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宗派の壁は低くなる
※文化時報2021年11月22日号の掲載記事です。
一般社団法人「未来の住職塾」塾長で浄土真宗本願寺派僧侶の松本紹圭氏(42)は、新型コロナウイルス感染拡大が落ち着いた後の仏教界について「宗派の壁が低くなり、大乗仏教の新しい時代がやって来るのではないか」と予言する。背景には、「テンプルモーニング」での実践がある。(山根陽一)
テンプルモーニングは、松本氏が所属する光明寺(東京都港区)で月に1~2回開かれる。お寺の朝を体験してもらおうと、松本氏が発案した。参加者は朝、本堂や境内を掃除した後、お茶を飲みながら雑談する。
今月8日、出勤前に参加した会社員の平田潤さん(38)は、近くの企業に勤めている。掃除や雑談をした後は、仕事で背負っていた「重いもの」を下ろせたような気分になるという。
東京で慌ただしく暮らす人々にとって、朝のお寺に流れる時間や空気は普段と異なるようだ。老若男女が共に掃除するという行為は、人と人との間に絶妙な距離感を生む。「ワイワイしゃべりながらするのも黙々とするのも自由。無理なく自然に過ごせる」。リフレッシュしてもらいつつ、お寺の日常を可視化することで、仏教の一端に触れてもらえるというメリットもある。
他の寺院からも、宗派を超えて実践する僧侶が現れはじめた。
自身がパーソナリティーを務めるインターネットラジオ番組「テンプルモーニングラジオ」では、各地の宗派を超えた僧侶たちと対談。これまでの歩みや、今関心を持っていることなど、対話を通して思索を深め合う。各寺院での読経も流し、癒やしの時間を提供している。
竹ぼうきで境内を掃除する参加者
「接続する僧」に
松本氏は東京大学文学部哲学科を卒業後、祖父が僧侶だったこともあり、仏教の可能性を感じ、縁あって得度。仏教界の変革も視野に入れて僧侶になったという。2011(平成23)年には、インド商科大学院へ留学し経営学修士(MBA)を取得した。
翌12年から開いている「未来の住職塾」は、伝統教団の研修などにも採用され、これまでに700人余りの僧侶を育てた。年5~6回の講義だが、中心になるのはお寺向けの「経営学」。実践的な会計からビジネスプラン、戦略・戦術の立て方を教える。
一番大事にしている問いは、「何のために僧侶になったのか」だという。どのように社会と結び付き、人々と関わりを持つのか。いかに複数のコミュニティーと接続するか。「つながりを持つことこそ、僧侶の務めではないか」と話す。
自身も光明寺のある東京ではなく、京都で暮らし、必要に応じて各地に赴く。まさに「接続する僧」を地で行っている。
しなやかな協調性
だが、コロナ禍は人同士の接触を遠ざけ、こうしたコミュニティーを分断した。松本氏は、コロナ禍について「私たちの力ではどうにもならない。そして正解はどこにもないことを思い知った」と語り、その先をこう見つめている。
「今後はよりしなやかな協調性が必要になる。仏教界では宗派の壁が低くなり、連帯感が求められてくる。新しい大乗仏教の時代が来るかもしれない」
今、興味を抱いている分野の一つが、「ヒューマンコンポスティング」と呼ばれる新たな埋葬法。遺体を堆肥にする取り組みだ。「脱化石燃料の流れもあり、火葬も見直される時代に」。菌やバクテリアの働きで人を土に返し、地球の一部に戻してくれると捉えることで、「死の概念が少し変わるのでは」と考えている。
松本紹圭(まつもと・しょうけい) 1979(昭和54)年、北海道小樽市生まれ。東京大学文学部哲学科卒。インド商科大学院で経営学修士(MBA)取得。浄土真宗本願寺派光明寺(東京都港区)僧侶。「未来の住職塾」塾長のほか、武蔵野大学客員准教授、世界のトップリーダーが集まる世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)のヤング・グローバル・リーダーも務める。著作・翻訳多数。
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