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月刊文芸誌『文活』 | 生活には物語がみちている。

noteの小説家たちで、毎月小説を持ち寄ってつくる文芸誌です。生活のなかの一幕を小説にして、おとどけします。▼価格は390円。コーヒー1杯ぶんの値段でおたのしみいただけます。▼詳…
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2022年5月の記事一覧

シェアハウス・comma 賀島 実紀編

この作品は文芸誌・文活のリレー小説シリーズ『シェアハウス・comma』の第5話です。シリーズを通して読みたい方はこちらのマガジンをご覧ください。 ひたすらプログラミングをしていると、きっと音楽を奏でるひともこんな気分なんだろうなと感じる。キーボードにばらばらに並んでいる、"W"だとか"H"だとか"control"だとかの記号を、コードのバランスをくずさないように、ていねいに打ち込んでいく。考えるでもなく、考えないでもなく、何百回もつくってきた朝食をまた今朝もつくるかのように

【文活5月号ライナーノーツ】西平麻依「噂通り、一丁目一番地」

『オーダーメイドの言葉で』 はじめに 連載小説を書いてみませんかと文活運営のなみきさんにお誘いいただいた時、私は「なみきさんも連載を書かれますか? それなら……」と、ゴニョゴニョと歯切れの悪いお返事をしたと記憶しています。 これは自信のなさの表れで、書き手として及第点に満たない態度だったなあと反省しきりですが、そんな気弱な気持ちからスタートした『噂通り、一丁目一番地』の最終話がこのたび形になり、ホッとしています。物語の完結を見届けて下さった皆さま、また私の新しいチャレ

忘れ物を探して【短編小説】

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若者

二〇二〇年、秋の終わり。午後八時が来るのを、私はじっと待っている。一人暮らしの学生アパートのボロ階段を降りると、マスクの中で息があたたかくこもるのがわかった。夜道を歩いて七分ばかり、こうこうと照るスーパーマーケットの明かりを目指す。自動ドアが開くなり、私は早足で歩く。 閉店まであと一時間の店内で、私はお惣菜コーナーを一直線に目指した。スーパー店員の白いユニフォームを着たおじさんが、大きな背をかがめて、お惣菜の二割引きのシールのさらに上に半額シールを貼り付けていた。 おじさ

連作小説「栞」 ‐ 2冊目・成果 -

   テーブルに伏せたままのスマホが震えた。18時32分。おそらく、いや、ほぼ確実に夫の慎介からだろう。〈今から会社を出ます〉律儀で丁寧なその報告を待ち焦がれていたのは、いったいいつまでだったか。無心で液晶画面上の人差し指を滑らせたら、頬をポッと染めたうさぎが頭上でおおきな丸を描きながら〈りょーかい♪〉と笑った。18時37分。タイムリミットはあと1時間だ。  たとえば、複雑な模様を一針一針ミリ単位で表現する刺繍。たとえば、一切の塵をも感じさせないほどすべての網目が透き通っ

【文活2022年5月号】西平麻依さん「噂通り、一丁目一番地」最終話|ゲスト作家は兄弟航路さん|読み切り小説三編

こんにちは!文芸誌・文活です。 沖縄では梅雨入りし、すでに夏の足音が聞こえるような日々が続いていますね。ゴールデンウィークもおわり、皆さんそれぞれ毎日に向き合う生活を送られているのではないかと思います。文活の物語も、登場人物たちが自分や家族、関わる人々と向き合うような、そんな作品を集めました。 ・西平麻依さん『噂通り、一丁目一番地』第四話 ・左頬にほくろさん『栞』第二話 先月号から引き続き掲載するこの二作品は、登場人物たちが遭遇する偶然の出来事によって、物語が進んでいく