誰もが可能性を秘めている/ドラマ『宙わたる教室』いよいよ最終回
今夜最終回を迎えるNHKのドラマ『宙わたる教室』。公式の動画「最終回直前スペシャルダイジェスト」を見て、すでに泣いている。
(以下、これまでの内容を含みます)
今年の夏、小説『オオルリ流星群』を読んで、久しぶりに「本を読んで感動する」という経験をした。著者は伊与原新さん。この秋、彼の小説『宙わたる教室』を原作としたドラマが放送されると知ったとき、勝手ながら「このタイミングで」と不思議な縁を感じた。
理学博士で、地球惑星物理学が専門の伊与原さん。小説にはそうした知識が散りばめられている。私は月や星が好きだが、学問には疎く難しいことばは苦手だ。それにも関わらず、彼の小説になぜこんなにも引き込まれるのか。最近繰り返し読んでいる短編集『月まで三キロ』(文庫本)に掲載されている逢坂剛さんとの対談に、答えがいくつか書いてあった。なかでも、伊与原さんの文章は分かりやすく読みやすいという点が大きいと思う。短編集には6つの物語が収められており、個人的なお気に入りは「月まで三キロ」「天王寺ハイエイタス」「エイリアンの食堂」の3つ。機会があったらどうぞ。
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ドラマは、初回の柳田回からボロ泣き状態。どの回のエピソードも忘れ難いものばかりである。特にイッセー尾形さんが演じる長嶺の回は、まるで一人芝居を観ているような強烈な印象を残した。また先日の第9話では、謎めいた藤竹の過去がついに判明。彼がなぜ定時制高校の教師になったのか、これまで何と闘ってきたのか、あの青年は誰なのかなどが明らかになった。
藤竹と出会い、学ぶ楽しさを知った柳田は「諦めたものを取り戻す」ために科学部の活動に没頭し、いつか研究者になりたいという夢を持つまでに。しかし、過去が彼を夢から引きずりおろそうとする。「真剣にやってきたことを諦めるって、こんなにもつらいのか」と涙を流した柳田。長嶺が危惧したように、彼を期待させて立ち上がれないようにしてしまったのではないかと、藤竹は責任を感じる。かつて石神教授の研究室で出会った青年・金井と柳田が重なったからだ。
「科学の前ではみんな平等」
藤竹は、定時制高校でそれを証明したかったのだと部員たちに告白する。彼にとっては実験だった科学部の設立が、年齢もバックグラウンドも違う生徒たちの心を動かし、やがて大きな渦に。藤竹は、彼らのその先をもっともっと見たくなった。でもそれは身勝手で、みんなを傷つけてしまったと謝罪する。
石神研究室時代の藤竹は研究者としての明るい未来を想像し、出身は違えど同僚である金井にも当然同じ未来があると信じていた。だが現実は違った。窪田正孝さんは、その理不尽さに吠えた藤竹も、絶望して無力さを感じている藤竹も、台詞は少ないが繊細な演技で表現。藤竹という人間は生徒ひとりひとりを見過ごさず、それでいて静観しているとも言え、ドラマでは控えめな主人公である。飄々としたたたずまいで、こちらがハッとするようなことばを投げかけたり生徒の背中を押したりする。最初の頃は感じなかったが、かなり難役だと思う。
空中分解寸前だった科学部。部の核となっていた柳田がどうなるのか心配したが、自分の足で再び立ち上がった第9話の彼は、これまでにない力強い眼差しになっていた。
「ここは諦めたものを取り戻す場所ですよ」
かつて藤竹のことばに背中を押された彼が、今度は藤竹の背中を押すという展開に、初回から欠かさず観てきた私は涙、涙(最近、ドラマで泣いてばかりだ)。
今夜はいよいよ最終回。彼らの実験の成果はいかに。そして生徒たちと藤竹の今後はどうなるのか。原作本を読むのはドラマ視聴後と決めていて、まだ読んでいない。
先日、伊与原さんと脚本を手がけた澤井香織さん、監督の吉川久岳さんのインタビュー記事を偶然目にし、いかに澤井さんや吉川さんたちが原作の世界を大事にしているか、そして伊与原さんもまた澤井さんたちをどれだけ信頼しているかを知った。こんな風にドラマがつくれるって最高やな、それを視聴できるって幸せやなと、つくづく実感した。
半世紀以上生きてきて、どんどんやれることが減っている自分にも、まだ好きなことを見つけられるかもしれない。最終回は寂しいけれど、この作品に出合えて本当によかった。
今夜の放送は22時30分~と、いつもより30分遅れなのでご注意あれ。
(おまけ)
日曜劇場の感想は心の整理がつかず、ちょっと書けそうにありません。ここまでの展開と端島の歴史を紐解けばある程度分かっていたことだけど、それにしてもつらすぎて。次の日曜日は大河ドラマの最終回もあるし、今からソワソワ。やはり倫子最強。