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父が死んだ日からの悲喜こもごも⑤/寝ずに番をする夜

大変おこがましいけれど、登場人物は父(橋爪功さん)、母(白石加代子さん)、姉(小泉今日子さん)、叔母(高畑淳子さん)、親戚の夫婦(北村有起哉さん、坂井真紀さん)、兄(大泉洋さん)、私(水野美紀さん)、父の幼馴染(小野武彦さん)& 僧侶(田山涼成さん)、追加キャスト・葬儀社の人(池谷のぶえさん、野間口徹さん)の超豪華メンバーで変換&お送りしております。ドラマ脳で、ほんとすみません!

1、お肌ツヤツヤのひみつ

あんなにバタバタしたのに、いざはじまると通夜なんてあっという間に終わる。ギリギリ滑り込んだ兄も「あら、元気だった?」と親戚中のおじさん、おばさんに言われ、「へへへ笑い」とともに珍しくものの数分で馴染んでいた。

通夜では、父の入院先で姉の勤め先でもある病院の看護師さんやヘルパーさん、技師の方たちにも多く参列いただいた。病院は常に人手不足で、心身ともにハード。サービス残業が多く、なかなか時間通りに勤務が終わらない。その合い間をぬって通夜に駆けつけていただいたことには、感謝しかない。

流れ通りに通夜が進み振る舞いがはじまると、お酌、ひたすらお酌をしてお礼の挨拶をしてまわった。さすがにこういう場で酔っぱらう人はいなかったが、相当量の酒がなくなり、焼酎・日本酒を買いにまた酒屋へ走ることになった。

振る舞いが終わると、斎場に残ったのは親族のみ。葬儀社から入口の鍵の掛け方などを教えられ、その後残っていた葬儀社のスタッフも引き上げた。最近はこれがスタンダードなのかもしれないけれど、正直、斎場に泊まるのって変な感じ。皆さんも泊まったことがあるだろうか?

***

落ち着いたところで、安置されている父のところへ。ようやく家族と親戚がゆっくり父の顔を見た気がする。

相変わらず口は開いたままで、「これ、もうこのままじゃんね」「この際だから、ちょっとぐらい御飯を入れてあげても。どうせ焼かれるんだし(おいっ!)」とみんなで冗談めいた話をして笑っていたら、「〇〇ちゃん(父)はもともと髭も薄くて色白やけど、なんかえらい肌がきれいやなあ。 顔だけツヤツヤしちょるんやけど…」と困惑気味に叔母が言いはじめた。今まで開いた口ばかり気にしていて、肌の質感までは見ていなかったようだ。

病院や施設は、冬は暖房、夏はエアコンが効いている。一般的に、歳を取ると肌が乾燥してきて痒くなるし、皮がポロポロ剥けることも多くなる。父もそうだった。おまけに体は痩せ細ってガリガリ。当然シワだらけ。なのに顔だけは、確かに妙にツヤツヤしていた。

そこには意外な事実があった。

父の顔がカサカサになるのを見かねた姉が、自分が使いかけて放置していた「パー○ェクト○ン」のクリームを思い出し、それを半分やけくそで父の顔に数ヵ月間塗りたくっていたのだ。

私はそのことを前々から聞いていたので、姉と二人で顔を見合わせて笑ってしまった。種明かしをすると、一様に「パー○ェクト○ン、すげー」という話になった(※効果には個人差があります)。「やってみるもんやな。継続は力なり……」と感心する叔母。いや私、パー○ェクト○ン、ずっと怪しいと思ってた。ごめん(※効果には個人差があります。二度言いました)。

「今私が使ってる化粧品より高いし、アレ」(姉)
「要は、普段手入れしていない人が使うと効果があるってことなんでは?」(私)
「私も使ってみようかしら」(叔母)

と、どんどん話がズレていく展開に。
でも本当に父は、顔だけは私たちよりずっときれいだった。


2、斎場で1泊3食のフシギ

斎場には、家族の他に遠方から駆け付けた親族が泊まった。一角に一般家庭用の風呂を完備。自宅での葬儀しか経験したことがなかったので、斎場がこんな風になっているなんて知らなかった。

親族を含めるとけっこうな人数になり、寝る際はぎゅうぎゅう。初秋でまだ寒くなかったため布団を横にして数人で寝る事にしたが、それでも備え付けの寝具だけでは足りないと思われ、少し家から持って行った。

基本、誰かひとりが父のそばで番をし、残りの人たちは食事をした畳の部屋で過ごした。男性陣から順に風呂に入り、私と姉は自宅に帰って入浴。面倒なので、ついでに歯磨きも洗顔も何もかも済ませて斎場へ戻ることにした。

それにしても家族と親戚とで雑魚寝ってのは、どうにも落ち着かない。誰かのイビキもひどい。翌日の葬儀のことを考えたら眠れるわけもないけれど。母は喪主挨拶の練習。私も頭の中で段取りのシミュレーションを繰り返した。唯一お兄ちゃんは、日頃から早寝なので夜10時を過ぎたらすぐに眠りに入った。このマイペース、羨ましすぎる。

頭の中はこんな感じ  →  自分の準備を整えたら朝食兼昼食のお斎(おとき)をいただく(受付係の隣保班の人たちにも声をかけて食べてもらう)・弔電の件・ご僧侶と老僧を待合室へ案内&お礼・お車代・喪主挨拶のこと・出棺前のお別れの段取り・火葬場へ持って行くものを忘れずに・初七日&精進落とし&酒類の件・終わってからのこと(渡すものなど)、貴重品・お金の管理……。

どこまでを葬儀社がやってくれるかによる部分も大きい。例えば近所の人たちの送迎は、迎えのみなのか、送りもあるのか。ちなみにわが家の場合、迎えのみだと終わってから知り、大慌てで手分けして皆さんを送っていった(自分も含め、車で来てお酒を飲まずにいた人が数人いてよかった)。勝手な思い込みひとつが、後で大変なことになりかねない。

もう頭がパンパンだった。

3、ところで、わが家の猫様たち

初七日が終わるまで、隣のおばちゃんに食事の世話を頼んだわが家の猫3匹。通夜を終えた夜、風呂に入るために姉と家に帰ると、外飼い2匹が急ぎ走り寄って来た。いつになくスリスリを繰り返され、大歓迎である。いや、朝も会ったやんか(笑)。

ごはんは食べ終えたようだったが、それでもまだ欲しいのか「くれ、くれ!」と一斉にせがんでくる。仕方なくカリカリを用意していたら、滅多に鳴かないツンデレ猫・ライちゃんの声が家の中からし始めた。あら、珍しく鳴いてるよ。

裏玄関を開けると、「ごはん、くれくれ!」とこちらもスリスリ。器には、隣のおばちゃんが用意してくれたらしき缶詰が少しだけ残っていた。君も晩ごはん食べ終えてるじゃんね。それでもしつこく鳴く。いつもだと、食卓で人間のごはんをつまみ食い状態(というか、猫様のごはんの残りを人間が食べているような感じ)なので、この日も「魚くれ!」「肉くれ!」と思っているに違いなかった。

全員(猫)にカリカリを食べさせ、早朝お腹が空くといけないので、少し器に入れてから斎場に戻った。翌朝またおばちゃんが食べさせてくれるはずだ。明日は空に向かって祈りたまえよ、君たち。

***

次回は、「何回食べるかな」「弔辞でざわざわ」などをお送りします。

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ぶんぶんどー
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