スタバでの勉強はカンヅメの亜種
『春琴抄』は京都の神護寺で書かれた。
神護寺は高雄の山中にある寺院で、ここに籠もって谷崎潤一郎は『春琴抄』を書いたという。松子夫人の紹介だったそうだ。
神護寺は紅葉の神護寺と呼ばれていて、紅葉の名所なのである。私は二回ほど訪ったが、階段が急で登るのが大変である。
私は『春琴抄』が好きなので、大阪の道修町も行ったし、少彦名神社も行った。所謂、聖地巡りである。
『古都』の主人公の家のモデルになった秦家住宅にも見学に行った。ミーハーなのである。
然し、神護寺に籠もって書く、というのはどういう心持ちになるのだろうか。昔ならば今以上に交通の便は悪いだろうし、普通に山中であるから、ある意味集中力が出るのかもしれない。
所謂、カンヅメというやつである。小説家や漫画家が締め切りに間に合わせるためにホテルや旅館に半ば強制的に軟禁される、あのカンヅメ、というやつである。
「先生、早く書いてくれないと落としちゃいますよ〜。」というあれである。然も、部屋には他の雑誌者の編集者も待機しているというのを、私は藤子・F・不二雄の漫画で幾度となく目にした記憶がある……。
カンヅメとは、小説家志望者には憧れのシチュエーションなのである。私も一度、一人カンヅメというのをしてみたことがある。誰にも依頼されていないのに、集中できるかもしれない、まとめて書くと、いい案が浮かぶかもしれないと阿呆な考えを持ってして、ホテルに部屋をとって書いたのである。
然し、私は様々な誘惑に負けて、結果書かなかった。
最近はスマホというウルトラに危険な誘惑があるため、創作をしている皆さんはさぞ大変だろう……。ちょっとのつもりがすぐに1時間、2時間と溶けるのであるから……。そして自分の無能さにため息をつき、布団をかぶって、明日の自分に託すのである……。
はっきりいって、勉強も同じ、集中できる人は集中できて、集中できない私のような人は、どのような環境でも書かないのである。
ちなみに、山の上ホテルなどは、三島由紀夫や池波正太郎がカンヅメ状態になって書いていたこともあるという、カンヅメホテルがある。このホテルの他にも映画の撮影隊が全員泊まって本の直しをしたりとか、ロマンが溢れる場所というものが、ホテルや旅館なのである。
川端康成なんか、温泉に入って、芸者と遊んで、小説を書いて、温泉に入って、芸者と遊んで、編集者に金の無心をして、温泉に入って、芸者と遊んで、温泉に入ったりしている。
家よりも外派、ということであり、つまりは、家で勉強するよりも、スターバックスで勉強をすることで、自らをグレードアップさせる、のに近いかと思えばそうではないな。
スターバックスは高いので、その金で薬局でペットボトルの珈琲を4本くらい買えば、10倍くらい飲めるのだから、家でやればいいのに、と常々思っているが、然し、あれもまた、カンヅメ状態の亜種なのかもしれない。
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