【映画】「アプレンティス　ドナルド・トランプの創り方」感想・レビュー・解説

さて、面白くなかったわけではないけど、良かったわけでもないかなぁ、という感じ。「なるほど、ドナルド・トランプはこんな風に創られていったのか」という興味は確かにあったけれど、それ以外の描写は「ふーん」という感じだった。ドナルド・トランプって、現実世界でぶっ飛んだことを言ったりやったりしているから、フィクションがそれを上回らない。さらに本作は、「怪物になる前のドナルド・トランプ」が描かれているわけで、余計そんな風に感じさせられた。

さて、ドナルド・トランプは元々、父親が経営していた不動産会社の副社長をしていた。しかし、その会社が国から訴えられてしまう。「経営するアパートに入居を希望する黒人を意図的に断った」という人種差別の疑いで、公民権局から訴訟を起こされたのだ。どうやらかなり勝ち目のない戦いのようで、敗訴したらビジネスが相当危機に瀕することになる。

さてそんな折、ドナルド・トランプは最年少である高級クラブの会員になった。そしてそこにいたのが、悪名高き伝説の弁護士ロイ・コーンだった。彼の”功績”で最も有名なのは、ローゼンバーグ夫妻を死刑に追いやったことだ。夫のジュリア・ローゼンバーグは、原爆の機密をソ連に売ったとして起訴された。そして、現在ではどうやら機密流出に関わっていなかったと考えられている妻エセルもまた、同じ容疑で起訴されたようだ。そしてロイ・コーンは世論を誘導し、この2人が死刑になるように状況を動かしていったそうだ。実際にこの2人は死刑になっている。本作『アプレンティス』の中でロイ・コーンが、その時のことについて語る場面が描かれていた。

さて、ドナルド・トランプがクラブ入りした時点で、ロイ・コーンはそのクラブの頂点のような存在だった。まだまだ気弱な若造に過ぎなかったドナルド・トランプは、どうにかロイ・コーンに気に入られ、公民権局から訴えられている裁判の弁護を担当してもらえることになる。

そこでロイ・コーンは、ドナルド・トランプに「私の言ったことに100％従え」と厳命し、さらに「勝つための3つのルール」を伝授した。

ルール1：攻撃、攻撃、攻撃
ルール2：非を絶対に認めるな
ルール3：勝利を主張し続けろ

ロイ・コーンはこの3つのルールを徹底的に突き詰め、彼自身「絶対に負けるだろうな」と言っていたドナルド・トランプが抱える訴訟をひっくり返してみせた。そして、そんな伝説の男から直々に「帝王学」を学び続けたドナルド・トランプは、やがてロイ・コーンでさえも制御しきれない「怪物」へとのし上がっていくことになり……。

個人的に気になるのは、本作で描かれていることが事実だとして、ストーリーのベースになっているのは何なのか、ということ。というのも本作は、ドナルド・トランプとロイ・コーンのシーンが多いからだ。

公式HPによると、ドナルド・トランプは本作の全米公開を阻止しようとしたそうだ。つまり、ドナルド・トランプ側の協力は得られていないわけだ。さらに、ロイ・コーンは既に亡くなっている。となると、「ロイ・コーンが亡くなる前にドナルド・トランプについて語っていた証言が何らかの形で残っている」と考えるしかないが、ロイ・コーンがなくなったのは1986年のことだ。今から40年近く前である。その時点で既に、ドナルド・トランプは全米で話題の人物だったようだが、しかしそれにしても、後に大統領になるとは誰も思っていなかったはずだ。ロイ・コーンは伝説の弁護士と呼ばれているのだから、ドナルド・トランプ以外にも語るべきことは色々と持っているだろう。そう考えると、「ロイ・コーンの証言が存在するとして、その中でドナルド・トランプについてどれだけ言及されているのか分からない」となるように思う。

しかし、ドナルド・トランプが協力していないとすれば、ロイ・コーンの証言を得るしかないわけで、その辺りの情報のソースが気になった。

「アプレンティス」というのは「見習い」という意味だそうで、さらに、ドナルド・トランプを一躍有名にした（のかはよく知らないが）大ヒットリアリティ番組の名前でもある。確かに、ドナルド・トランプはロイ・コーンの「見習い」という感じだったし、本作のタイトルにはピッタリだろう。

あと、主演の人（セバスチャン・スタン）は、凄くドナルド・トランプっぽい。僕は別に、若い頃のドナルド・トランプを見知っているわけではないが、アメリカでは「本人にしか見えない」と評判らしいので、やはり似ているのだろう。役者というのは凄いものだなと思う。

というわけで、あまり書くことはない。凄く面白いわけでも、メチャクチャつまらないわけでもない映画という感じだった。