【映画】「ゴンドラ」感想・レビュー・解説

ホント変な話だったなぁ。全然違うけど、『からかい上手の高木さん』(漫画)みたいな話だった。いや、漫画、読んだことないんだけど。

さて、本作については、「<セリフのない映画>を作る監督の作品」という程度の情報だけで観に行った。本作が「セリフなし」なのか分からない状態で観たが、本作もセリフがまったくなかった。唯一、「OK!」って口にする登場人物がいたぐらいだな。後は、笑い声や怒りの声など、言葉にならない「音」が入るぐらい。本当にそんな感じで、最後の最後までまったくセリフがなかった。

正直、始まってからしばらくは何がなんだか分からず、全然面白くなかったし、メチャクチャ眠かった。でも、途中からなんか俄然面白くなってきたんだよなぁ。その面白くなってきた要素が『からかい上手の高木さん』っぽいんだけど。というわけで、まずはその辺りの話からしよう。

本作では、山の谷間を繋ぐ古いゴンドラ(ロープウェイ)が舞台である。公式HPによると、このゴンドラはジョージアの小さな村に実在する(実在した)ゴンドラらしい。「実在した」というのは、数年前にゴンドラは新しい車体になってしまったからだ。映画で映し出される、レトロ感満載の車体は既に存在しないというわけだ。

さて、ゴンドラは2台あり、隣り合う2本の架線を渡ってすれ違うのだが、そのゴンドラにはそれぞれ女性乗務員がいる。エレベーターガールみたいなものだが、「料金の徴収係」という側面もあるようだ。

このゴンドラは住民の足になっているらしく、牛を運んだり、子どもが乗ったり(学校にでも行くのか)と色々だが、どうも乗客がいないことの方が多い。つまり「女性乗務員がそれぞれ乗ったゴンドラが上空ですれ違う」ことになる。このゴンドラは一日に何度も往復しているようで、彼女たちは同じ日に何度も上空ですれ違う。

さて、あまりにも暇なのだろう。彼女たちは暇つぶしの方法を色々考える。まずは、駅長(ゴンドラの駅に座ってゴンドラを動かす人)から奪ったチェスを2つある駅の一方に置き、女性乗務員が往復する度に1手指すという、実にゆったりとしたチェスを指すことにする。しかしこの勝負はある理由から決着がつかなかった。

そしてその後彼女たちは、「上空ですれ違う時に、相手を驚かせるようなことをする」なんてことをやり始める。タップダンスをしてみたり、楽器を演奏してみたり。あるいは、乗っているゴンドラを船やらロケットやらに作り変えてみたり。

「何やってんだこいつら?」という感じなのだが、このやり取りが馬鹿らしくてとにかく面白かった。そしてこれが、『からかい上手の高木さん』っぽいなぁと思ったのだ。「暇な時間を潰すために馬鹿みたいなことをする」というのが。

そして、ほとんど最後まで、そんな感じでふざけ倒したまま物語は終わる。まあ変な話だった。でも、面白かったなぁ。女性乗務員2人がとにかくチャーミングで、やってることは「仕事のサボり」だし、どんどんエスカレートして「営業妨害」みたいになっていくんだけど、2人の雰囲気からは、そんな「サボり」「営業妨害」みたいな感じは全然ない。楽しそうだし、住民を巻き込んでどんどん壮大にしていくし。まあ、それに比例するように、駅長の怒りゲージはどんどん上がっていくんだけど。

さて、物語を解釈する必要などない作品なのだと思うけど、やはりよくは分からなかった。映画の冒頭は「ゴンドラで棺を運ぶシーン」から始まるのだけど、これが「この村の単なる日常の描写」なのか、「物語の中で何か重要な役割を果たすシーン」なのかも分からない。また、女性乗務員2人の関係についてもそれっぽく示唆するような描写もあるのだけど、はっきりしたことは分からない。そんな、物語的には全然意味が分からない作品なのだけど、とにかく女性乗務員2人が楽しそうで、その雰囲気だけで観れてしまう映画だなと思う。

ちなみに、「女性乗務員」とか「駅長」とか書いてるけど、作中で誰も喋らないので、当然、役名も不明だ。でも、エンドロールにはちゃんと役名が書いてあって、でも結局誰が誰だか分からない。一応、女性乗務員2人は「ニノ」「イヴァ」という名前だそうだ。個人的には、イヴァの方が好きな雰囲気だったなと思う。

そんなわけで、これは観て良かったと思える作品だった。もしも配信で観てたら、途中で消してただろうなぁ。あと、作品としてはこれで成立してるけど、「もしこのシーンにセリフがあったら?」みたいなことを誰かと話したりしても面白いかもしれない。しかしセリフ無しだからこそ、吹き替えとか翻訳とか無しで全世界に届けられるのは利点だよなぁ。この手法は、英語圏ではない日本でこそやってみたら面白いかもしれない。

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長江貴士
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