【映画】「リトル・ワンダーズ」感想・レビュー・解説
いやはや、よくもまあ「奪われた卵を奪い返す」というだけの話で映画1本撮り切ったものだ。普通ならそんな話まず成立しないだろうけど、「悪ガキ3人の物語であること」や「特殊な奴らが関わってくること」などが上手く折り重なって、エンタメ作品として楽しい作品に仕上がっている。「楽しい物語だね」以上でも以下でもないのだけど、なかなかワクワクさせてくれる作品だった。
というわけで、まずはざっくりと内容紹介。
アリス、ヘイゼル、ジョディの3人は、「不死身のワニ団」というチームを組んで活動している。活動内容は、主にイタズラだ。おもちゃの銃を抱え、子ども用のバイクに乗って移動する彼らは、倉庫に忍び込んでゲーム機を奪い去り、ヘイゼルとジョディの家(この2人は兄弟である)でプレイしようと思っている。
しかし簡単にはいかなかった。というのも、母親がテレビにパスワードを設定していたからだ。ヘイゼルもジョディも、そのパスワードが分からない。このままだと、ゲームが出来ないじゃないか!
というわけで彼らは、風邪を引いて寝込んでいる母親の元へ行き、「アリスが教育番組を観るからパスワードを教えて」と懇願する。もちろん、母親は子どもたちの嘘などお見通しだ。「ゲームなんかさせない」と突っぱねる。彼らは月曜日からバイク合宿を控えており、そのためゲームが出来る時間が限られているのだが、母親は「夏休みなんだから思い切り外で遊んできなさい」というばかり。
そんな応酬をしばらく繰り返した後、両者は折り合いをつけた。母親は、2時間だけゲームをすることを許したのだ。しかし1つだけ条件があった。セリアの店に行って、ブルーベリーパイを買ってきてくれというのだ。それがあれば、すぐに元気になれるから、と。
そこで早速買いに行くのだが、ブルーベリーパイは既に売り切れていた。セリアに作ってもらおうと店員に居場所を聞くも教えてもらえない。しかし、機転を利かせたアリスがセリアの居場所を突き止めるのだが、セリアには「熱があってしんどいから帰りな」と言われてしまう。ここでも彼らは交渉をし、「氷よりも冷たいものを持ってきたら、パイの秘伝のレシピを教えてあげる」という話になった。
そしてどうにかこうにかレシピを手に入れた彼らは、スーパーマーケットで食材を万引きすべく準備を進めるのだが、最後1つだけ残っていた卵のパックを男に取られてしまった。弟のジョディは「メキシコ料理店に卵があるかもしれない」と提案するのだが、リーダー的な存在であるアリスが、「不死身のワニ団を馬鹿にするやつは許せない」と言い、男から卵を取り返すことに決めた。
彼らはバイクで男の車を追い、家に入っていった男の隙をついて卵を奪い返そうと考えているのだが、しかしそこはなんと、「魔法の剣一味」という名の謎の集団のアジトであり、彼らは思いがけない状況に直面させられることになり……。
というような話です。
本当に最後の最後まで、「とにかく卵を手に入れる」というだけの目的で悪ガキ3人が動き続ける物語で、とにかく話の筋はしょーもない。のだけど、この3人がなかなか魅力的なキャラクターで、全然観れてしまう。物語的には「おいおい、そんな風にはならんだろ」と感じる部分はメチャクチャあるし、ツッコミどころ満載なのだけど、敢えてそんな風にしてるんだろうなってことも伝わってくるし、全然アリである。ホント、特に書くことが思いつかないぐらい内容は無いのだけど、「素敵な映画だったじゃん」という感覚になれる、なんとも不思議な映画である。
良かったのは、不死身のワニ団の3人が終始真剣だったということだろう。はっきり言って、「卵ぐらいどこかで手に入れろよ」と思うし、そもそも「ブルーベリーパイが手に入らなかった時点で諦めろよ」みたいな話でもあるのだけど、しかし彼らは「卵を取り返すぞ!」という真剣さを最後まで捨てない。というか、その真剣さを最大に持っているのはアリスで、彼女はとにかく「我々を侮辱したヤツは絶対に許さん」という感覚で突き進んでいるようである。じゃあ兄弟はどうしてそんなアリスについていっているのかというと、「ヘイゼルはアリスのことが好きだから」「ジョディは、兄がアリスのことを好きだと知っているから」となるだろう。その辺りの3人の関係性もなかなか魅力的である。
さて本作には「魔法」だとか「呪文」みたいな話が出てくる。結局それらは最後まで合理的な説明がなされないわけで、普段の僕なら「リアリティが無いなぁ」と感じて少し評価が下がってしまうのだけど、本作ではそんなことにはならなかった。それはやはり、悪ガキ3人組が冒頭から荒唐無稽な存在として描かれていたからだろう。「こんなハチャメチャな3人組を受け入れなければ物語を捉えられない」ということが冒頭ではっきり示されるからこそ、その後何が起こっても、「ま、そういう世界だよな」みたいな感じに落ち着いてしまうところはある。
しかしそんな僕でも、さすがにラストは「これで丸く収まるか?」という感じがあって、ギリギリの落とし所という感じはした。っていうか、ちょっとアウトという感じさえする。さすがにそれは無理だろう、という気はするのだけど、でもなんとなく押し切られてしまった感じもある。なんとも不思議な話である。
そんなわけで、「3人を好きになれるかどうか」で作品の受け取り方が大きく変わる物語だろう。概ねこの3人は好かれるんじゃないかと思うのだけど、ただ、「随所でガチの犯罪に携わっている」わけで、「それはちと許容できん」みたいに思う人もいるだろう。物語的に、彼らの悪事に天罰が下ったり、みたいなこともないので、「いやいや、そんな物語ダメでしょ」みたいに思う人もいそうだ。エロシーンや残酷な描写があるわけでもないのに、本作がPG12に指定されているのもきっと、その辺りが理由だろう。
しかしホント、なかなかに変な話だったなと思う。