【映画】「ツィゴイネルワイゼン 4K デジタル完全修復版」感想・レビュー・解説
さて、まったく意味不明な映画だったのだが、映画上映後にトークイベントに登壇した、本作出演の女優・大楠道代も「よく分からない」と言っていたのだから、それでいいのだろう。出演している女優にも「よく分からない」のだから、一般人が理解できるはずもない。
さて、そんなわけの分からない話だったのだが、割と観れてしまった。後半、ちょっとウトウトしてしまったのだが、全体の3分の2ぐらいまでは、「全然意味が分かんないけど、なんか惹かれるものがあるなぁ」みたいに感じた。そういう意味でも、まあ変な映画だなと思う。「割と観れた」と感じたのがどういう要素によるものなのか、全然分からない。
物語は、風来坊のように全国をフラフラとあるき回っているらしい中砂糺が警察に捕まりそうになる場面から始まる。その日、海で死体が上がったのだが、その女を殺したとして疑われたのだ。そこにたまたまやってきたのが、陸軍士官学校の教授である靑地豊二郎である。そのまま2人はうなぎを食べるため店に入り、芸者を呼ぶのだが、あいにく芸者が出払っていていないという。しかしたまたま、弟が自殺して弔いを終えたばかりの芸者・小稲が戻ってきて、中砂は「弔い帰りの芸者もいいじゃないか」と無茶なことを言って呼びつける。彼らは、盲目の旅芸人3人の関係性を噂したりしながら、一時を過ごす。
それからしばらくして、中砂が結婚したと聞いたので靑地が家を訪ねてみると、良家の出身だというその細君は小稲と瓜二つだった。「似てるだろ」と無遠慮に中砂が口にし、妻の園は「誰に似ているんですか」と靑地に問うが、「芸者」だと言うわけにはいかない靑地は当然口をつぐむ。しかしそんな親友の気遣いを無視するように、中砂自身が「芸者の小稲だ」と答えてしまう。それから園は、こんにゃくをひたすら契り続ける。
その後もフラフラと旅を続ける中砂だったが、なんとその旅先で、呼びつけたのだろう小稲と関係を続けていき……。
というような話です。
とにかく中砂が女ったらし、というのか、単に人間としてまともじゃないだけなのか、ずっと無茶苦茶なことをしている。それは本人も自覚しているようで、「生まれてこの方、俺がまともだったことなど一度もない」と謎の啖呵を切っているぐらいだ。開き直っているのかなんなのか分からないが、とにかく「普通ではない」という点において中砂の存在感は抜群である。
そして彼の周囲にいる靑地、小稲、園がひたすらに振り回されていく、という感じの物語であり、そこに何故か靑地の妻である周子も関わってくる。この周子を演じたのが、トークイベントに登壇した大楠道代である。
僕は、ツィゴイネルワイゼンからの3部作のリマスター版の上映を映画館の予告で知ったが(あいも変わらず、鈴木清順という監督についてはほぼ何も知らないのだが)、その予告に出てきた映像でびっくりさせられたのが、「ある女性が男性の目玉を舐める」というシーンだ。それが『ツィゴイネルワイゼン』で描かれるものだった。周子が、自身の妹が入院している病室で、「目にゴミが入った」と言う中砂の目玉を舐めるのだ。
トークイベントで大楠道代は、「このシーンが、『ツィゴイネルワイゼン』撮影の初日だった」と言っていた。しかも、台本には「目玉を舐める」などとは書いておらず、当日現場でそんな風に言われたのだそうだ。鈴木清順という監督はそういうタイプの人だったようで、彼女は他にも色んな指示を撮影の当日にされたという話をしていた。
また、「台本に書いていない」という話についても面白いことを言っていた。大楠道代は、3部作のどの作品だったか忘れてしまったようだが、試写会の際に、脚本を担当した田中陽造の隣の席だったことがあるそうだ。で、試写を見始めてしばらくすると、「俺はこんなホンを書いていない!」と言って試写室を出ていってしまったそうだ。鈴木清順がいかに脚本を無視しているのか伝わるエピソードだろう。
また、インタビューアーから「『ツィゴイネルワイゼン』に出演することになったきっかけは?」と聞かれた彼女は、「脚本が面白かったから」と答えたのだが、当然インタビューアーは、「映像で観てもこれだけ難解なのに、よくその面白さが脚本で伝わりましたね」と聞く。すると彼女は、「脚本はもっとわかりやすくて面白かったの」「あの脚本を読んで、こんな難解な話になるなんて思わなかった」と語っていた。これもなかなか凄い話だろう。
また、彼女が言うには、鈴木清順の映画の撮影中は、「役者もスタッフも、一体何をやっているのかさっぱり分からない」という状態にあるのだそうだ。「恐らく、鈴木さんの頭の中にはかっちりとしたものがあったと思う」と言っていたが、監督はその説明を大してせず、漠然とした指示だけで役者に演じさせていたそうだ。だから、映画に関わった人全員が、出来上がった映像を観て初めて「こんな作品になったんだ」と感じるし、さらに、「結局観てもよく分からない」と感じるのだそうだ。
しかしそんな作品にも拘わらず、やはり人を惹き付ける力は凄いようで、「映画で関わったスタッフの中にも、鈴木清順の映画を観て憧れてこの世界に入ったみたいな人が結構いた」と言っていたし、また、「ラ・ラ・ランドの人もそれでアカデミー賞獲ったし」と、海外の監督にも影響を与えたのだそうだ。凄いもんである。
トークイベントの中では、『陽炎座』に関する話も結構していた。中でも面白かったのは、「主演を務めた、アクション俳優である松田優作に、監督が『動くな』と指示するもんだから、いつもホテルに帰ってから暴れていた」という話。大楠道代は元々役作りをしないタイプの役者だから大丈夫だったけど、松田優作は真面目できっちり役作りをしてくるタイプだったから、それが現場で潰されて大変そうだったとも語っていた。
「ツィゴイネルワイゼン」というのは曲の名前のようだが、どうしてこれがタイトルになっているのかしばらくずっと謎だった。いや、結局最後まで観たって謎は謎なんだけど、一応「ツィゴイネルワイゼン」という曲名をタイトルにしたことが理解できなくもない描写が後半にある。まあホント、「だから何?」って感じではあるのだけど。
変な映画だったけど、なんやかんや観てよかった感じするし、『陽炎座』も観てみようかなと思う。トークイベントの中で大楠道代が、「『あれってCGなんでしょ?』ってよく聞かれるから、『CGだよ』って答えないと相手が納得しないぐらい奇跡的なシーン」と語る場面も観てみたいし。
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