【映画】「I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ」感想・レビュー・解説
さーてこれはなかなか評価が難しい。
とにかく、僕が本作を観ながらずっと思っていたことは、「主人公、嫌いだわー」ということだった。いや、それはそういう風に主人公が描かれているわけで、受け取り方としては間違っていない。「愛すべき」と頭に付けれる人もいるかもしれないが、僕だったら近くにいたら「厄介者」だと感じてしまうだろう。
本作は2003年のカナダを舞台にした作品で、恐らくだが、現代であれば「ADHD」「多動性なんとか」「アスペルガー症候群(とは最近呼ばないみたいだが)」みたいな名前が付いてもおかしくないような気がする。そういう、「他人の感情が上手く理解できず、自分の都合・興味だけで行動してしまう」みたいな人物であり、なかなか厄介である。
主人公ローレンスの行動で一番ヤバかったのは、後半の展開なのでちょっとボカして書くが、「ローレンスのせいで大損害が引き起こされたのに、『従業員割引が使えなくなるのは困る』と主張する場面」だろう。そうせざるを得ない状況があったとはいえ、100%ローレンスの過失によるもので、同情の余地はない。彼はレンタルビデオショップで働いており、従業員になると10本無料(たぶんひと月にだと思う)で借りられるのだが、トラブルを起こしたことで、その従業員割引がしばらく使えない立場になってしまうと告げられ、「そんなの困る!」と声高に主張するのだ。
おいおい、ンな主張が通るかよ、という感じだった。
また、ローレンスにとって唯一と言っていい友人マットに対する態度もなかなか酷い。
ローレンスとマットは毎週土曜日、「SNL」という番組を一緒に観て盛り上がる習慣があった(調べてみると、たぶん「サタデー・ナイト・ライブ」という番組だと思う)。ローレンスは「映画バカ」というレベルで映画が好きなのだが、マットは映画にはそこまで興味がないみたいだ。そんな2人は「SNLを観ること」で繋がっており、その番組を観ている者にしか分からないノリ(ただこの番組は、アメリカの3大ネットワークの1つNBCで1975年から放送されていて、現在に至るまで大人気番組らしいので、アメリカやカナダの人はきっとみんな知っているのだろう)でふざけたりしながら日々を過ごしている。
で、観客からしたら「かなり難物」でしかないローレンスのことを、マットもまた親友だと思っているようで、「NY大学の芸術学部に入って映画を学ぶ」と意気込んでいるローレンスに、「一緒にNYに行ってもいい?」と話す場面がある。よほどローレンスとの関係を大事にしているということだと思う。
しかし、これも具体的には触れないが、この場面におけるローレンスの振る舞いもメチャクチャ酷い。こういう場面は凄く「アスペルガー症候群」っぽい感じがする。なんというか、「仮にそう思ってても、口には出さないだろ」みたいなことを言っちゃうのだ。まあローレンスも、「言ったらマズいかな」と思ってはいたみたいだが。
そんなわけで、ローレンスはとにかくメチャクチャ嫌な奴だし、そんな感じのままほぼ最後まで進んでいく。全然好きになれない。
でも、「中2病」なんて言葉が今も広く知られているように、「子どもの頃の黒歴史」みたいなものはきっと誰にでも心当たりがあったりするんだろう。そしてその時期はきっと僕らもローレンスみたいだったはずだ(レベルの大小はあるが)。そういう意味では、「自分の過去を抉られる」みたいな感覚を抱かされたりもするだろう。
さらにもう1つ感じたことは、「そんなに好きなものがあって羨ましい」ということだ。ローレンスは、「異常」と言ってもいいぐらい映画が好きだ。レンタルビデオショップでの面接では、「映画を観れない日は、自分の一部が死んだような気分になる」と言っていた。ちょっとさすがにそれは好きの度合いが強すぎるだろう。
けど、まあその度合いの行き過ぎた感じはともかく、「そんなに好きになれるものがあっていいな」とは感じる。
今日、本作を観終わった後、浅草でやっている「ZINE」のイベントに行ってみた。友人が出店しているから顔を出してみただけなのだけど、会場を訪れてみて、その広さと来店者数の多さに驚いた。「ZINE」というのは「MAGAZINE」の一部から取られた言葉で、「個人で出版する雑誌」みたいな感じだ。あまり正確な定義は無いと思うので、リトルプレスや雑貨など、とにかく「個人制作された色んなもの」が売られているのだが、やはりメインは「本・雑誌」である。
そして、その題材は実に多岐にわたる。小説・漫画・詩・短歌・日記などはもちろんのこと、「昭和のアルマイト弁当箱を研究している」とか「CDジャケットだけを掘り下げている」など、とにかく「個人の『好き』」だけで作られた内容のものがズラリと並んでいた。
そういうのをざっと眺めて歩きながら、「いいなぁ」と思ったりしていた。僕は、本を読んでいたり映画を観ていたりするが、別にムチャクチャ好きというわけではない。昔から、読書も映画鑑賞も「暇つぶし」と言い続けてきたし、無きゃ無いでなんとかなる。そして、本作『I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ』のローレンスや、「ZINE」イベントに出店していた人たちみたいな「好き」が、僕には無いんだよなぁ。これは昔から自覚していて、既にもう諦めていることだけど、心の底では「どうにかなったらいいなぁ」とは思い続けていたりする。
ローレンスは、人間としては厄介すぎるけど、揺るぎない「好き」があるわけで、そういう意味ではとても羨ましい。まあ、強すぎる「好き」は時に人を破滅させる気もするし、実際ローレンスも「好き」に囚われているからこそ大変という側面もあるわけで、良いことばかりではないが、まあやはり「羨ましいな」という気持ちを抱いてしまいもする。
まあそんなわけで、ローレンスのことは最後の最後まで好きになれず、「何なんだこいつ……」みたいな感じであり、だからそれに引っ張られて作品全体の評価も「うーん」という側に傾いている感じもする。ただ、レンタルビデオショップの店長が実に良いキャラクターで、彼女は凄く良かったなぁ。
正直ちょっとなんとも言いようがない映画という感じだったけど、決して悪くはなかった。でも、「人に勧めたくなる」という感じではないし、もう一度観たいとも思わないし、その辺りはとても微妙だ。いやホント、なんとも評価の難しい作品だ。