【映画】「悪魔と夜ふかし」感想・レビュー・解説
なかなか面白い「モキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)」だった。本作は、「1977年のハロウィンの夜に生放送された番組のマスターテープが最近見つかった」という設定をベースにしており、『ナイト・オウルズ(Night Owls)』というその番組の遍歴をまとめたVTRの後、「悪魔と夜ふかし」と題されたハロウィンの夜の番組の映像を、CM中の舞台裏の映像も含めて1本の映画にまとめた、というものだ。もちろん、『ナイト・オウルズ』なんて番組は存在しないわけで、設定はすべて嘘なのだが、「ハロウィンの夜に生放送された番組」の作りがとてもリアルで、「本当にこんな番組が存在したんじゃないか」という気分にさせてくれる。
公式HPによると、「1970年代に存在した怪しげなテレビ番組の雰囲気」を出すのに最も苦労したとのこと。そのため、映画の撮影を「実際の生放送を収録しているかのように行った」そうだ。かなりリアリティにこだわった作品と言えるだろう。ちなみに、「Owl」とは「フクロウ」のことで、「Night Owls」は英語のスラングで「夜ふかしすること」を意味するそうだ。
では、まずは「ナイト・オウルズ」という番組の遍歴について紹介していこう。
1971年4月4日に始まったこの番組は、人気のラジオアナであるジャック・デルロイの司会の元、インタビュー・音楽・コントなどで構成される深夜の番組だった。観客を入れた生放送で、音響は基本的に、スタジオにいる生バンドが担っている。番組はすぐに人気になり、「週に5夜、彼は国民を不安にさせた」ほどだった。また、同番組を放送するUBCはジャックと5年契約を結んだ。毎年エミー賞の候補に上がり、彼はこのまま「深夜の帝王」を目指そうと考えていたのである。
そんな彼を支えたのは女優のマデリン・パイパー。芸能界屈指のおしどり夫婦と言われており、その仲はよく知られていた。しかし彼にはもう1つ、支えとなる存在があった。それが、「グローブ」という名の紳士クラブである。
1800年代に創立されたこの謎の団体との関わりはラジオ時代から噂されており、同団体には政治家や実業家など有力者が多く参加していた。「金持ちのサマーキャンプ」と呼ばれる奇妙な儀式を繰り返すなど謎の多い団体だったが、影響力も大きく、ジャックもこの「グローブ」と関わりがあると目されていたのである。
さて、鳴り物入りで始まった『ナイト・オウルズ』と司会者ジャックはどうなったのか。実は4年経っても、裏番組(「カーソン」という人物が司会を務めているようだ)に視聴率で負けていた。このままでは「負け組」のイメージがついてしまうと焦っていたところに、ジャックの世界を根底から揺るがす大事件が起こる。1976年9月、喫煙の習慣のない妻がなんと末期の肺がんと診断されたのだ。そんな中ジャックは、病弱な妻を番組に出演させることに決めた。そしてその放送回は、番組史上最高の視聴率を叩き出したが、惜しくもカーソンに1ポイント負けてしまった。その放送の2週間後、マデリンはこの世を去った。
最愛の妻を喪い、また番組の視聴率も低迷していたこともあり、ジャックは1ヶ月行方をくらませた。しかしその後復帰、また番組作りの精を出すのだが、なかなか結果は付いてこない。打ち切りも噂されていたぐらいだ。
そんな中放送されたのが「悪魔と夜ふかし」だった、というわけだ。
さて、そんな「悪魔と夜ふかし」は、主に3つの要素で構成されていた。1つは、「霊聴師」「奇跡の人」などと呼ばれていたスピリチュアリストのクリストゥ。彼は「霊の声が聴こえる」と言って、観客と対話をしながら、死者の声を届けるというパフォーマンスをする。そしてその次に出てくるのが、カーマケル・ヘイグ。元々はラスベガスなどでも人気を博す「ショービズ界の至宝」と呼ばれたマジシャンであり、彼の「集団催眠」についてジャックは「前代未聞」と評していたが、現在はショーの世界から引退している。今は「IFSIP(超常現象科学的調査国際連盟)」という団体に所属しており、「超常現象の存在を科学的に研究しつつ、超常現象を謳うエセ連中のトリックを暴き出す」という活動を行っている。カーマケルは、この日行われるデモンストレーションにどのようなトリックがあるのか見破る存在として呼ばれている。
そして、最も重要なのが、悪魔を召喚できるという少女リリーと、彼女の治療を担当しているジューン・ロスミッチェル博士である。ジャックがジューンの著書『悪魔との対話』を読んで衝撃を受けスタジオに呼ぶことにしたという、ジャック肝いりの企画である。
リリーは、3年前に保護された少女だった。彼女は、悪魔崇拝者であるサンダー・ディアボが率いるカルト集団「アブラクサス第一教会」に「生贄」として囚われていた。彼らは「犠牲さえ払えば何でも手に入る」みたいな思想を抱いており、その「犠牲」として子どもたちを悪魔に差し出していると噂されていたのである。
「アブラクサス第一教会」はFBIもマークしており、誘拐や銃犯罪に関与が疑われていたのだが、1974年8月に、教団施設で警察との銃撃戦が始まった。3日間の膠着状態の後、サンダーは信者たちに「家と身体にガソリンをかけろ」と指示、そのまま信者のほとんどが命を落とした。
しかしその現場から奇跡的に救い出された少女がいたのだ。それが、当時10歳だったリリーである。しかし彼女の扱いにFBIも手を焼いていた。どうにもまともなコミュニケーションが取れないのである。そこで、スタンフォード大学で超心理学の博士号を取得したジューンに話がやってきた。彼女はリリーに催眠退行の治療を施し、長い時間を掛けて信頼関係を築いてきた。そしてその過程でジューンは、「リリーの中には悪魔が憑いている」ことに気づいたのである。その悪魔は「アブラクサスの下僕」だそうで、リリー自身は「リグリス(もぞもぞ)」と呼んでいるという。もぞもぞとやってきて、もぞもぞと去っていくからだ。
こうしてリリーは、生放送の場で「悪魔の召喚」を行うことにするのだが……。
さて、物語の設定としてはこんな感じである。あとはとにかく、「『ナイト・オウルズ』という番組を楽しみましょう」という感じの作品です。「実際にこんな深夜番組が放送されててもおかしくないだろうなぁ」というなかなか軽妙な番組で、一応テイストとしては「ホラー」ではありますが、全体的には楽しく観られるんじゃないかと思います。
また本作のもう1つ面白いポイントは、「CM中の舞台裏がモノクロの映像で流れる」ということでしょう。舞台裏の様子については、生放送番組のマスターテープのように映像が残っていたという設定にするのはなかなか難しいと思うので、それで「モノクロ」にして「ここはちょっと違いますよ」ということが伝わる形にしているのだと思う。
さて、舞台裏では「トラブルへの対処」や「スタッフの説得」など色んな様子が映し出されるのだが、割とゲスい話が出てくるのも面白い。真相ははっきりとは分からないものの「番組で放送しているデモンストレーションが”ヤラセ”であることを示唆するような場面もあるし、あるいは、現在番組のメインスポンサーになってくれているキャベンディッシュの会長夫妻が観覧に来ていることに対する対応をプロデューサーと検討するようなやり取りもある。そもそもこの「悪魔と夜ふかし」と題したハロウィンの夜の番組も、低迷する番組の起死回生の策として放送しているわけで、映画『悪魔と夜ふかし』を観ている観客としても、「どれがホントの出来事で、どれが視聴率のためのヤラセなのか」がよく分からない感じで観ることになる。その辺りの判然としない雰囲気も、作品の雰囲気と凄く合っていて、良かったなと思う。
最後の最後だけ、ちょっと「???」となるのだが、もしかしたらここは考察しがいのあるポイントだったりするのかもしれない。ちょっと僕には上手くは汲み取れなかったが、「悪魔とジャックのやり取り」を踏まえると、「はっきりとは説明されないが、この背後には何かある」という感じがするし、考察が得意な人には、描かれた要素から何か見えているものがあるのかもしれない。
まあそんなわけで、かなりリアルに作り込まれたモキュメンタリーで、エンタメ作品としてシンプルに面白かったなと思います。
さて最後に。映画の冒頭で「色んな制作会社の短い動画」が流れると思うが、その中に「Future Pictures since 2068」と表示されるものがあった。「since 2068」という表記に「???」となったのでメモしておいたのだが、ネットで調べるとそういう制作会社が存在するそうだ。しかし「since 2068」の意味はよく分からなかった。僕のように「違和感を覚えて気になって調べる人を増やそう」とする戦略だろうか。まあいいんだけど。