【映画】「ティル」感想・レビュー・解説

本作で描かれている事件やその顛末、そしてその後についてはもちろん、誰もが知るべきことだと思う。1955年、当時14歳だったエメット・ティル(作中では「ボー」という愛称で呼ばれている)が、従兄弟に会うために、黒人差別が特に厳しかったアメリカ南部、ミシシッピ州マネーを訪れ、ほんの些細なことをきっかけに白人に「リンチ」され、死亡してしまったのだ。アメリカでの「リンチ」は、日本語のそれとは意味が異なり、「白人が黒人に暴力を振るう」ことを意味する。そして当時のアメリカでは、「白人が黒人を殺害しても無罪判決が出る」ような時代だったのだ。

そのような状況の中、母親のメイミー・ティルが立ち上がり、結果として「公民権法」の制定にまで繋がった、その実話を基に描かれる作品だ。

映画の最後には、こんな字幕も表示された。

『エメット・ティル反リンチ法が、2022年3月29日に制定された。事件から実に67年後のことである。』

このような背景もあるため、特にアメリカではよく知られた事件なのだと思う。まったくタイプが異なるので比較するのは正しくないかもしれないが、ただ「知名度」という点で言うなら、日本の「三億円事件」や「グリコ・森永事件」などに近いんじゃないかと想像した。

さてしかし、こういうことを書くのはちょっと気が引けるのだが、正直なところ、「映画としてはさほど面白くなかった」という感じだった。いや、ホント、こんな風に感じない自分でいられたら良かったのだけど、仕方ない。

本作が「実話である」という事実を一旦無視して、単に「物語」であると捉えてみると、基本的には「そういう展開になるよね」という描写の積み重ねという感じだった。もちろん、実話なのだからそれでいいのだし、そこに何かを求めても仕方ないのだが、やはり「物語」という意味でいうと物足りなさを感じてしまった。

少し違う話をしよう。僕は以前、アメリカの秘密を暴露したエドワード・スノーデンの映画を観たことがある。ドキュメンタリー映画の『シチズンフォー』と、フィクション映画の『スノーデン』である。そして、ドキュメンタリー映画をよく観る僕としてはかなり珍しいことに、この2作を比較した時に、フィクション映画の『スノーデン』の方が面白いと感じた。

つまり、「事実そのものがどれだけ強力でも、フィクションの方がより強いインパクトを与えられることもある」というわけだ。

そして、本作『ティル』は、ちょっとそういう感じにはなっていなかったと私には思えてしまった。扱っているテーマは重厚だし、主演女優の演技も凄かったと思うが、それでも僕的にはどうしても、「凄く良かった」という風には感じられなかった。

個人的に最も驚かされたのは、最後に表記された字幕の中の1つ。結局、少年を殺害した2人は無罪になるのだが、その後雑誌で「少年を殺したこと」を告白、それによって4000ドルを手に入れ、生涯自由人として過ごした、という内容だった。なんとも胸糞悪い話だ。

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