【映画】「機動警察パトレイバー THE MOVIE」感想・レビュー・解説
さて、相変わらず「パトレイバー」の何たるかを知らないまま本作を観たけど、面白かった!僕が鑑賞前に知っていたのは、「確か押井守の作品だった気がする」ぐらい。そんな人間でもちゃんと楽しめるぐらいバッチリエンタメ映画をやってるし、シンプル(少なくとも2024年視点からはそう見える)なのに割と深い物語を描いている感じもあって、純粋に楽しめた。
しかし、本作が1989年の映画だってのはちょっと凄いなぁ。現代なら「OS」「プログラミング」「ウイルス」「ワクチン」「トロイの木馬」みたいな話はまあ普通に通じるだろうけど、「Windows95」が発売されたのが1995年なんだから、それよりも6年も前にそんな話を中核に据えた物語がエンタメ作品として上映されていたことにはちょっと驚かされる。当時の、コンピュータオタクというわけではないごく一般的な人たちは、物語の設定とかちゃんと理解できたんだろうか? そういう意味でも驚かされる物語だった。
さてそんなわけで、内容の紹介をしよう。
東京では今、政府主導の「バビロン・プロジェクト」が進行している。その一環として、東京湾に「木更津人工島」と「川崎人工島」の2つが作られ、既に人々が生活している。「木更津人工島」の広さは45万平方メートル。いずれ2つの人工島が大環状線によって接続され、さらに16箇所作られている排水装置により排水を行うことで、東京湾に4万5000ヘクタールもの用地を確保しようという壮大な計画だ。
しかしあまりにも壮大な計画故に、今世紀中の完成は不可能と思われていたが、それを解決したのが「レイバーシステム」だった。「レイバー」とは人が乗るタイプの産業用ロボットで、熟練の職人の数十倍の能力を発揮する。既に東京近郊では、「バビロン・プロジェクト」のために3600台のレイバーが稼働しているが、それは、国内で保有するレイバーの45%に相当する。そして、そんなレイバーの整備すべてを担っているのが、これも東京湾上に建設された通称「方舟」である。
さて、そんな木更津人工島に常駐する警視庁特車2課の第2小隊は、ここ1ヶ月の勤務で疲弊していた。というのも、ここ1ヶ月で「レイバーの暴走事件」が22件も起こっているからだ。先月まではほとんど起こっていなかったにも拘らず、である。さらに、交代としてやってくるはずの第1小隊は、「自衛隊の試作レイバーの暴走事件」のせいで1週間訓練期間が延びたため、第2小隊の面々はこの過酷な勤務を最低1週間も続けなければならなくなった。
一方、第1小隊の隊長である南雲は、先日新たに導入された新OS「HOS」の検証を行っていた。レイバー製造の後発だった篠原重工が、市場の独占を狙って発表した画期的なOSで、機体が旧式でも「HOS」のインストールによって性能が30%も上がるとされていた。しかし南雲はとある筋から確認を依頼され、内密に検証しているのだった。
そして、第2小隊に所属する篠原遊馬は、直近で起こった22件の暴走事件を精査し、共通項は「HOS」しかないと突き止めた。彼は名前からも分かる通り、篠原重工社長の息子であり、それ故、レイバーのこととなると熱くなってしまうところがある。しかも今回は、犬猿の仲である父親の会社の新OSが原因かもしれないのだ。彼は、徹夜を厭わずに調査を進める。
一方、第2小隊の隊長である後藤も密かに調査を進めており、遊馬の検証と合わせて1つの結論にたどり着く。それは、「HOSの不具合ではなく、最初から不正なプログラムが仕掛けられていた」というものだった。
そのため後藤は、最初から、「HOS」の開発者である天才プログラマー帆場暎一を探っていた。しかし、残念ながら一足遅かった。実は帆場は5日前、「方舟」から飛び降りて自殺していたのだ。
しかし帆場は一体、「HOS」にウイルスを仕掛けてまで何をしたかったのか…? 遊馬らはその検証を急ぐのだが……。
というような話です。
とにかくさっきも書いた通り、映画を観ながらずっと思っていたことは、「1989年当時の観客は、本作をちゃんと理解できたのだろうか?」ということだった。35年前だからなぁ。今なら全然違和感のない話だけど、35年前には「???」となってもおかしくないと思う。よくこんな企画が通ったなと思うし(もちろん、アニメの評判が良かったからだろうけど)、さらに、35年前によくもまあこんな物語を作れたものだなと思う。
物語の中にちょいちょいよく分からない部分が出てくるが、恐らくそれは「アニメを観ていないから」だと思う。そもそも「篠原遊馬」と「泉野明」の関係がよくわからないし、その泉野明がアルフォンスの話で泣くのも謎だった。あと、後半で唐突に出てきた女性(名前をなんて発音してるのかよく分からなかったのだけど、調べるとどうやら「香貫花」らしい。確かに「かぬか」と言ってた気がする)も「誰???」ってなった。まあでも、そういうシーンはさほどなく、基本的にはアニメを観ていなくても楽しめる作品と言っていいと思う。
ストーリー展開は「エンタメ作品の王道」という感じで、特別言及するようなところはないのだけど、王道を進んでいるからこそとにかく面白く観れる。「ロボットが出てくるのに、ぶっ壊される家は下町風情」みたいな違和感は随所にあるものの、それはそれで「35年前に想像された未来」みたいな感じがあって面白い。また恐らくそれは、「急速な機械化・都市化に対するアンチテーゼ」的な要素も含んでいるように思うし、それは作品全体のテーマにも絡んでくるものだと思う。
基本的にはエンタメなのだけど、「カミソリ後藤」と呼ばれる第2小隊隊長の後藤(事情はよく分からないが、超優秀にも拘らず人工島で燻っているらしい)が時々哲学的なことを口にしたりする。そんな後藤の「嘆き」は、「こんな日本でいいのかねぇ」と投げかけるような部分があって、そういう考えさせる要素も含んでいるところが良いなと思う。
またこの後藤は、人を使うのが上手い。具体的には触れないが、後藤の絶妙な采配によって、遊馬が「HOS」について徹底的に調べる流れになっていく感じはとても上手いなと思う。
また、天才プログラマーの仕掛けもなかなか絶妙だよなぁ。よくこんな設定考えたものだなと思う。帆場が一体何を考えてこんな仕掛けを組み込んだのかははっきりとは分からないものの、それを少し示唆させる描写はある。帆場は2年間で26回も引っ越し、そのすべてが、ボロボロの建物か、もうすぐ取り壊される再開発地域にあったことが分かっている。そしてさらにもう1つ共通点として、そのすべての建物から超高層ビルが見えるのである。恐らく「急速な都市化」みたいなものに何か感じるものがあったのだろう。そして、「それをぶち壊しにする計画」を立てたというわけだ。
しかし、普通には難しい。というのも、「HOS」は帆場がたった1人で作ったものだが、当然リリースされる前にはチェックが入る。だから、「レイバーを暴走させるような分かりやすいプログラム」を書いていたらバレバレだ。本作で示される「レイバー暴走の複雑な仕組み」は恐らく、そういう理由からではないかと思う。
帆場はとにかく、普通には分かりにくい形で「レイバーを暴走させてぶち壊しにする」必要があった。単にレイバーを暴走させるだけでは、プログラムをチェックする段階でバレるかもしれない。そのため、かなり複雑な”スイッチ”を用意しているのだが、これが「なるほどなぁ」という感じのものだった。単にプログラムをどうこうするだけではない仕掛けがあって、それ故に最後の「難関ミッション」にも繋がっていくわけだが、「天才の仕掛け」と「物語・映像的な展開」の両方を見事に両立させる絶妙な設定だったと思う。ほんと上手いよなぁ。
あと、「バベル」「方舟」「エホバ」などキリスト教的な要素が散りばめられていて、『エヴァンゲリオン』なんかもそうだけど、こういうやっぱりよくモチーフになるな、と思う。個人的には結構不思議だなと思ってる。日本人に、そんなに馴染みがあるモチーフとは思えないからだ。同じようなモチーフなら「古事記」とか「日本書紀」なんかの要素が散りばめられていてもいいように思うんだけど、そういうことってあんまりないよな、と。なんでだろう。
まあそんなわけで、エンタメ作品としてとても面白かった。押井守、やっぱ凄いんだなぁ。
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