らんらんランチ
田中は購買部で働く普通のサラリーマン。
ある日、田中は食堂で流れる微妙な雰囲気に気づいた。
昼休憩。
それは、サラリーマンにとっての癒し。
美味しいランチを食べれば、仕事の疲れも吹っ飛ぶというもの。
なのに……。
同僚たちがなんとなく食べるランチに、愛想を尽かしているようだった。
食堂のランチは、不味くはない、
おいしいかと聞かれるとちょっと困るが、不味くはない。
だが、不味くはない程度だからこそ、愛想を尽かしたのだろう。
そこで、田中はランチの質を向上させようと考えた。
まず田中は「おいしいランチ」キャンペーンを立ち上げた。
まずいランチを撲滅しよう!
みんなで美味しいランチを食べよう!
という、すごくシンプルなキャンペーンだ。
最初は少し緊張していたが、同僚たちが次々に参加し、アイデアを出し合う場が広がっていくのを見て、田中のやる気も高まった。
ランチのアンケートを取る。
新しいメニューのアイデアを募集する。
そんな活動が、社内のコミュニケーションを活発にしていく。
そしてついに、美味しいランチが完成した。
大きなお皿の半分にピラフ。
反対側にスパゲッティ。
真ん中にトンカツを置いた、大人のランチ、だ。
「これ、トルコラ……ぶはぁっ」
余計なことを言おうとした社員は、闇に葬られた。
大人のランチは好評だった。
みんなが先を争ってトルコラ……大人のランチを求めた。
だが、田中は気づいてしまった。
「おいしいランチ」の定義は人それぞれであり、一つのメニューでは全ての人を満足させることは難しいということを。
それでも田中はあきらめなかった。
みんなが喜ぶランチを作りたい。
その気持ちだけが田中を動かしていた。
そして田中は1つの結論に至った。
ピラフ、スパゲッティ、トンカツと、固定されていることが問題なんだと。
なら、選べるようにすれば良いんじゃないかと。
そこから先は簡単だった。
まずピラフの代わりに、チャーハン、炊き込みご飯、ケチャップライスを選べるようにした。
スパゲッティの代わりに、タラコスパゲッティ、ナポリタン、カルボナーラを加えた。
トンカツの代わりは、焼き鳥、よだれ鶏、チキン南蛮だ。
これで256種類の組み合わせから選ぶことができる。
田中の目指した幸せのランチが、ここに完成した。
社員は喜んだ。
いろいろな味が楽しめることを。
組み合わせを選べることを。
だが、3日もすると……みんな冷めた顔でランチを食べるようになった。
不思議に思った田中は、社員たちに聞いてみた。
何が不満なのか、と。
その答えは、何故かみんな同じだった。
「組み合わせを変えても、結局はトルコラ……ぐはぁっ!」
余計なことを言おうとした社員は、闇に葬られた。
〈了〉
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