【映画】「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」感想・レビュー・解説

メチャクチャ面白かった、というわけではないのだけど、予想していたぐらいの面白さだったので、僕的には十分満足できる作品だった。

色んなところで書いていることだが、僕は「異性と、恋愛とか結婚ではない形で関わりたい」とずっと思っているし、出来る範囲でそれを実現させているつもりで、だからこそ、この作品で描かれる「青木安希子」と「ササポン」の関係は結構理想的である。まあ、実話だとはいえ、なかなかこの2人のような関係性を実際に実現するのはなかなか難しいだろうけど、こういう関係性が世の中のどこかに存在している(存在していた)という事実は、とても「嬉しい」という感じがする。

ササポンが、とてもいいじゃないか。

ササポンは、「普通のことを普通に言う人物」なのだけど、これがとても良かった。「普通のことを普通に言う」というのは、結構難しいからだ。

僕は割と「普通のことを言う」ことは出来ると思っているのだけど、しかしそれを「普通に言う」のは難しい。僕の場合は、「普通のこと」を言う前に、「メチャクチャ普通のことを言うけど、」とか、「当たり前のこと言うけどさ、」みたいな前置きをつけてしまう。やっぱり、「普通のことを言う」というのは、結構勇気が要ることだからだ。

しかしササポンは、そんな前置きをせずに、「普通のこと」を「普通に」言うことが出来る。これはなかなか凄いことだ。

そしてそれは、ある意味で「オジサンだから」出来ることとも言えるだろう。別に「オジサン」である必要はないのだが、要するに、「周囲からの『見られ方』みたいなものに頓着しなくて済むようになった人」ぐらいの意味だ。そうではない「オジサン」もたくさんいるとは思うが、「オジサン」だからこそそういう境地に達しやすいとも言えるだろう。

そして「オジサン」という記号は、「見る側」にも重要だと言える。例えば「ササポン」が「若いイケメン」だとしよう。その「若いイケメンのササポン」は割と、「周囲からの『見られ方』に頓着しない人」なのだが、しかし周囲の人間は彼をそうは見ないだろう。やはり「若いイケメン」という記号は、「周囲からの『見られ方』に頓着しない」という印象を与えない。

しかし「オジサン」の場合は、周囲からも「この人は周囲からの『見られ方』に頓着していないのだろう」という捉え方になりやすいと思う。

だからこそ、「ササポン」のような振る舞いが成立し得るのである。

という風に僕は受け取ったので、「ササポン」の存在は割とリアリティを感じるものだったのだが、そう受け取られない人もいるかもしれない。「こんなオジサンいるわけない」とか、「何かおかしいんじゃないか」みたいに思う人もきっといるのだろう。まあ、それはそれだ。だからこそ、この作品の「実話だ」という情報がとても重要になると言えるだろう。

理想的には僕も「ササポン」のようになれるといいのだけど、まあ、なかなか「望んで」なれるようなものではないだろう。「ササポン」の最大の特徴は、「力みがない」というところにあるからだ。「望む」というのはどうしても「力む」ことになるので、望めば望むほど「ササポン」からは遠ざかってしまうことになる。「ササポン」になるのはなかなか難しいと言えるだろう。

だから、「仕事なし、金なし、貯金10万円」というどん底状態の時に、たまたま「ササポン」に出会えた青木安希子は非常に「幸運」だったと言っていいと思う。

さて、青木安希子を演じるのは、こちらもリアル元アイドルである深川麻衣だが、彼女の表情が全編を通じてなかなか面白かった。「作り笑いをしています」みたいな時とか、「心から喜べてません」みたいな時とか、「絶望で死にそうです」みたいな時とか、それが凄く伝わる表情をする。まあ、マンガ的と言えばそうだし、誇張しすぎていると言えるかもしれないが、全体的にコメディタッチで展開される物語においては特に不自然とは言えないだろう。

また、「ササポン」を演じた井浦新もとても良かった。まさに「ササポン」と呼ぶしかない存在感を放っていて、こういう雰囲気をナチュラルに出せる人はあまり多くない印象がある。深川麻衣、井浦新の組み合わせはとても良かったと思う。

さて、40年生きてきた僕は、僕自身のことを割とよく理解できるようになっていて、「幸せのために必要なもの」は大体分かっている。「『話が通じる』と感じる人と喋ること」と「『話が通じない』と感じる人と喋らずに済むこと」が、僕の幸せにはとても大事だ。

ただ、例えば20代の頃には、こういう理解はきちんと出来ていなかった。だから、あーだこーだ右往左往していたように思う。だから、右往左往している青木安希子の感じは分かるような気がする。誰もが、そういう気持ちを抱いている(あるいは、抱いていた)のではないかと思う。

ホントそう考えると、公式HPに書いてある通り、「一家に一人欲しくなる」だろうなぁ、「ササポン」。なかなか稀有な存在である。

なかなか面白い作品でした。

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