尾崎翠のエドガー・アラン・ポー翻訳#2
1.とりあえず「Morella」を日本語訳してみる
昔、受験生の頃などにやった英文法を必死に思い出し、電子辞書を引きながら、原文の日本語訳を進めていきます。
とりあえず高校生の英語の授業のように、ノートの左ページに原文を書き写し、右ページに日本語訳を書いていきました。
難しいポイントその1・・・
いきなり序盤でつまづくのは、モレラが傾倒している研究(ドイツ神秘主義の教義?)について説明される箇所です。
個人を別の個人と区別するものは何か、意識とは何か、などの難しい解説がけっこう長々と続きます。
内容は哲学的でとても理解できませんが、主人公も下記のように言っているので、思想の内容そのものはそこまで問題としなくてもよい、と考えることにしました。
日本語訳してみると・・・
(これらの思想が永遠のものなのかどうかという問題は、)私にとっては常に熱烈な興味の対象であった。ただしそれは、神秘的で刺激的な論理の本質に惹かれたというよりは、モレラがそのことに言及するときの著しい扇動するような態度に惹かれたのであった。
…ということで、難解な説明を畳みかけるように説明するこの部分は、内容うんぬんではなく、モレラの教えが主人公の意識に刷り込まれている雰囲気が伝わればよいと(都合よく)考えます!
難しいポイントその2・・・
次に困るのは、時々出てくるキリスト教的表現や固有名詞です。
例えば、モレラの教えに夢中になっていた主人公が、いつのまにかモレラの存在自体に戦慄を覚え、嫌悪感を抱くようになるという場面で次のような表現が出てきます。
直訳すると、
「最も美しいものが最も忌まわしいものとなった。まるでヒンノムがゲヘナになったことのように」となります。
Hinnnonはエルサレムの城外にあるヒンノムの谷のことで、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教共通の聖都。
Gehennaはこのヒンノムの谷のことを指す言葉ですが、旧約聖書で古来そこで幼児犠牲が行われ(供物として捧げられていた)、後に罪人が罰を受ける場所ともなったことから、地獄を意味するようになったらしいです。
ここでは、主人公が崇拝していたはずのモレラを忌み嫌うようになることを意味していることが分かりましたが、最初はなかなかピンときませんでした…
この辺りはかなり序盤の話ですが、この後も、とにかく全体的に英文の一文が非常に長く、カンマ「,」で延々とつながれることが多いのが訳すのに手こずる大きな原因となっています。(多いときは一文が10~15行くらい続きます!)
2.創元推理文庫に助けを求める
極限まで自力で訳してみましたが、どうしても意味の分からない部分が残ります。雰囲気で訳してスルーすることもできますが、ここまでくると本来の目的(※)もやや忘れて、ただ英文和訳することに全力を出しているため、やはり正確な意味が気になります。
※今更ながら…本来の目的についてはこちらの記事に書いております↓↓
そこで、、分からない部分は・・・やっぱりカンニングすることにしました!
前の記事でも紹介しましたが、こちらに河野一郎さんの翻訳で「モレラ」が収録されています。
1974年初版ということで、翻訳の文章は硬質で古めかしい印象で、原作の不気味な雰囲気を伝えています。
むしろこのままでも尾崎翠に少し近い雰囲気の文章のように思えて、これを見てしまってもよいのか?と迷いましたが、やはり読んでみることにします。
英文と照らし合わせながら読んでみると、直訳調とまではいいませんが、こなれているなかでも元の英文法がうかがい知れるような形の翻訳となっています。
あくまでも英文解釈の答え合わせとして参照するように肝に銘じながら、一文一文をチェックしていき、自分の翻訳の完成を目指します。
●補足
モレラが死に際に主人公を枕元に呼んだとき、讃美歌をうたっているという場面があります。原文には讃美歌の言葉が16行にわたっており、「おお!聖マリアよ!汝の…」のような感じで一通り訳してはみましたが、これも宗教の知識がないため非常に困る部分です。
河野一郎さんの翻訳を参照すると、その部分は丸々カットされていました!原書の版や編集によっては讃美歌の部分がカットされているのか、それとも原書には基本的に載っているが翻訳者が判断してカットすることがあるのかは謎です…
讃美歌の言葉を正確に訳する自信がないので、自分もこの部分はカットし、讃美歌が終わった後のモレラ自身の言葉からスタートさせることにしました。
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