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第一次世界大戦中に英国がドイツに仕掛けた生々しいプロパガンダ戦の記録「クルーハウスの秘密」の翻訳原稿ができあがりました。

 この数年間、第一次世界大戦中に英国がドイツに仕掛けたプロパガンダ戦の記録「クルーハウスの秘密」の翻訳に、在米の共訳者と共に取りかかっておりました。
 一つの本の翻訳をやっていると、その周辺情報にやたらと詳しくなってしまうものです。第一次世界大戦に関する本を購入しては読み、動画や画像を見て、臨場感を得るようにするなど基礎知識がまず必要です。そしてきちんとした翻訳のために事柄や人物などを調べ上げ、ファイルにとじ込んでいきます。そして翻訳者なりに第一次世界大戦とは何ぞや?という全体情報が立体的に頭に入ってきます。
 またこの本は1937年と1943年に日本で翻訳が出ています。しかし、これらの翻訳はいくつか省略された部分があります。英国人特有のしつこい言い回しや、何度も同じ事実を述べるなど、くどい部分があるので、そのあたりを省略しているようです。ですから、以前の翻訳にも目を通しつつ、訳文を作っていきます。その確認作業中に、訳し間違いに気が付くこともあります。
 それと、昔の本はやたらと文章が長い。1段落が延々と続く、小見出しがないので分かりにくい、などの欠点があります。そこで翻訳者の独断と偏見で、段落を細かく切って分ける、小見出しをマメにいれてそれを見ただけで全体内容が分かるようにする、という作業をします。
 もう一つの呼びものは、実際に使われたプロパガンダ・リーフレットの現物の画像があること、その英語訳が原書にあるので、その部分もきちんと訳しました。リーフレットの文脈やレトリックは、プロパガンダの具体的な技法を知るうえで、非常に有効だと判断したためです。そういった画像やリーフレットの翻訳は、本文中の関係が深いと思われるところに入れました。これも手間のかかる作業でした。
 結局第8稿まで書き直し、修正、校正作業をしましたが、まずまずの内容になったのでは、と思っています。一応入稿できるまでの原稿になったので、この数年間の緊張の連続が徐々にほぐれてきています。あとは出版社の仕事で、ゲラ刷り出し、その確認といった作業がありますが。
 第一次世界大戦の犠牲者は1600万人といわれます。そういった人々の魂を供養しながら、何とか訳すことができたのは、やはりありがたい限りでしょた。
 今のロシアによるウクライナ侵攻でも、世界中を様々なプロパガンダが飛び回っています。翻訳を始めたころには全く思いもよらなかった世界になってしまった、と共訳者と共に深く嘆いているのであります。

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