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図書館で


海老名図書館は、一階に本屋のTSUTAYAがある。その他の階が、海老名市立の図書館だ。一階には、スターバックスも併設されているので、優雅なシティ感があるように見える。

聡も、新刊や雑誌などが無料で読めるので、たまに利用する。特にお気に入りは、文房具で、筆記用具やノート、手帳などを見るのが楽しみだ。ドイツ生まれの製図・筆記具ブランド「 ロットリング」があるのが嬉しいと密かに思っている。ここでシャープペンシルと万年筆を買った。

聡は漠然としているが、文房具のセレクションは、センスがあると感じている。
「ファッション関連の雑誌や新刊が、田舎町にしては、充実してるわ」と茉里も絶賛する。町中のファッションに敏感なファッショニスタにとっては、図書館が一番お洒落なスペースとなっている。

「ららぽーと」や「マルイ」などの商業施設はあるものの、茉里にとっては、満足のいくブランドが少ない。田舎仕様になっているようだ。

図書館で、聡は、萩原浩の「極小農園日記」と言うエッセイと石川宏千花の「拝啓 パンクスノットデッドさま」と言う小説家、「54字の百物語」と言うアグレッシブな実験小説のような本を三冊借りた。

たまたま、職員が、新刊の棚に、一冊づつ丁寧に並べている最中の本を取り出して借りた。意外にも、農園日記と言う本は、コピーライターから小説家になった萩原浩のリアルな話が面白かった。

何にでも苦悩や苦労はつきものなのに、異業界に殴り込みをかけて、小説すばる新人賞を取った。いとも簡単に裏口でなく、表から取った。文才があるといえばそれまでだが、ひょうきんで、面白い文章を書く作家だ。聡は、親しみと人懐こさを感じた。

よく本との出会いと言う。絶対に会うことのない有名人でも、本を通して、人となりを感ずる。少なくとも、攻撃されることはないと確信する。

「なんか、似ているよ。萩原浩と言う作家の生き方、気に入っちゃった」
「凄く努力している人よ。あんたは、フィーリングだけだからね」といつものように茉里は冷ややかに応じた。
感覚だけで、パソコンを触り、感覚だけでスマホを操作している聡にとって、真剣に成る必要がなかった。

本との出会いによって、小説を本格的に書く気になったようだ。いつも、最後のオチがうまく出来ないと悩む聡に運が付いてくるとは思えないが。

それができたら、お笑いだろうが、マンガだろうが、アニメだろうが、大成功する。それが出来ないから、三文作家であり続けると思う。三文小説を書き続ければ、それはそれで価値があると聡は決心した。


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