お能、『道成寺』
先日、御所の向いの金剛能楽堂で『道成寺』を鑑賞。
『道成寺』は安珍清姫伝説をテーマにした作品だが、今作は見どころ満載かつ、激烈に眠たい作品でもある。
私は能を観ていると、すごく眠たくなる(いや、大抵の方は眠たくなると思うが……)。
大変に美しい能装束や謡いに心を奪われるが、然し、どうしても眠くなるのである。
『道成寺』は紀州の道成寺が舞台であり、ここは旅の僧安珍がメンヘラ系女子であるところの清姫にストーカーされて、這々の体で逃げ込んだ寺において、鐘の中に身を隠すが、恋と憎悪により蛇の化身となった清姫がぐるぐるとその周りを蜷局巻にし、焼き殺してしまいましたとさ、ちんちん、安珍♪ってな感じのお話だ(川本喜八郎の人形アニメがいい)
能の『道成寺』は、その恐ろしい話が昔むかしにあった未来の話である。
物語は、女人禁制のこの場所に白拍子の女がやってきて、舞を舞わせておくれと寺男に頼み込む。然し、その正体は実はあのメンヘラ妖怪クリアプリンセスだった(の、ようなもの)というような話である。
『道成寺』では、前シテと小鼓との20分間の丁々発止的な乱拍子があるが、
そこは時間間隔が引き伸ばされていくように思われる。
ここは、演者はすごい大変で、能通の方にも大変に見どころのあるシーンだと思われるが、とにかく眠い。眠たいよ!然し、不思議な心地よさのある時間である。
まぁ、行ってみればダルマさんが転んだ、的な展開であると同時に、乳首ドリル的な展開だとも言えるだろう。この、15分〜20分間、鐘に入るんかい、入らへんのかい、的な(全然違うだろうが)、やりとりから一気に、急之舞と呼ばれる超スピードでの乱舞が始まり、能舞台に吊り下げられた、凡そ50キロと呼ばれる鐘が落ちてきて、今まさに、落ちるその瞬間に!それの中に入る「鐘入リ」へと繋がるのだが、まぁすごい迫力である。
あの鐘を落とすのはあなた、的な感じはないけれども、緊張の走る一瞬である。一歩間違えると、大怪我である。死亡事故である。
そして、鐘の中に白拍子が入ると、そこで寺の僧侶たちが、件の安珍清姫伝説を話して、まさか…あいつ…!?的な感じで警戒しながら鐘を囲むわけだ。そこから鐘が持ち上げられると、先程までの美しい女は般若の顔をして現れる。
シャリシャリシャリ!的なよくわからないものを擦りながら僧侶たちが3人がかりで般若を鎮めようと闘い、最終的には般若は仏の力に敗れて逃げていってしまう、というような流れである。
素晴らしい演目で、眠くもあるが、それもまた心地いい。謳いの響きが心地よいのであろうか、然し、この緩急をつけた演出が堪らなく良いね。
『道成寺』は能楽師にとっての卒論的なものだとよく目にするが、大変な稽古を要する、忍耐、技術、そして美学の結晶したあまりにも美しい芸術である。そして、芸術とは、眠たいのである。
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