【映画】「エターナル・サンシャイン」感想・レビュー・解説
いやー、途中までどうしたもんかと思っていたけど、最終的には面白い映画で良かった。しかし、前半は結構置いていかれたなぁ。全然意味が分からなかった。
友人が、「俺のオールタイムベスト級の作品が渋谷でやるから観てくれ」みたいなことを言ったので、この映画の存在を知った。相変わらず、散々映画を観ているくせに映画にまったく詳しくないので、どうやら有名な作品らしいこの『エターナル・サンシャイン』のことを、これまでまったく知らずに生きてきたようだ。20年前の公開かぁ。死ぬほど本読んでた時期だし、映画観る習慣なかったもんなぁ。
さて、その友人とは特に映画の趣味が合うわけではないのだけど、それはそれとして、基本的に「映画館で過去の名作が上映されたら可能な限り観るようにしている」というスタンスなので、本作も観てみることにした。
冒頭は、凄く分かりやすい。いや、ここにも「???」という違和感は無いではないんだけど、それはキャラクターの造形で上手く乗り越えている。冒頭からしばらくは、「偶然出会った男女がすぐに仲良くなり、恋に落ちていく」までの、よくありがちといえばありがちと言えるかもしれない展開である。ここで戸惑うことはない。
しかし作中で「ある事実」が明らかになってからは、「おいおい、今どうなってんねん」という感じだった。「ある事実」というのは別に伏せる必要はないと思うので書くと、「ラクーナ社が提供している『ピンポイントで記憶を消去できるサービス』」である。この物語世界では、このサービスは日常的に存在するようで、多くの人が当たり前に使っているらしい。
そして、冒頭で仲良くなる男女、ジョエルとクレメンタインが破局した後で、クレメンタインがこのサービスを使ってジョエルの記憶を消去した、という事実が明らかになるのだ。そしてそれを受けてジョエルも、腹いせにと、クレメンタインの記憶を消去する決断をするのだ。
で、ここからの展開が、2つの意味でややこしかしかった。
1つ目は割と僕の理解力の問題なのだが、「ジョエルの家で何が行われているのか、しばらくよく分からなかった」というのがある。いやもちろん、「ラクーナ社のスタッフが記憶の消去をしようとしている」ことは分かる。ただ、「どうしてジョエルの家でそれをやっているのか」や、「ジョエル宅を騙し討ちみたいに襲撃していた理由」が分からなかったのだ。
恐らくだが、「ジョエルの家でやっていた理由」は、ジョエルが順番を割り込んで無理やり早くやってもらおうと頼んだからだろう。それは後の方で「きっとそういうことだろう」と理解した。そして「襲撃していた理由」だが、きっとこれは僕の勘違いだと思う。展開が早すぎて僕にはそう思えたのだけど、後から振り返ると、ジョエルが薬(恐らく睡眠薬)を飲むシーンがあったから、ラクーナ社とは、「順番を早めるためには、あなたの自宅で行うしかない。そのため、家に帰ったら睡眠薬を飲んで寝ていてほしい」みたいな話がついていたのだろう。
ただその辺りのことはちゃんと説明されないので、僕には「ラクーナ社の人間が、不意をついてジョエル宅を襲撃し、無理やり記憶の消去をしようとしている」みたいに見えていて、だから「なんでそんなことするんだ?」としばらく理解できずにいた。まあ恐らく、こんなところで引っかかる人間はいないんだと思うが、前半はこの点でしばらく混乱していた。
そして2つ目は、僕だけではなく観ている人全員が困惑する部分だろう。「冒頭と話が繋がっていない問題」である。これもまた、混乱に拍車をかける要素だった。1つ目の理由で混乱しているところに、さらにこの「冒頭と話繋がってなくない?」問題が降り掛かってくるので、「おいおい、マジで訳わかんねー話だな」と思いながら観ていた。
ちなみに、この点は書いてもネタバレにはならないと思うが(そして、観る前に理解しておいても良いことだとは思うが)、この2つ目の問題は、後半できちんと解決する。しかし、かなりラストに近い方でのことなので、それまではずっと「どゆこと?」という感じになるだろう。ただ、この「解決」はなかなか絶妙で、前半で随所にあった「違和感」が、この「解決」によってちゃんと説明がつく。
さてそんなわけで、前半は結構混乱の中観ていたのだけど、徐々に状況が理解できるようになっていった。特に、「『脳内ジョエル』が、クレメンタインの記憶消去に抗うために奮闘する」という、本作の最も奇妙で最も面白い展開が明らかになってくるにつれて、徐々に混乱は収まっていった(映像的には、ここからますます混乱していくのだが)。
さて、「『脳内ジョエル』が、クレメンタインの記憶消去に抗うために奮闘する」についてもう少し説明しておこう。文字ではなかなか伝わらないとは思うが。
まず、実際のジョエルは部屋で寝ている(頭に装置を付けられて、記憶消去の真っ最中)なのだが、ジョエルの脳内にいるジョエル(これを「脳内ジョエル」と呼ぶことにしよう)は、「自分の部屋でラクーナ社のスタッフが自分の脳内からクレメンタインの記憶を消している最中である」と理解できている。そして「脳内ジョエル」は脳内で、「クレメンタインの記憶が少しずつ消えていく様」を体験していく。過去の様々な記憶が再現され、そこからクレメンタインが消えていくのである。
そして、そんな様子を何度も目にしたジョエルは少しずつ、「やっぱりクレメンタインの記憶を消したくない!!!」と思うようになる。しかし、時すでに遅し。ジョエルは寝ていて身体を動かせないし、「脳内ジョエル」が室内にいるラクーナ社のスタッフに意思を伝えることも出来ない。スタッフは、粛々とクレメンタインの記憶を消去していく。しかし「脳内ジョエル」は「脳内クレメンタイン」と協力し、「ラクーナ社のスタッフが知らない記憶領域に隠れる」という形で、どうにか記憶消去に抗おうとするが……。
というわけで、なんとなく伝わっただろうか? 観ていても結構混乱する設定だが、文字で説明しようとするともっと大変という感じで、「観てくれ」と言うしかなくなる作品という感じがする。
さてそんなわけで、「ストーリーがよく分かんない!」という混乱を抜けてからは、映像的には一層カオスになっていくのだけど、ただ「愛を貫こうとする男女のきらめき」みたいなものがぶん回されている感じがあって、爽快感がある。
しかしこの作品、あまり深く考えなければ「素敵な恋物語!」ってことになるんだけど、面白いのが、中盤以降映し出される恋模様って、「脳内ジョエル」と「脳内クレメンタイン」のものだってこと。「脳内ジョエル」と「ジョエル」はイコールと考えて良いけど、「脳内クレメンタイン」と「クレメンタイン」は決してイコールではない。つまり「ジョエル(脳内ジョエル)」は、「ジョエルの脳内で美化されたクレメンタイン」と恋をしているわけで、そりゃあ「きらめき」も満載だよなぁ、という感じになる。この設定が、個人的には秀逸に感じられた。
そうなると、「じゃあ現実はどうなのか?」とか「この物語どう終わるんだ?」みたいな話になってくると思うんだけど、この辺りもとても上手い。この物語、閉じるのメチャクチャ難しいと思うんだけど、それを「これしかない!」というやり方で終幕していて、この「物語の着地のさせ方」が絶妙だったことで、物語全体が一層良く見えているような感じもある。脚本はチャーリー・カウフマンという人だそうで、BunkamuraのHPの紹介には「唯一無二の脚本化」と書かれている。もちろん知らない人だが、凄い人なんだなぁと思う。
あと、「ジョエルの部屋で記憶消去を行っているスタッフが馬鹿騒ぎしている」という設定は必要なのか? と前半では感じていたのだけど、これもメチャクチャ必然性のある設定で、まさかそんな展開になるとは思ってなかったから驚いた。ホントに良く出来てる。たぶん、僕が気づいていないような繋がり・関連性・伏線みたいなものもあると思うんだけど、そういうのを見つけるのもきっと楽しいだろう。
しかしホント、観始めてからしばらくはどうなることかと思ったけど(あまりにも意味が分からなかったので)、実に良い作品だったなと思う。
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