【映画】「恋する惑星 4Kレストア版」感想・レビュー・解説

色んな意味で不思議と驚きに満ち満ちた作品だった。

まず驚かされたのは、「なぜこんなにも映画館が満員なのか」ということ。元々、土曜日にこの映画を観るつもりで、金曜の夜にチケットを取ろうとしたのだけど、その時点で既に満員だった。シネマート新宿の、335席ある劇場が全部埋まっているのだ。シネマート新宿はちょいちょい行くのだけど、あの広い劇場が埋まってるところなんか見たこと無い。

慌てて日曜(今日)のチケットを取ったのだけど、結局僕が観た回も満員だった。しかも、僕の感触では、とにかく若い人が多かった。1994年の映画みたいなので、今から大体30年前ということだ。その頃観ていて、懐かしさから劇場に足を運んだということなら、4~50代が多いはずだ。いや、もちろん、レンタルでも配信でも映画を観れるから、元々のバージョンの映画をどこかで観ていて、4Kレストア版がやってるから観よう、と考えた若者もいるだろう。

しかし、映画を観終わった後、後ろの席から、明らかにこの映画を初めて観ただろう人たちの会話がいくつか聞こえてきた。彼らは一体、何に引っかかって映画館にやってきたのだろう。映画館でしか観れない、というなら分かる。ただ、Filmarksで調べてみると、この4Kレストア版、U-NEXTでも観られるようだ。現代人は、配信で観れる映画は配信で観るものじゃないんだろうか?

とにかく、この『恋する惑星』という映画のどこに、これほどの人を映画館に呼び寄せる要素があるのか、僕にはまずそのことが不思議で仕方なかった。TikTokかなんかでバズったりでもしてるんだろうか? とにかく、エヴァンゲリオンや鬼滅の刃並に、映画館にお客さんが押し寄せているのが異常だった。凄いな。

さらに不思議だったのは、映画の前後半でまったく違う物語が展開されたことだ。前半の物語と後半の物語が最後に何かつながるのかと思ったけど、全然そんなことはなかった。

僕の体感では、「前半1/3、後半2/3」ぐらいの時間配分だったように思うが、その前半・後半で、主人公がまったく変わる。一応、「同じ屋台を舞台にしている」という共通項はあるが、むしろそれしか共通項がない。つまり、前半の短編と、後半の中編が合わさって、長編映画として提示されている、というような雰囲気なのだ。

なんだってこんな異様な構成になっているのか分からないし、僕は、1つの物語しては成立していないと思うのだが、どうなんだろうか。

と、あーだこーだ書いたが、非常に不思議なことに、映画としては結構好きだった。正直、何が良かったのか、上手く説明はできない。前後半で物語が繋がっていないというだけではなく、全体的にストーリーは破綻しているように思う。いや、前半は前半だけ捉えれば物語になってると思うが、後半はあまりにハチャメチャではないか。まったく同じ物語を、普通に撮ったら、まず映画としては成立しないと思う。

しかし不思議なことに、どちらかと言えば後半の方が面白かった。それは圧倒的に、短髪の女性の存在感に依っていると言えるだろう。後半の物語がハチャメチャなのは、この短髪の女性の存在ゆえなのだが、しかし同時に、この短髪の女性の存在ゆえに、この後半の物語は「観れる」ものとして成り立っている。なんというのか、この短髪の女性の”狂気”に満ちた行動は、ずっと観ていられるような気がする。ってか、もっと観てたかったなぁ。

前半のストーリーは、分かりやすく「恋(というか「失恋」)」だったが、後半のストーリーを「恋」と呼んでいいのかはなかなか難しい。短髪の女性の振る舞いは、もし適切な単語を当てはめるとするなら「ストーカー」としか言いようがないし、それが彼女にとって「恋」なのだとしても、目的が謎すぎる。

前半から後半に物語が切り替わるタイミングで、「6時間後、彼女は別の男に恋をする」と説明が入るので、恋に落ちた側が短髪の女性であることは間違いない。そして、そう説明されるからこそ、彼女の振る舞いを「恋」という括りで捉えながら映画を観ることができる。

しかし、もしその説明がなかったとして、彼女の行動だけから、それを「恋」だと判断できるだろうか? もちろん、それを示唆する細かな行動は散見されるだろうが、トータルでの彼女の行動があまりに異様であるために、そう断定することは難しくなるのではないかと思う。

みたいな感じで、冷静に考えると、この短髪の女性の振る舞いを許容できるはずもないし、「もっと観ていたかった」なんていう感想が引き出されるようなものではないはずなのだ。にも拘わらず、短髪の女性が出てくる後半の話の方が面白かったし、メチャクチャ惹きつけられた。

不思議だ。自分でも、なんだかよく分からない。

あと、後半の話は、音楽が良かった。今調べて曲名を知ったけど、「California Dreamin'」って曲が随所で流れる。この曲、メチャクチャ聞き覚えがあるっていうか、もちろんそもそも有名な曲なんだろうけど、昔の日本のドラマでも流れてたような気がする。僕は、あんまり音楽で時代を記憶しない人間なんだけど、それでもこの「California Dreamin'」は僕に、異様なほど「懐かしさ」を思い起こさせる。なんでだろう? 不思議。それに、曲名を調べてやっと理解できたけど、だから「カリフォルニア」って言ってたのね。なるほど。

あと良かったのは、香港の街並みとか、夜のネオンの色彩みたいな映像的な部分。僕はあまりそういうことに敏感ではないのだけど、全体的にとにかく色彩は印象的だった。

前半はほぼ完全に夜が舞台で、香港の夜の色が凄く特徴的だった。後半の話は、昼間のシーンもあるけど、それでも屋外は少ない。あまり外から日が差さない室内であーだこーだしている場面が多いので、全体的に「暗い中での色彩」みたいなものが強調されているように思う。後半の短髪の女性の服装も全体的にキャッチーで彩りが良くて、色彩に溢れた街や室内で負けない存在感を放っていた。全体的なこの明るい色彩が、物語の異様さを薄める効果を果たしているのかもしれないし、一方で、夜や薄暗い室内のシーンが多いことが、全体の異様さを強調しているようにも感じられた。

とかなんとかあれこれ書いてみるけど、やっぱり何が良かったのか上手く説明できないなぁ。とにかく、なんだか良かった。不思議な映画だったなぁ。あと、前半に出てきたの、金城武だったのね。エンドロール見て初めて知った。懐かしいなぁ、金城武。日本語で喋るシーンもちょっとだけアリ。

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長江貴士
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