緑魔子が好き
『盲獣』という映画があって、原作は江戸川乱歩である。
江戸川乱歩は変態で少年愛の人だが、皆に愛されている男であり、江戸川コナンの名字な訳で、そう考えるとコナンくんも少年でサスペンダーをしていえて蝶ネクタイをした半ズボンの愛らしい男の子なので、まぁ少年愛である。
『盲獣』も変態映画で、主演は船越英二で、彼は盲目の彫刻家で、女優の緑魔子を拉致監禁して犯すわけでもなく彫刻のモデルにしようとするが、始めは「なにコイツ、イカレてんのー!」って感じの緑魔子もだんだんと倒錯したマジカル監禁タイムによってストックホルム症候群というか互いに高め合う存在になっていくが……というような変態映画であり、後半は完全に監督増村保造の俺ジナル展開である。
巨匠、或いは天才と呼ばれる人は、他人の作品をレイプせずにはいられない。まぁ、クラウザーさんのようなものであり、そしてその陵辱された挙げ句の作品の出来がまぁ良かったりするからたちが悪い。
宮崎駿なんか完全に人様の原作を破壊しつくし、その上で原作以上のものになるから恐ろしい男である。
『耳をすませば』とか実写になって散々イメージが〜、ジブリが〜とか叩かれているが、そもそも原作は柊あおいの漫画だし、駿は監督じゃねーし!って感じだが(脚本とか担当)、『魔女の宅急便』でもそんな悲劇が起きていた。
増村保造といえば、谷崎の小説をいくつか映像化しているが、性的な展開が多い『卍』や『痴人の愛』とかで、というよりも性的ではない谷崎があったのか問題、というのも存在するが、谷崎はちんぽ野郎なので、まぁ作風が合致するのであろうか。
『盲獣』は緑魔子の監禁される部屋の美術が大変素晴らしい。人間の体の部位、眼球、手、足、舌、耳、鼻、乳房、性器、それらは全て神が作り給うた芸術であり、これを超える美を作り出すことは人間には出来ない。模倣だけが人間にできる限界であって、ここに個人の色を出すために小細工しないといけないわけだが、本物、はもう私達が意識する前より遥か以前に完成している。
人形愛、というのは、人を形作ることこそが最高の芸術であって、その前段階なわけだが、ヘンテコリンなチューブでレプリカントを生み出す二アンダー・ウォレスはやはり天才であり、神に近いのかもしれない。
そして、二アンダー・ウォレスもまた、今作の彫刻家同様に盲目なのである。
盲人である船越英二は手触りで美しいものに触れて、美しいものを再現しようとする。触れる、というのは物を作る上で真髄に近づく行為なのであろう。形を掴むために触れるしかない。
最終的には肉体の損壊につながっていく映画であるが、如何にデジタル時代と言えども、人間は肉体から離れることは出来ない。
ユヴァル・ノア・ハラリの『ホモサピエンス全史』を読んでいると、機械が人間に取って変っていく未来が書かれていたが、ハードを変えようとも、人間は触れなければ堪らなく寂しい種族であり、ソフトは最終的に肉体を持たなければ崩壊するだろう。
(ユヴァル・ノア・ハラリは今作で、人類は疫病を克服し、戦争を克服した、的に書いているが、その後のコロナのパンデミックやウクライナ侵攻、台湾有事の可能性を考えると、どうも適当な本である)
今作は大変緑魔子が美しく災難なので、それだけ観る価値がある作品であるが、やはり、緑魔子の肉感的な存在、というのは、肉体を扱う映画には必要不可欠な存在だったのかもしれない。
増村と谷崎の関係性を考えると、その肉体というテーマを持ってして『春琴抄』を映画化して欲しかった。『春琴抄』もまた、盲目の娘の鵙屋琴の話であり、盲目、というものが作品の核となっている。
この小説の一番重要な場面、春琴の付き人の佐助が針で自分の目を突き、自ら盲目になってしまうシーンだと思うが、あの描写は半端ではない。読んだことのない人は一度読んでいただきたいが、ここからぼやけていく視界でもって春琴に会いに行くまでの描写というのは、これが天才の筆の為せる業であり、息の長い、句読点の極端に削られたあの独特の文体が、ここで天に昇るかのようなリズム感を獲得していきカタルシスまで読者を導くわけだが、ここで、全て計算されて構築されていることに気付かされて感激してしまう。
肉体の損壊、肉体の感覚を文章に染み込ませる才覚、その文章を読んだ読者が半ば共感覚的に、破壊された眼球が熱を帯びていくような錯覚を持つように巧緻に織り上げられたタペストリー的な文体……。
谷崎スゴイぜ!的な感じである。
増村保造の『春琴抄』もいいが、やはりアニメーションの『春琴抄』、即ち、スタジオジブリの宮崎駿の最終作品として、私は『春琴抄』をアニメ化して欲しかった(ちなみにアニメ版『春琴抄』は存在するが)。
高畑勲は『細雪』かな〜。
耽美な絵巻物として、宮崎駿になら最高に美しい春琴と佐助が描けると思うのだがなぁと思ったが、商売にはならなそうだ。
それでも興行収入100億は固いだろうが。
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