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北野武監督映画『首』と谷崎潤一郎の『首』

北野武監督作品の『首』を鑑賞する。
今日は1,000円デー。なので、ホクホクで鑑賞。

リドリー・スコットの『ナポレオン』と間で悩むも、2時間38分の『ナポレオン』は本日は時間が合わずに諦める。

たけし映画は全作品観ている。私が一番好きなのは、まぁ王道だけど『キッズ・リターン』と『座頭市』、それから『アウトレイジ・ビヨンド』かなー。

今作は『座頭市』に続く完全時代劇で、それも戦国時代、武将オールスターが登場し、本能寺の変に至り、その後までを描く内容で、たけし流の戦国武将たちの描き方が楽しい作品である。
とくに出色はやっぱり加瀬亮の織田信長で、この加瀬亮のキャラクターが観ていて抜群に面白い最高に糞なパワハラ野郎なのだが、ここまで振り切った信長はあんまりいないと思うので、楽しめた。

今作は、衆道を自然と取り入れた作品で、まぁ、大河ドラマとかも、最近は多様性の流れで、同性愛のキャラクターなども登場するが、今作はメインキャラの人間関係にまで深く根ざしていて、信長も蘭丸を掘っている。
衆道的に言えば、前髪、つまりは元服前の少年への可愛がりは流石に今作ではなく、まぁ、蘭丸がいくつは知らないが、あとは明智光秀と荒木村重との関係性は大人の同性愛である。古代ギリシャから、『少年愛』とは大人の男性と少年との間に結ばれる契であり、やはりそこまで描くのは完全に違う映画になるため難しい。

それから、バイオレンスもなかなか激しく、まぁ、戦乱の世であるので当たり前だが、血しぶきどころか、首チョンパも大量である。
そう、今作はタイトルの『首』そのままに、首が様々な場所でキーワードとしての通奏低音として流れて、首が斬られて血が飛び散るたびに、それが観客に意識付けられる。

登場人物の多くがその首を斬り落とされる。今作では首という、大将首という、大金星、まぁ出世への足がかり、殿への献上物として自身の価値を知らしめる道具、そして、間違いなく死んだかどうかの確認物としてマクガフィンとして映画内で機能している。首の対象は物語の展開に応じて変化していき、最終的には◯◯は俺にはいらねぇんだよ!と話をつける、見事な幕引きである。

物語の最後に、首を洗うシーンがあって、それを観ていて、私は谷崎潤一郎の『武州公秘話』を思い出す。まぁ、概要は他の記事でも書いたので、それに目を通して頂きたい。

『武州公秘話』は異常な変態性欲を持つ武将が主人公であるが、彼は戦場で落とされた首を洗うシーンを見て(それを洗うJKくらいの年齢の美女にも)恍惚を覚えて、自身の変態性を自覚するわけだが、今作でも、首を丁寧に洗っていて、一瞬、実写版『武州公秘話』を観ているのかと混乱してしまう。

彼は、首そのものからは強い印象を受けなかったけれども、首と三人の女との対照に、不思議な興味をそそられたのであった。と云うのは、その首をいろいろに扱っている女の手や指が、生気を失った首の皮膚の色と比較される場合、異様に生き生きと、白く、なまめかしく見えた。
彼女たちはそれらの首を動かすのに、髻を掴んで引き起したり引き倒したりするのであったが、首は女の力では相当に重いものなので、髪の毛をくるくると幾重にも手頸に巻き付ける。そう云う時にその手がへんに美しさを増した。のみならず、顔もその手と同じように美しかった。
もうその仕事に馴れ切って、無表情に、事務的に働いているその女たちの容貌は、石のように冷めたく冴えていて、殆ど何等の感覚もないように見えながら、死人の首の無感覚さとは無感覚の工合が違う。一方は醜悪で、一方は崇高である。
そしてその女たちは、死者に対する尊敬の意を失わないように、どんな時でも決して荒々しい扱いをしない。出来るだけ鄭重に、慎ましやかに、しとやかな作法を以て動いているのである。法師丸は全然豫想もしなかった恍惚郷に惹き入れられて、暫く我を忘れていた。

谷崎潤一郎 『武州公秘話』

北野武は『DOLLS』においても谷崎潤一郎の『春琴抄』を作中に1エピソードに加えていたので、やはり、たけし=潤一郎、という、そのようなユニバースが爆誕してしまっている。

無論、今作は基本的には首はあくまでも保身や権力や野心の象徴ではあるが、然し、その首がかわいいかわいい、とそうやってにこりと微笑む美女、それがあれば、今作はなお完璧に満点な映画だったと思われる。
然し、かなりの力作で、オールスター勢ぞろいのギャグ釣瓶打ち、非常に濃厚な映画で撮影も気合が入っていた。

ただ、オフィス北野のロゴがないと、やはり少しさみしい。

その穴を開ける時の彼女の様子は、彼の心を甚だしく喜ばせた。が、最も彼を陶酔させたのは、まん中に座を占めて、髪を洗っている女であった。彼女は三人のうちで一番年が若く、十六か七くらいに思えた。顔も圓顔の、無表情な中にも自然と愛嬌のある面立ちをしていた。彼女が少年を惹きつけたのは、ときどきじっと首を視入る時に、無意識に頬にたたえられる仄かな微笑のためだった。その瞬間、彼女の顔には何かしら無邪気な残酷さとでも云うべきものが浮かぶのである。そしてその髪を結ってやる手の運動が外の誰よりもしなやかで、優美である。彼女はおりおり、傍の机の上から香炉を取って、それで髪の毛を薫きしめる。それから、髪を結い上げて、元結を結んでしまうと、それが一つの作法だと見えて、櫛の峰の方で、首の頂辺をコツコツと軽く叩くのである。法師丸はそう云う彼女をたまらなく美しいと感じた。

谷崎潤一郎『武州公秘話』


暫定2023年ベスト(映画館で観たものに限る)
※点数と順位は必ずしも比例しない。

測定不能…君たちはどう生きるか(2回鑑賞)

1位:ゴジラ-1.0…95点
2位:キングダム/エクソダス(脱出)…97点 ※前作を観て尻上がりで上昇/気持ち的に2位
3位:ザ・フラッシュ…96点
4位:首…94点
5位:ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー.Vol.3…93点
6位:フェイブルマンズ…83点
7位:イコライザー3…82点
8位:リボルバー・リリー…82点
9位:カードカウンター…81点
10位:AIR/エア…80点
11位:スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース…78点
12位:オオカミの家/骨(合わせて)…76点
13位:クリード/過去の逆襲…75点
14位:アラビアンナイト/三千年の願い…74点
15位:クライムズ・オブ・ザ・フューチャー…64点
16位:シン・仮面ライダー…62点



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