【映画】「ファイブ・デビルズ」感想・レビュー・解説

なかなか面白い映画だった。主人公の少女ヴィッキーがほぼ喋らず物語が展開されていくところも面白い。

まずは内容の紹介を。
消防士である黒人男性ジミーと結婚し、一人娘ヴィッキーをもうけた白人女性ジョアンヌ。スイミングプールの指導員をしている彼女は、真冬には7度にもなる冷たい湖で泳ぐことを日課にしている。娘のヴィッキーにストップウォッチをもたせ、20分経ったら笛を吹いてと伝えている。母子の関係は良好で、娘は母のことをとても愛している。ジョアンヌとジミーの関係は微妙で、ジョアンヌの父からも、夫婦関係を心配されている。
そんなある日、ジョアンヌは娘の特殊な能力に気づく。嗅覚が異常に発達しているのだ。目隠しをした状態で、森にひっそり隠れている母をあっさりと見つけたりする。ジョアンヌは娘のそんな様子を心配するが、何が出来るわけでもない。
ある夜。映画を観ていたジミーの元に一本の電話が。ジョアンヌが問い詰めると、ジュリアからだという。ジミーの妹だ。何か困っているようで、しばらく家に住まわせることになった。
このジュリアの存在が、一家を大きく変質させていく。
匂いに興味があるヴィッキーは、叔母であるジュリアの荷物を勝手に漁り、その中から匂いの強いものを失敬した。それを基にして、独自の調合で「匂いの素」を作り嗅いだところ、ヴィッキーに不思議な現象が襲う。
母親が地元の体操クラブに所属していた頃、つまり、ヴィッキーが生まれる以前の世界にタイムリープしていたのだ。
叔母の匂いを嗅ぐ度に、ヴィッキーは母と叔母の知る由もなかった関係を目の当たりにする。
どうやらジュリアは、ヴィッキーたちが住む小さな村では「歓迎されざる存在」であるようだ。ジュリアは一体何をしたのか、そして母ジョアンヌとはどのような関係にあったのか……。
というような話です。

物語の冒頭からずっと「謎の不穏感」みたいなものが漂っていて、物語の展開に合わせて少しずつモヤが取れていく感じが良い。さらに、モヤが取れるのと同時に、さらにモヤが掛かる感じもあって、謎を明らかにしていくのと、さらに新たな謎を加えていくバランスがとても良かった。

何より、ヴィッキー役の女の子がかなり良い雰囲気を出していて、彼女の存在感で映画が成り立ってる感じがある。公式HPを見ると、この作品がデビュー作のようだ。ほぼセリフはないのだが、彼女が動くことで物語も展開していく。爆発したような髪型を「トイレブラシ」と馬鹿にされる以外は、ヴィッキー自身に焦点が当たることはなく、基本的には「全体の傍観者」という立ち位置に居続ける。ほぼ観客と同じ立場だと言っていいだろう。主人公でありながら、観客とほぼ同じ傍観者でもあるという設定はなかなか特殊で、この映画の特異点になっているように思う。

設定で非常に興味深いのは、「ヴィッキーは単に過去の記憶を目にしているわけではない」という点。あまり具体的には触れないが、「ヴィッキーがタイムリープすること」が、現実に影響を及ぼすことになる。正確に捉えようとするとなかなか頭が混乱する設定だが、そんなにややこしく捉える必要もないだろう。

ちょっとネタバレになりそうなことに踏み込んだことを書くが、実に面白いのは、「ヴィッキーが介入したことで、結果としてヴィッキーが生まれることになった」という点だ。逆に言えば、「ヴィッキーがタイムリープをしなかったら、ヴィッキーは生まれていなかったかもしれない」のである。原因と結果の関係がなかなかのカオスだが、言葉にするとなかなか複雑そうなこの設定を、映像的にシンプルに打ち出し、様々な問題を浮き彫りにする展開はとてもよく出来ていると思う。

最後の最後に出てくる少女が謎だったが、この映画に関するレビューをチラチラ観ていたら凄く納得できる説明があったので、恐らくそれが正解だろうと思う。僕は「大人になったヴィッキー」なのかなと思っていたが、それだと話としてはなんだかよく分からないことになる。その直前のある描写を踏まえると、なるほど確かに「あの人物とあの人物の子」と考えるのが妥当だろう。なるほどなぁ。面白い。

シンプルに物語を楽しむことが出来る映画でもあるが、現代社会における色んな問題を詰め詰めに詰め込んだみたいな部分もあって、その辺りの社会風刺的な部分もとても良い。ほとんど説明っぽいことをせず、状況の描写だけで様々なややこしさや問題提起を観客に提示し、不穏さに翻弄されながら傍観者である主人公ヴィッキーと共に謎めいた状況を突き進んでいく感じは面白いと思う。

設定も展開も奇妙でありながら、映像はとても美しく、社会問題も切り取る、なかなか盛りだくさんの作品である。

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