【映画】「悪なき殺人」感想・レビュー・解説

これはよく出来てる映画だなぁ。面白い。とにかく、ストーリーがとても良く出来てる。

正直、物語の中盤ぐらいまで、何が起こっているのか全然理解できない。「行方不明になった女性がいる高原での男女の関係」の話だったはずなのに、突然場面が変わり、主人公も変わる。今観ている映像が、冒頭で流れていた話とどんな風に繋がっていくのか、全然分からない。

さらに、ある人物の物語の区切りとなる場面で、まったく意味不明な展開が巻き起こり、さらにそこからまた全然違う場面へと展開する。既にその時点で全体の半分ぐらいは越えていたはずだが、起こった出来事を整理する情報は与えられない。

しかし、残り1/4ぐらいの辺りから、それまでに出てきたピースがバンバンとハマっていき、物語の全貌が明らかになっていく。

そしてそうなると、今度は、この物語がどう閉じるのかに関心が移る。そしてそのラストも、この物語の流れを上手く活かした、なるほどそこに着地するのか、と感じさせるものだった。

とにかく、すべてのピースが見事にハマり、まさに「悪なき殺人」と言いたくなるような状況が生まれる。

物語的に非常に面白いのは、主要な登場人物たちがそれぞれ、まったく違う現実を生きている、ということだ。

もちろん、我々観客が客観的に捉えることができる現実は1つである。しかし、様々に特異な状況が重なることで、同じ現実を生きているにも関わらず、登場人物たちはその現実を「まったく異なる解釈」で捉えていく。

それぞれの登場人物は、それぞれが捉えた現実の中で、合理的と言っていいだろう行動を取る(ジョゼフだけは、ちょっとそうとは言い難い部分はあるのだが)。そして、各人がそれぞれの解釈の中で合理的な行動を取ることによって、本来だったら起こらなかったはずの出来事が起こってしまうことになる。

それは確かに、平易な言葉で表現すれば「勘違いの連鎖」ということになるのだが、5人の主要な登場人物が皆、「他人には話せない秘密」を抱えているが故に、状況はよりややこしくなっていく。彼らの「勘違い」が「誰にも言えない秘密」に関わるものでなければ、恐らくこんな「勘違いの連鎖」は成立せず、どこかで誰かが違った行動をして、悲劇に至ることはなかっただろう。しかしそれぞれの「勘違い」が「自分以外には秘密にしなければならないこと」であったが故にこんな展開になってしまう。

ホントに、とにかく「良く出来てる」という感想が一番しっくりくる映画だと思う。

内容に入ろうと思います。
共済組合の加入者を訪問する仕事をしているアリスは、雪深い高原で車を走らせている。ニュースでは、パリから来た女性が行方不明になっていると報じており、友人の警官ヴィジエもその捜索に加わっているようだ。

アリスは、父の牛舎を手伝う夫ミシェルと2人で生活しているのだが、共済組合に加入している気難しい牧場主ジョゼフに恋をしてしまった。ジョゼフは母を喪い精神的に不安定になっており、アリスに対してもそっけない態度ばかり取るのだが、アリスは彼のことを愛してしまい、ジョゼフと関係を持ってしまってもいた。

そんなある日、夫のミシェルが顔中血だらけにして帰ってきた。アリスは思った。ジョゼフと喧嘩したのだ、と。つい先日、ジョゼフが大切にしていた犬が何者かに撃たれる事件があり、アリスは、ジョゼフへの怒りを抱いたミシェルが犬を殺し、ジョゼフと喧嘩したのだと考えた。

そして翌朝、夫は牛の世話を放り出して失踪していた……。

というような話です。

出来るだけ事前情報を知らずに読んだ方がいいと思うので、ほとんど内容は触れずにおきます。

もちろん、脚本上明らかに「無理がある」と感じる場面もある。その設定無しには物語全体が成立しないが、さすがにそれは偶然が過ぎるだろう、というような設定が。ただ、フィクションなのだから、そういうところで「リアリティ」とか言わなくてもいいかなというのが僕の感想だ。その1点の偶然以外は、どれも「あり得る展開」だと思うし、逆に言えば、その1点の偶然さえ起こってしまえば、このような出来事も起こりうるのだ、とも言えるだろう。

原題が「ONLY THE ANIMALS」で、「動物だけ」という意味でいいんだろうか。アリスが始めの方でジョゼフに対して、「話し相手は動物か犬だけだって言ってたわよね」みたいなことを言うのだが、それと関係するのか。あるいは、「主要な登場人物は動物的でしかない」みたいな意味なんだろうか。「動物だけが真相を知ってる」みたいな意味かもとも思ったが、5人それぞれの状況に対して常に動物がいたわけではないかなぁ。確かに、一番悲劇的な場面は、犬が見ていたけれども。

原題が意味するところがもう少し理解できると面白いかもしれないと思った。

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