)
●オーソン・ウェルズ=ハルコンネン男爵役
●ブロンティス・ホドロフスキー(『エル・トポ』にも出演、監督の息子)=ポール・アトレイデス役
●ミック・ジャガー=フェイド・ラウサ・ハルコンネン役
●サルバドール・ダリ=シャッダム四世役
●アマンダ・リア(ダリの当時の愛人)=皇女イルーラン役
●シャーロット・ランプリング=レディ・ジェシカ役
●H・R・ギーガー=建造物デザイン
●ジャン・ジロー(メビウス)=キャラクター・衣装デザイン、絵コンテ
●クリス・フォス=宇宙船デザイン
●ダン・オバノン=特殊効果
●ピンクフロイド=音楽
なんと豪華か。
「しかし、その企画は 撮影を前に頓挫した」
ホドロフスキー監督のその後は、
ジャン・ジロー(メビウス)と手を組み、主に漫画原作者として活躍。
中でも『アンカル』(1981年発表)は、日本の漫画家たちにも多大な影響を与えた。一方で『O嬢の物語』の映画化やジョン・レノンとオノヨーコを主演にした『指輪物語』などを企画したが、いずれも製作には至らなかった。1989年には初めて商業映画を意識して製作した『サンタ・サングレ/聖なる血』を発表した。
2013年には35年ぶりに再会したプロデューサーのミシェル・セドゥと『リアリティのダンス』を発表。ホドロフスキーの少年期を題材にした、自伝的な映画だ。
余談だが、
宇川直宏氏主催のライヴ・ストリーミング番組DOMMUNEにて
「アートとは何か」という質問に、
ホドロフスキー監督は「アートは、光る虫を飲み込んだカエルが出す、光るウ■■である。ウ■■が豊かな土壌を作るかもしれないから、種を撒き続ければいい」という主旨の回答をしている。(2014年4月)
リドリー・スコット監督も
ホドロフスキー監督の企画が消滅したあと、リンチ監督の前に白羽の矢が立ったのは、『デュエリスト/決闘者(1977)』で華々しいデビューを飾ったばかりのリドリー・スコット監督だった。
製作に1年ほど取り組んでいたのだが、身内に不幸があり、プロジェクトから早々と降板してしまう。
その頃スコット監督は、公開されたばかりの『スター・ウォーズ(1977)』を初週に鑑賞し衝撃を受けている。そこにはまさに彼が撮りたいと思っていた映像表現が存在していたためで、同作を絶賛しつつも、ジョージ・ルーカスに先を越されたことに強い挫折感を味わっていた。
その後、スコット監督のもと、ダン・オバノン(ホドロフスキーの企画では特殊効果を担当)が脚本を書き、H・R・ギーガーがデザインを担当して、名作『エイリアン(1979)』が完成、思いを結実させた。
『デューン/砂の惑星』はその後、
1988年 「TV放映長尺版」として未公開シーンを多数追加し、上映時間が189分と長くなったテレビ放映用の再編集版が製作された。まとまりのない構成はある程度改善されたが編集権のトラブルから監督はアラン・スミシー名義※となっている。これは日本では『デューン/スーパープレミアム・砂の惑星・特別篇』のタイトルでビデオ発売された。
2000年 SFチャンネル上で、3部構成のテレビシリーズとして放映。
●アレック・ニューマン=ポール・アトレイデス役
●ウィリアム・ハート=レト・アトレイデス公爵役
●サスキア・リーヴス=レディ・ジェシカ役
このミニシリーズは、原作小説をより忠実に再現したものとして広く賞賛された。
2003年 シリーズ小説の2作目と3作目を映像化した『デューン/砂の惑星II』というミニシリーズが放映された。
ドゥニ・ヴィルヌーヴが製作する『デューン/砂の惑星』は通算5度目の映像化作品となる。
ブトレリアン・ジハド
前史として
「デューン」世界は前史として人工知能と人類の間で全面戦争(ブトレリアン・ジハド)が行われたという設定があり、コンピュータのような高度な思考する機械を作ることが禁止となる。
よってコンピュータは存在せず、コンピュータと同様の高度な能力を持つ特別な人間を養成すべく、宇宙の各地に訓練学校が設立。しかし多くの学校は成果を残せず閉鎖されていったが、それでも後の宇宙に大きな力を及ぼすことになる二つの勢力を生んだ。
神秘主義的な女性修道会「ベネ・ゲセリット」と
宇宙の富を一手に握る「スペース・ギルド」である。(後述)
そして二大勢力に必要不可欠なものが
惑星アラキスでのみ採掘できる「スパイス(メランジ)」である。
人工知能との戦争であるブトレリアン・ジハドを鎮圧して、中世風の特異な精神世界を作り上げた人間は、宇宙帝国を築き世界を支配していたが、超能力をもつ女性修道会ベネ・ゲセリットや、純粋数学とメランジの力で恒星間飛行能力を持ったスペース・ギルドなどの勢力が台頭し決して安泰ではなかった。
キャラクター紹介(リンチ版、ヴィルヌーヴ版比較)
アトレイデス家:惑星カラダン
豊かな海洋を持つ惑星カラダンを統治する公家。血筋は由緒あるもので、古代ギリシャのアトレウス王家まで遡ることができる。 帝国でも主要な大公家(ハウス・メジャー)で、その名は正義と高潔をもって知られる。ハルコンネン家は不倶戴天の敵。
■ポール・アトレイデス
主人公。アトレイデス公爵家の後継者。
ベネ・ゲセリットにより遺伝子交配によって時間と空間を超越する究極的な人間クイサッツ・ハデラッハと成るべく産まれてきた存在。“未来が視える”能力を持つ。その出自や特殊能力から帝国の陰謀に巻き込まれていく。
リンチ版演じるはカイル・マクラクラン(声に出して言いたくなる名前No.1)
デビュー作。のちにリンチ作品『ブルーベルベット(1986)』、TVシリーズ『ツイン・ピークス(1990-1991)』でブレイク。やはりクーパー捜査官の印象が強い。
こちらのポールは、貴公子然とした、正統派な好青年のイメージだ。
一方ヴィルヌーヴ版演じるはノリに乗っている、みんなの王子ティモシー・シャラメ。
こちらのポールは線が細く中性的でまだ思春期を引きずっているかのような幼さが残る。これが後半のギャップとなってより救世主感が増している。
まだ若いが下積み経験もしており、マーベル作品『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ(2016)』ではスパイダーマン役に挑んだがトム・ホランドに惜敗している。
リンチ版ポールは救世主に成るべく、迷いなく突き進んでいくが、
ヴィルヌーヴ版ポールはゆらぎ、抗い、迷いながら革命家へと成長していく。
■レト・アトレイデス
ポールの父であり、帝国の大領主アトレイデス家の当主。
豊かな空と水を持つ惑星カラダンを治めている。
物静かだが威厳ある人物で、統率力も高く家臣や民衆からの人望も厚い。
リンチ版ユルゲン・ポロホノフは『U・ボート(1981)』の艦長役が有名か。シュワちゃんの前にターミネーター役を推されていたとか。
ヴィルヌーヴ版オスカー・アイザックは新『スター・ウォーズ』シリーズのポー・ダメロン役が有名。個人的には『エクス・マキナ(2015)』が好き。
両者ともレトのイメージに大きな違いはなく、”物静かだが威厳ある人物”をうまく演じている。
■レディ・ジェシカ
ヒロイン。ポールの母であり レト公爵の愛妾であり 女性修道会ベネ・ゲゼリットのメンバー。ベネ・ゲセリットの教育を受けており超能力や格闘術の達人でもある。
ヴォイス(声)はベネ・ゲセリットの技で、声の出し方で相手の行動を意思に反して操ることができる。『スター・ウォーズ』でジェダイが声で行動を操ることができるのは「デューン」の影響。
ベネ・ゲセリットの策略のため女の子を産めと指示されたが、レトの要望を優先して男の子ポールを出産した。
PART2で本人も知らないジェシカの出自が明らかに。
ヴィルヌーヴ版レベッカ・ファーガソンは『ミッション:インポッシブル』シリーズ、イルサ役で新ヒロインを演じている。『グレイテスト・ショーマン(2017)』ジェニー役も良かった。
ベネ・ゲセリットの意に反し、男児ポールを産み救世主にするべく行動するが、新たに女児(ポールの妹)を身籠っている。ベネ・ゲセリットのメンバーは性別も操作できるから必然の女児である。
さらにフレメンの儀式(「生命の水」を飲むことで祖先の集団意識を受け継ぐ)を経てフレメンの教母となった。
ジェシカは何を企んでいるのか。
■ガーニー・ハレック
アトレイデス家の武術指南役。ダンカンがアラキスへの先遣隊に選ばれた関係で、彼に代わってポールを鍛錬する。
リンチ版パトリック ・スチュワートは軍師なイメージ。
『X-MEN』プロフェッサーX、新『スター・トレック』ピカード艦長が有名。
ヴィルヌーヴ版ジョシュ・ブローリンは武闘派なイメージ。敵の攻撃を受けた際は、先陣を切って部下を率いる勇猛果敢な武闘派ボス。
『アべンジャーズ』サノスが有名。ヴィルヌーヴ監督『ボーダーライン(2015)』に出演、おススメ映画。スティルガー役ハビエル・バルデムとはコーエン監督『ノーカントリー(2007)』で共演、こちらもおススメ。
ポールとガーニーの特訓シーン:シールド
この世界では、戦闘員は常に携帯型のシールド発生装置を身につけている。スイッチひとつで起動して全身を力場で覆い、速度の遅い攻撃しか通さなくなる。
■ダンカン・アイダホ
アトレイデス家のもう1人の武術指南役で、敏腕の飛行士。ポール、レトからの信頼が厚く、彼らに先駆けて新たな領土であるアラキスに派遣され、
砂漠の民フレメンとアトレイデス家の仲介役を務める。
リンチ版リチャード・ジョーダン、出番少なく目立つことなく散っていった。『摩天楼はバラ色に(1987)』の社長が有名か。
打って変わって
ヴィルヌーヴ版ジェイソン・モモアは見せ場が盛り沢山だ。最後までアトレイデス家に尽くし散っていく。イメージもワイルドになりカッコよかった。さすがの『アクアマン(2018)』だ。PART1で退場となったが、今後再登場があるかも?
■スフィル・ハワト
スフィル・ハワトは3代に渡って仕えているアトレイデス家の護衛責任者かつメンタート(人間コンピュータ)。アトレイデス家を外敵から守るセキュリティの全般を担当。
メンタート(人間コンピュータ)
人工知能との戦争(ブトレリアン・ジハド)以降、人工知能の代わりとして開発され「最高の論理計算ができるように訓練された帝国市民の階級」を指す。メンタートは、サフォの果汁をとることでその計算能力を高めることができサフォの中毒者は、「唇が赤く染まる」という特徴を示す。
リンチ版フレディ・ジョーンズは、リンチ監督『エレファントマン(1981)』『ワイルド・アット・ハート(1990)』に出演。
ヴィルヌーヴ版スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソンは、アリ・アスター監督最新作『ボーはおそれている(2023)』でセラピストを演じている。
リンチ版のメンタートは ’’ワインの染みのように’’ 下唇が赤く染まると言っていたが、ヴィルヌーヴ版では下唇の一部分に小さな染みが出来ている。
ハルコネン家に仕えるパイター・ド・ブリース(後述)もメンタートだ。
■ユエ(ウェリントン・ユエ)
アトレイデス家の医師。
患者に触れるだけで病気やバイタルまで感知できる高い医療技術を持っている。アトレイデス家からの信頼は厚い。額の印は信頼の証。
ポールの予知夢の事を知っており、彼を精神面・肉体面の両方でサポートする。妻がいるのだが…。
リンチ版ディーン・ストックウェルは、リンチ監督『ブルーベルベット(1986)』の“粋なオカマ” ベン役で印象を残す。
ヴィルヌーヴ版チャン・チェンは台湾出身。
冷静沈着で腹に一物持ったキャラクターだが、東洋人に変更したことで、より妖しさが増した。
■アリア(エイリア)・アトレイデス
リンチ版では、成長が早くクライマックスでは大活躍をみせる。頼りになるポールの妹だ。見た目かわいいが、かなり冷酷だ。笑顔で?ハルコネン男爵にとどめを刺しますから。ポール曰く「アリアは嵐のようだ」と。
演じるアリシア・ウィットは、当時8、9歳だと思われるがもっと幼く見える。のちにリンチ監督TVドラマ『ツインピークス(1990-)』にドナ(ララ・フリン・ボイル)の妹ガーステン役でゲスト出演する。
ヴィルヌーヴ版アニャ・テイラー=ジョイはラストにチラッと登場。PART3があるということか。
リンチ版との違いは”まだ生まれていない”というところ。胎児のままジェシカに進言したりする。今後かなりのキーパーソンになるであろう人物。
PART3での活躍より先に『マッドマックス 怒りのデス・ロード(2015)』スピンオフ映画フュリオサの前日譚『マッドマックス:フュリオサ』(24年5月31日公開予定)で主人公のフュリオサを演じる。必見だ。
ハルコネン家:惑星ジエディ・プライム
蛇遣い座B星の第3惑星ジエディ・プライムを故郷とする公家。人間狩りなどの悪徳・暴虐で知られる。アラキスを準領土としていたが、その暴政によって原住民フレメンからは憎悪されている。 コリノ皇家とは皇帝登極以前からの盟友であり、謀略面を担当していた。アトレイデス家とは根本から相性が悪く、およそ100年にも渡る血みどろの闘争を続けてきた歴史をもつ。
ハルコンネン男爵のあくなき富への追求のため、ジエディ・プライムは全表面が工業化され、汚染されておりスモッグにより太陽が遮られ、陽に当たらないために、住人達の肌は白く、眉も頭髪も失っている。
■ハルコネン男爵(ウラディミール・ハルコンネン)
ハルコンネン家の当主。アトレイデス家の壊滅を狙っている。
極度の肥満で、重力中和装置で常に浮かんでいる。
リンチ版では、リンチ監督の悪趣味全開で 醜悪な皮膚病を患った容姿で不気味なハルコネン男爵を表現。醜く、性格も陰険だ。奴隷の生血を啜る趣味があり、奴隷たちが生贄にされている。
一方で興奮するとスーツを膨らませて浮き上がり飛び回るというコミカルな部分もあり面白い。皇帝曰く「空飛ぶデブ」。
ヴィルヌーヴ版ステラン・スカルスガルドは『マイティ・ソー』の教授役が有名か。こちらはボス感が増して、見た目も貫禄がある。最大7時間掛けて特殊メイクを施したらしい。
■(グロッス・)ラッバーン・ハルコンネン
ハルコンネン男爵の甥。残虐な性格を持っている。アトレイデス家壊滅後のカラダンの統治を任された。
リンチ版ポール・L・スミスは、使えない甥をいいバカさ加減でうまく演じていた。実写映画『ポパイ(1980)』でロビン・ウィリアムズ演じるポパイとオリーブを取り合うブルート(ブルータス)役を覚えている。
ヴィルヌーヴ版デイヴ・バウティスタは、俳優兼元プロレスラー(2019年引退)。ヴィルヌーヴ監督『ブレードランナー2049(2017)』に続いての出演。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズのドラックス役が有名。’’脳みそ筋肉’’ 系がうまい。
■フェイド=ラウサ・ハルコンネン
アラキスで後を継ぐ予定の、ハルコンネン男爵の若き甥。
ポールとのタイマンは最大の見せ場だ。
ハルコンネン男爵は、ラッバーンをアラキス統治に送り込むが、後継者にはもう一人の甥であるラウサの方がふさわしいと考え、ラッバーンにアラキスで圧政をさせた上で、救世主としてラウサを送り込みラッバーンを討たせようと企てる。
リンチ版はバンド「ポリス」のベース兼ボーカルのスティング。
『さらば青春の光(1979)』のエース、『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ(1998)』JDなど音楽だけでなく俳優としても活躍。
ポリス結成以前のライブなどで、蜂を連想させる黄色と黒の縞の上着を愛用していたことからスティング(sting=「ちくりと刺す」の意味)と呼ばれるようになった。 出番は少ないが心に残る名場面を演じた。やんちゃな感じがカッコよかった。
ヴィルヌーヴ版オースティン・バトラーは、ハルコネン一派の残虐さが際立つ狂人ラウサとなり、PART2に登場。スティングとは真逆のアプローチ、容姿からヤバイ。
バトラーは『エルヴィス(2022)』の熱演が記憶に新しい。
■パイター・ド・ブリース
メンタート(人間コンピュータ)で、ハルコネン家に仕えている。
リンチ版ブラッド・ドゥーリフは『チャイルド・プレイ』シリーズで人形チャッキーの声を演じている。女優のフィオナ・ドゥーリフは娘。
ヴィルヌーヴ版デヴィッド・ダストマルチャンはヴィルヌーヴ監督『ブレードランナー2049(2017)』、同『プリズナーズ(2013)』では気持ち悪い容疑者を演じていた。『アントマン』シリーズのカート役が有名か。C・ノーラン監督最新作『オッペンハイマー(2023)』にも出演。
■リエト・カインズ
帝国の監察官と、フレメンが惑星環境を改善する上でのリーダーと、2つの顔を持ってる。リエトはフレメンの一人としてリサン・アル=ガイブの伝説を信じているが、同時に皇帝の配下でもあり、アトレイデスの転封を見届けて皇帝に報告することを命じられていた。また、ハルコンネンと皇帝の陰謀に関しても、傍観するよう命令されていた。
リンチ版マックス・フォン・シドー(2020年没・90歳)は『エクソシスト(1973)』のメリン神父が有名。
ヴィルヌーヴ版ではシャロン・ダンカン=ブルースターが女性のリエト・カインズを演じている。ポールとジェシカの脱出を手助けするが…。
リンチ版は、原作通り男性のリエト・カインズだが、
ヴィルヌーヴ版では女性に変更された。劇中では触れられていないが
チャニはリエト・カインズの娘である。
フレメン(砂漠の民):砂漠の惑星アラキス
アラキスの原住民。「砂漠の民」。人間の生存は不可能とされるアラキス奥地の砂漠に、惑星の生態に適応した生活パターンによって居住している。 水を何よりも重要視する特異な信仰を持ち、いつの日か外世界から救世主(リサン・アル=ガイブ )が現れ、アラキスを緑の星に変えてくれると信じる。
スパイスの影響でフレメンの目は青い(イバードの目)。
惑星アラキス
カノープスの第3惑星。デューン(砂丘)の名で知られる「砂の惑星」。
2つの月を持つ。惑星全土に渡って水分が乏しく、深砂漠には巨大な「砂虫(サンドワーム)」が棲息し、肉を骨から剥がし巨大宇宙船すら破壊する暴風「コリオリの嵐」が吹き荒れる、過酷な環境をしている。
映画の重要な舞台。サンドワームがスパイスを生み出し、スパイスはクイサッツ・ハデラッハの誕生に必要不可欠。
砂虫:サンドワーム(シャイ・フルド、メイカー)
フレメンの間で、サンドワームはシャイ・フルド(Shai-Hulud)と呼ばれ、「砂漠の老人」「砂漠の祖父」「永遠の父」などを意味する。
また、’’メイカー’’ とも呼ばれる。
サンドワームはアラキス固有の生物で、広大な砂漠を支配している。
非常に大きなサイズに成長し、最大の長さは450メートル。南極地域には、700から1000メートルサイズのワームが存在するとも噂されている。
寿命は長く、仲間に殺されるか水で溺れるかしない限り、非常に長い年月を生き続ける。強烈なスパイスの香り(シナモンの香り?)を発している。
砂の中を移動する時に強い震動を生み出し、砂を液状化して、その中を進んでいく。そのため、サンドワームが近くにいると砂漠は海のように液体と化し、そこに立つ人々は砂の中へと飲み込まれてしまう。
サンドワームはアラキスの砂漠という環境を使ってスパイスを生み出し、スパイスは人類の進化と、それに伴うアラキスの緑化をもたらすとされる。
しかしアラキスが緑化されれば、水を弱点とするサンドワームは死に絶え、スパイスも失われることになる。
リトル・メーカー
サンドワームになる前の段階の植物と動物の中間の生物。リトル・メーカーの分泌物がスパイス(メランジ)の原料となる。
リトル・メーカーからサンドワームが生まれ、サンドワームは砂漠にスパイスを撒き散らし、それを餌にしたサンド・プランクトンと呼ばれる微生物がサンドワームの餌だ。そしてこのサンド・プランクトンが成長し地中に潜伏してリトル・メーカーになる、という循環になっている。
スパイス(メランジ:香料)
コンピュータが禁止された「デューン」世界で極めて重要な物質。
見た目は鮮やかなオレンジ色の粉で、強いシナモンに似た香りを放つ。
ギルドのナビゲート能力、ベネ・ゲセリットの超能力などはスパイスに依存している。また「クイサッツ・ハデラッハ」や「生命の水」等、物語を語る上で欠かせない ''麻薬’’である。「メランジ」とも呼ぶ。
「スパイスを制する者が 全宇宙をも制する」
「宇宙で最も貴重な物質」とまで言われる物質であり、宇宙各地で高値で取引されている。 その理由として は不老長寿や、人類の意識を拡張させ、超能力的な感覚を高める効能があるため。他にも宇宙航海に使用されており、「デューン」世界では無くてはならない貴重な資源となっている。
スパイス(メランジ)を唯一採取できるのは、サンドワームが生息する惑星アラキスであり、帝国の有力者たちがアラキスに入植する理由となっている。
スパイスが生じる過程にはサンドワームが関与している。
スパイスは惑星アラキスの砂漠でしか採取できない。
スパイスは不老長寿や認知力を高める効果があるが、中毒性が高く摂取には注意が必要。星間飛行をするスペース・ギルドのパイロットは覚醒剤として常用している。スパイスなしに恒星間の移動は不可能である。
更にスパイスの真価は別のところにあり、
精神に作用し、人間の潜在能力を引き出して、「クイサッツ・ハデラッハ」の目覚めを促すとされている。
「生命の水」
水はサンドワームにとっては致命的な影響を与える。水が体内に入ると、サンドワームは苦しみながら死んでしまう。
そしてその時に毒性の高い副産物を排出し、それが「生命の水」となる。
フレメンの教母(宗教的指導者)は、この「生命の水」を飲むことで祖先の集団意識を受け継いだ女性だ。
ジェシカはこの儀式を通過しフレメンの教母となった。
そしてポールは、超人クイサッツ・ハデラッハに進化するために、(男性は耐えられず死に至る可能性が高いとされるが)「生命の水」を飲む選択をする。
「男は失敗して、皆死んだ」とされている。しかしながら「女には…到達できない境地がある」(リンチ版)とも。
スペース・ギルド(宇宙協会)
スペース・ギルドはベネ・ゲセリットに並ぶ、もうひとつの精神肉体訓練学校を起源とする勢力。宇宙旅行、星間輸送、国際間銀行業務を独占し、事実上は皇室をも上回る影響力を持つ。 帝国を支える3つの柱のひとつに数えられる重要な機関。(諸公家を束ねる皇帝、経済を掌握するギルド、宗教的権威であるベネ・ゲセリットの3者は、「デューン」世界を支配する権力構造だ)
その主要な構成員はスパイスの大量摂取によって突然変異した航宙士(ナビゲーター)であり、超光速で航行する宇宙船を安全なルートで導くための予知能力を持っている。ギルドのミュータント化したナビゲーターは、スパイスを服用することによって、宇宙を折り曲げて、「動かずに移動する」ことができる。ギルドが一手に握る恒星間移動の技術は、アラキスのスパイスによるもので、帝国の中でも最もスパイスを多く必要とする勢力である。
モットーは「スパイスを止めるな」
アトレイデス家が惑星アラキスに移封する際もギルドの能力を借りて、アラキスに到達している。
リンチ版では、リンチ監督のこだわりが一番濃く出ているパートだ。
リサン・アル=ガイブ(マフディー):救世主
伝説によれば、「リサン・アル=ガイブは外からやって来る異邦人であり、ベネ・ゲセリットの母を持つ息子」とされる。
しかしこれは、ベネ・ゲセリットの遠大な計画によって、将来において送り込まれる救世主候補者がスムーズに受け入れられるよう、フレメンの間にわざと植えつけた伝説だ。
フレメンの間では、リサン・アル=ガイブは”マフディー”とも呼ばれる。
アラキスの2つの月
アラキスには大小2つの月がある。
大きい方の月はクレルンと呼ばれ、アラキスの地表に対して常に同じ面を向けている。その表面には手形のような模様があり、これは「神の手」と呼ばれている。
小さい方の月はアーヴォンと呼ばれ、表面には砂漠に生息するカンガルーネズミ「ムアドディブ」の形の模様がある。
ムアドディブ(Muad'Dib)
惑星アラキスに生息している、カンガルーネズミの仲間。砂漠で生き延びる能力の高さから、フレメンの間では一目置かれる存在だ。その祖先は地球からアラキスに持ち込まれたとされる。
双子月の小さい方の月(アーヴォン)の表面には「ムアドディブ」の形の模様がある。
フレメンの一員として受け入れられたポールは、「ポール=ムアドディブ」を新たな名前として選んだ。
クリスナイフ
フレメンの神聖なナイフ。サンドワームの歯を加工して作られ、長さ約20センチ。
崇拝の対象であるサンドワームから取り出された神聖な武器であり、物語の中でも重要なアイテムとして登場。
オーニソプター
鳥のように羽ばたいて飛ぶ「鳥型飛行機」(原作より)
鳥というよりトンボをイメージさせるデザインになっている。カッコいい。
垂直離着陸機のように長い滑走路を必要とせず離着陸が可能な上、高速で飛ぶことができる。
アラキスで運用されるオーニソプターは大型7人乗りと、小型2人乗りの2種類がある。
「目玉の部分がコックピットになっていて、翼も羽根のように畳める。ちゃんと高速振動もしていて、とてもよく考えられている。本当に飛べそうですよ。素晴らしい! ’’ああ、これが観たかったんだよなー’’って、惚れ惚れしましたね。」と押井守氏も太鼓判を押している。(「押井守の あの映画のアレ、なんだっけ?」より)
スティルスーツ
アラキスで開発された、砂漠での生存を可能にするスーツ。
砂漠では、スーツなしでは2時間も生きことはできないが、スーツを身につけていれば、何週間か、砂漠で生き延びることが可能になる。
熱を遮断し、体から排泄される水分をろ過して飲料水として再利用、スーツに装備されているキャッチポケット(水を貯えるポケット)から伸びるチューブを使って飲むことができる。鼻のチューブは、鼻呼吸の際に生じるわずかな水分さえも集めて再利用するためのものだ。
スティルスーツの着用にはコツが必要なのだが、ポールは初めてにも拘らずスーツを完璧に着こなし、リエトを驚かせ、フレメンに伝わる伝説のひとつ「その者は、生来行き方を知る」と言わしめる。
リンチ版、ヴィルヌーヴ版共に機能に則ったデザインになっている。
サンパー
あえてサンドワームをおびき寄せるために使用する。地面に挿して一定間隔で振動を送る装置。
リンチ版、ヴィルヌーヴ版とも似た形状だ。
(サンドワームは、音に敏感で一定のリズムの音に反応し向かってくる性質を持っており、サンドウォークと呼ばれる特殊な歩き方をしないと、サンドワームを引き寄せてしまう。)
ハンターシーカー
空中に浮かぶ暗殺装置。ポールの自室にハンターシーカーが侵入、ポールの暗殺を謀る。ハルコンネンが残していった刺客によって遠隔操作されていた。
■チャニ
砂漠の民フレメンの戦士。ポールの予知夢に何度も出てきた美しい女性。ポールと恋仲になるが…。
リンチ版では、時間的制約もあり、ポールと出会ってすぐ恋仲に。しかもあまり出番がなく重要人物度が低かった。
対してヴィルヌーヴ版は、ポールとの関係を丁寧に描けている。
リンチ版ショーン・ヤングは『ブレードランナー(1982)』美しきレプリカント、レイチェル役が有名。残念ながら90年代以降はお騒がせ女優として目立ってしまった。ヴィルヌーヴ監督『ブレードランナー2049 (2017)』でレイチェルはCGにより当時のままの姿で蘇っている。
ヴィルヌーヴ版ゼンデイヤは、トム・ホランド版『スパイダーマン』シリーズのヒロインMJ役で大人気。音楽活動も。レベッカ・ファーガソンとは『グレイテスト・ショーマン(2017)』で共演。
■スティルガー
フレメンの部族リーダー。アラキスの前統治者であるハルコンネンと激しい戦いを繰り広げてきた。仲間やアラキスの自然を守るためには手段を選ばない武骨な戦士。サンドライダー(サンドワームを操縦する技術を持つフレメン)でもある。
皇帝の軍に追われ砂漠に逃げたポールとジェシカに手を差し伸べる。リサン・アル=ガイブの伝説を信じている。
リンチ版スティルガーはリーダー感が薄く、目立たない。
対してヴィルヌーヴ版は、仲間やアラキスの自然を守るためには手段を選ばない武骨な戦士をうまく表現している。
リンチ版エヴェレット・マッギルは、リンチ監督『ツイン・ピークス』でビッグ・エド・ハーリー役を演じる。同『ストレイト・ストーリー(1999)』にも出演。
ヴィルヌーヴ版ハビエル・バルデムは主役でも脇役でも圧倒的な演技で魅せれる稀有な俳優。『ノーカントリー(2007)』のアントン・シガーは圧巻。
奥さんはペネロペ・クルス。第94回アカデミー賞(2021年)では夫婦揃って(主演男優・主演女優)ノミネートされた。ガーニー役ジョシュ・ブローリンとはコーエン監督『ノーカントリー(2007)』で共演。
ベネ・ゲセリット(女性修道会)
女子修道会「べネ・ゲセリット」は、人工知能との戦争であるブトレリアン・ジハド後に創設された精神肉体訓練学校。 銀河系で最も強力な政治勢力で、メンバーたちは精神的な鍛錬などによって超人的な知覚力と身体能力を持ってる。相手を操る声(ヴォイス)など特殊な力を使うことから「魔女」とも呼ばれる。
「クイサッツ・ハデラッハ」という救世主を何世代かかけて出生させようと、繁殖を繰り返す魔女集団。彼女たちは人類の未来をコントロールするために、公家との婚姻に干渉し遺伝子操作。隠されたその目的は、精神力によって空間と時間に橋をかけることができる男性のベネ・ゲセリット「クイサッツ・ハデラッハ」を作り出すこと。ポールの母レディ・ジェシカもべネ・ゲセリットの出身。
また、民衆の間に迷信を広めることを目的としたベネ・ゲセリットの集団を、保護伝道団(ミッショナリア・プロテクティヴァ)と呼ぶ。そこで教え込まれる伝染性のある迷信は"暗いもの"(ダーク・シング)と呼ばれる。
フレメンの間に広まるリサン・アル=ガイブはまさにこれ。
クイサッツ・ハデラッハ(Kwisatz Haderach)
未来をより良いものに導く”救世主”であり、超能力者。「集団記憶によって人類の記憶をすべて保持し、未来を予見する能力」を所有している人物である。「道の短縮」を意味する。
■ガイウス・ヘレン・モヒアム
皇帝シャダム4世に仕える読真師(トゥルースセイヤー)かつベネ・ゲセリットの教母。ジェシカの恩師でもある。
表面上は皇帝の意向に沿って動いているが、同時にベネ・ゲセリットとしての立場でも動いており、世界を一変させる超能力者クイサッツ・ハデラッハの誕生を企てている。帝国内で非常に強い発言権と権力を有している。
ポール・アトレイデスに興味あり。
リンチ版シアン・フィリップスは、1933年ウェールズ出身。王立演劇学校で学び、1977年に英国アカデミー賞主演女優賞(テレビ部門)を受賞。『アラビアのロレンス(1962)』のピーター・オトゥールとの結婚歴あり。
ヴィルヌーヴ版シャーロット・ランプリングは、『愛の嵐(1974)』で裸にサスペンダー、ナチス帽で踊る姿はあまりにも有名。実現されなかったホドロフスキー版では、レディ・ジェシカ役でキャスティングされていた。
双方、ベネ・ゲセリットの怪しさをうまく演じている。
ガイウス・ヘレン・モヒアムは、自分が訓練したジェシカにレト・アトレイデスとの間に娘を産ませ、その娘をフェイド=ラウサ・ハルコンネンと交配させる計画を立てていた。それが、クイサッツ・ハデラッハを生む可能性の高い交配だと思われていたからだ。しかしジェシカは裏切り、レトとの間に男の子を産むことになる。
■レディ・マーゴット(・フェンリング)
ベネ・ゲセリットのメンバー
ガイウス・ヘレン・モヒアムの策略でラウサに接近、彼の子を身籠る。
ジェシカの裏切りがあったためレディ・マーゴットが担うこととなった。
夫であるフェンリング伯爵は登場しない。噂ではティム・ブレイク・ネルソンが演じ、撮影はしたものの時間的制約のため、惜しくも出演シーンが丸々カットされてしまったらしい。どのようなシーンかは言及するに至っていない。
PART2から登場のレア・セドゥ。ベネ・ゲセリットの壮大な計画の一端を担う重要な役どころ。クールな演技で魅せてくれた。『アデル、ブルーは熱い色(2013)』で注目、ダニエル・クレイグ版ボンド『007』シリーズでマドレーヌ・スワン役を好演。
レア・セドゥは美しい女優であるだけでなくフランスの超名門一族(セドゥ一族)に生まれた人物。そして大叔父のミシェル・セドゥはホドロフスキー監督が撮ろうとしていた『DUNE』のプロデューサーだ。それを承知の起用であったのだろうか。縁を感じて感慨深い。
帝国
長きにわたって宇宙を支配する人類の統一政体。
安定した宇宙開拓のため、細かな階級区分※による封建制をとっている。
皇帝をトップとし、その下にある公家が各惑星や恒星系を統治。さらに下位労働者などが、その統治のもとで暮らしている。
現宇宙唯一の皇家であるコリノ皇家(現当主シャッダム・コリノ四世)によって支配されている。皇帝直属の狂信的戦士サーダカーの軍事力を有する。
平民の暮らしは、統治している公家によってかなり違っており、
アトレイデス家は当主レト・アトレイデス公爵の高い統率力、人望の厚さで民衆から敬愛されており幸福度の高い暮らしを実現している。
一方、ハルコンネン家は男爵のあくなき富への追求のため、ジエディ・プライムは全表面が工業化されているため、汚染されスモッグにより太陽が遮られ、陽に当たらないために、住人達の肌は白く、眉も頭髪も失っている。
大公家連合
帝国の星々を統治する事業主一族による組織。
意思決定機関としてランドスラード議会を持つ。名目上は皇帝の支配下にあるものの、実際には皇室のサーダカーと大公家連合、そして宇宙協会ギルドの三勢力がバランスを保つことによって帝国を構成している。各公家もまた核兵器と自動報復システムによって力の均衡を保っている。
サーダカー(Sardaukar)
サーダカーは過酷な環境の中で訓練され、11歳になるまでに13人中6人が死ぬという厳しさの中で鍛えられており、彼らは非情さと、個人的安全への徹底した無関心を教え込まれている。
サーダカーの戦闘力に対抗できるのは、過酷な環境で鍛えられたアラキスのフレメンだけであるとされている。
つまり「デューン」世界の戦力は、惑星の環境の過酷さに比例するものであり、ここにも環境が大きな影響を持つ世界観が見える。
皇帝とハルコンネンの密約により、アトレイデスへの攻撃にサーダカーが加わることが決定された。
■シャッダム四世(大王皇帝)
黄金の獅子の紋章を抱く現宇宙唯一の皇家であるコリノ皇家の現当主(コリノ家の皇帝)第81代「シャッダム・コリノ四世」。
リンチ版ホセ・フェラ―はプエルトリコ出身の名優。『シラノ・ド・ベルジュラック(1950)』でアカデミー賞主演男優賞受賞。息子のミゲル・フェラーは『ツイン・ピークス』に出演している。
ヴィルヌーヴ版クリストファー・ウォーケン、こちらも名優。『ディア・ハンター(1978)』でアカデミー賞助演男優賞受賞。強烈な印象を残す。御年81歳、悪役ぶりは健在だ。
リンチ版では早い段階で登場するが、ヴィルヌーヴ版はPART2からの登場。
■皇女イルーラン
皇帝シャッダム四世の娘。
リンチ版ヴァージニア・マドセンはデニス・ホッパー監督『ホット・スポット(1990)』でジェニコと共演。兄は俳優のマイケル・マドセン。
ヴィルヌーヴ版フローレンス・ピューは引っ張りだこだ。『オッペンハイマー(2023)』での熱演も良かった。だがやはり『ミッドサマー(2019)』のダニーが良きかな。
リンチ版は皇女イルーランの語りから始まる。
ヴィルヌーヴ版冒頭でモノローグを語るのは、
「PART1」では、ゼンデイヤ演じるチャニ。
「PART2」では、フローレンス・ピュー演じる皇女イルーランだ。
『DUNE/デューン 砂の惑星』は、女性の視点で語られる物語。
では「PART3」でモノローグを語るのは誰なのか?
まだ見ぬポールの妹、アリアなのか。
皇帝には男の子がいなかったため(ベネ・ゲセリットの后が優生計画に従って女の子しか産まなかった)、ラストでポールはイルーランと政略結婚して皇帝になると宣言する。
チャニは大いに落胆し、大領家連合もポールの皇帝就任を拒否し、攻め寄せてくる。
ポールが夢で見た“聖戦” が現実になろうとしている。
PART3に続くか。
リンチ版ではラスト 雨が降らないアラキスに雨が降る。
「彼こそクイザッツ・ハデラッハ!」とアリアが高らかに叫んで終幕。
エンド・クレジットで流れるTOTOの曲が印象的だ。
ヴィルヌーヴ版をTOTOスタイル(リンチ版風)で。by Tykjen - Redux
願わくば、ホドロフスキー監督の感想も聞いてみたいw
「PART3」について
舞台となる砂の惑星アラキスには、まだ探求すべきことがたくさんあるが、『デューン砂の惑星』に続く小説『デューン 砂漠の救世主』に向けて、あらゆる伏線が張られており、監督はすでに次回作の映画化に向けて脚本を書き始めているよう。原作は全6作のシリーズとなっており、さらにこの宇宙を舞台とした作品はこのほかに10冊以上ある。しかし、知的財産(IP)を活用したハリウッドの映画制作が活況を呈し、動画配信サービス「Max」がすでに2024年内に本作のスピンオフシリーズの配信を予定しているなか、監督が“シリーズ化を望んでいない”というので驚きだ。とはいえ、ポールの成長と没落を描いた3作目に関しては、制作意欲がある模様。(from ELLE US)
脚本家のジョン・スペイツは「ドゥニは(『砂漠の救世主』を)3部作の完結編として映画化することを真剣に考えている」と語り、来たる『Dune: Part Two』に“その後の展開”を予感させる内容が含まれていることを認めた。
「原作小説と同じく、2作目の結末は非常に満足できるエンディングになります。しかし、その中にも未来につながる要素はありますし、まだ実現していない展開も示唆しています。小説にも不吉な予感があるように、まだ起きていないことの前触れが入っているわけです。」
『砂漠の救世主』の魅力は「ある意味で前作(『砂の惑星』)を脱構築しながら、しかし前作以上に警鐘を鳴らす物語になっている」ところ。「異なる宗教や政治が混ざり合う危険性、カリスマ的なリーダーがもたらす危機、個人と制度の間につねに存在する危うい葛藤がそこには描かれている」と語った。
もともとヴィルヌーヴは『DUNE/デューン 砂の惑星』の公開前から3部作構想を明かしており、「(物語に)敬意を払うには最低でも3本は必要」との熱意を口にしていた。『Dune: Part Two』に“続編”という言葉を使うことを良しとしないヴィルヌーヴは、米Colliderにて「(次回作は)別の物語ではなく、ひとつの大きな物語のパート2です」とも強調している。この考え方ならば、『砂漠の救世主』は“パート3”と言えそうだ。
しかしながら、現時点でヴィルヌーヴは『砂漠の救世主』について積極的に考えられる状況ではないらしい。2022年秋にも『Dune: Part Two』の撮影開始を控える今、監督としては同作に集中しているところなのだ。「僕はマルチタスクができる人間ではないので、ひとつのプロジェクトに集中したい。パート3が作れることは確かですが、そのことを考えると疲れてしまうし、それは行き過ぎというものです」とは本人の談である。
(from THE RIVER)
「PART3」へ向けて
ポールの母であり、「ベネ・ゲセリット」の一員であり、フレメンの教母となったジェシカが娘(ポールの妹:アリア)を出産しようとしている。彼女がハルコンネン家の血を引いていることは劇中でも明かされているが、それはつまりポールにも同じ血が流れているということ。この血脈が「デューン」世界にどのような影響を及ぼすのか。
失意のチャニの今後の行動も気になるところ。彼女はすでにポールが権力を握ることに不穏を感じ始めているので、「PART3」でもその力に抵抗する強い役割を果たす可能性がある。
また劇中では、フレメンに対しても、救世主的な人物を崇拝することは“自分たちを奴隷にする”と警告する姿も描かれ、決してハッピーエンドではない破滅的なエンディングを暗示しているのかもしれない。
次回作を楽しみに待ちたい。
大変楽しく読ませていただき、また参考にさせていただき、
ありがとうございました。
「MOJIの映画レビュー」
「娯喫GO-KITSU」
「公認会計士のB級洋画劇場」
「骰子の眼」
「辰々のお薦め映画とベストテン」
「映画復元師シュウさんのブログ」
「ドゥニ・ヴィルヌーヴの世界 アート・アンド・サイエンス・オブ・メッセージ」
「ピクシブ百科事典」
「Ciatr」
「CINEMORE」
「Wikipedia」
(text by 電気羊は夢を見た)