みんな、箱男
『箱男-The Box Man』を鑑賞する。
客は10人くらいだった。以下、普通にネタバレをする。
みんな、『ラストマイル』を観に行っているのだろう。それが正解だ。
監督は石井岳龍。『狂い咲きサンダーロード』の石井聰亙だ。
主演は永瀬正敏、共演に浅野忠信、佐藤浩市。原作は、安部公房。
この布陣、なんとも90年代後期〜00年代初期の匂いがするじゃあないか。
私は、まぁ、『狂い咲きサンダーロード』はVHSで初めて観て、何よりも、『電光石火に銀の靴』に痺れたものだ。
私は安部公房の良い読者ではない。『砂の女』はまだ理解できるし、勅使河原宏の映画版も観た。
然し、『方舟さくら丸』で私は最早ついていけなくなった。その思想やテーマ、というよりも、あの迷宮にいつの間にか紛れ込んでいたような、例えるのならば、『サイレント・ヒル』で、いつの間にか、やべーところに来てどうしよー!ってな感覚、私の読解力では脳みそパーンである。
安部公房、と、いえば、ノーベル文学賞候補、長く生きていれば、受賞したのでは、と言われている。
ノーベル文学賞候補、と、いえば、井上靖、谷崎潤一郎、西脇順三郎。
で、この映画。やはり、意味不明だった。意味不明、というか、最早、説明は放擲されており、私は原作をほぼ冒頭で諦めたため、これはもう、ついていけない。
箱男を意識すると、箱男になる。
これが冒頭何度か繰り返される。これは、最後の伏線になっている。
箱男、とは、何か。私にもわからなかった。ビジュアルは、まぁ、『メタルギアソリッド』の一足早い実写版、と思ってもらえれば差し支えはない。
この、箱を被った永瀬正敏が、何やら意味不明なことを呟きながら、箱男を狙い、箱男になる浅野忠信(それで合っているのか?)と時々戦ったり、哲学的空間で問答を繰り返すような話、であるが、然し、それも箱男の妄想かもしれない。と、いうよりも、箱男を意識すると、箱男になる、わけであり、眼の前でこの映画を観ている観客もまた、箱男なのだ、という、そのようなトリックが、最後にバーンと出てくるのだが、えー!と椅子から転げ落ちてそのままドライブがかかって、スクリーンに突入する勢い。でも、そうすれば、傍観者ではなくなるわけで、私は箱男じゃなくなるわけだ。
冒頭、延々と、箱男は、女性たちの足を執拗に執拗に見つめる。変態である。しかも、箱に入っていて、人に時々気づかれて、ドン引きされている。
然し、箱、に入るのはとても落ち着くことは間違いない。誰だって、箱男であり、箱女であるはずだ。
ワッペン乞食なる男と箱男が冒頭に戦う。いや、どういうことはわからないかと思うのだが、実際、作中でワッペン乞食と呼ばれる男と、箱男が戦うのだ。ワッペン乞食は、原作でも出てくるようだ。私はそこまでいってない。
で、このワッペン乞食と、それから箱男VS箱男の戦闘シーンは、無駄に気合が入っている。
低予算映画だろうが、美術面は結構気合が入っている。それから、あの、迷宮めいた、路地裏。それから工場。いやぁ、路地裏、工場、いいですねー。
映像はとてもきれいなのだ。そして、箱男の汚しもいい。汚しがいい映画はいい映画が多いのだ。
然し、これでますます、私と安部公房との距離が遠くなった。私には、安部公房最高だ!と言える脳みそはない。だが、然し、箱の中に入りたいのは、それは共感できるし、それが社会的なものであることも、なんとなしにわかる。