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『ヒトラー演説』(高田博行)

今回読んだ本は『ヒトラー演説』(高田博之)

20世紀最悪の独裁者アドルフ・ヒトラー。彼の行った非道の数々は目を覆いたくなるものだが、そもそも、何故、あのような怪物が誕生したのか?彼は武力によって政権を奪取したのではなく、選挙を経て民主的にドイツの総統の地位に就いたのである。そして、その裏には彼の2つのファクターがあった。

第一次世界大戦後、疲弊した国民達は政権への不満を募らせていた。そんな中現れたのがヒトラーで、彼の演説はナチ党勢力拡大に不可欠な役割を果たしていく。しかし、当初は一揆によって政権を獲得しようとしたヒトラーだが失敗に終わり、投獄される。獄中、ヒトラーは演説についての論考をまとめたのが「我が闘争」である。ここで、1つ目のファクターである彼の「演説文の高さ」が現れる

彼の演説は対比法、平行法、メタファー、誇張法など弁論術的に理にかなったものとなっており、演説文に関しては高い完成度となっていた。しかし、どんなに文章として質が高くても聴衆に届かなければ意味がない。そこで次に第二のファクターである「拡散力」である。この頃、最新だったマイクとラウドスピーカーを用いて、ヒトラーの声が届く範囲が大きく広がった。多くの地方を回り、マイクとスピーカーを用いた演説をすることによって次第に彼は民衆の支持を集め、ついに政権を掌握するのである。

また、政権を掌握した後は国民にラジオを配布することで家庭でもヒトラーの演説を伝えることができた。また、映画を効果的に用いることで大々的なプロパガンダを展開した。

このように、ヒトラーが政権を掌握し独裁的な立場に就くまでには彼の演説力の高さと拡散力が大きな役割を果たしたが、実は政権掌握後1年も経つ頃には国民に飽きられていく。そして、第二次世界大戦勃発後はますます、国民の支持を集められなくなっていき、ヒトラーの声は力を失っていた。

ヒトラーの勃興、絶頂、そして転落を彼の演説という側面から知ることができる本書だが、彼の用いた手法、そしてそれに扇動される国民というのは今の時代でも学ぶところが多いのではないだろうか。第二のヒトラーを産み出さないためにも歴史に学ぶことは重要であり、本書はその一助となる一冊である。最後に本書より抜粋。

”ヒトラーの巧みな弁舌力が、そしてそれを伝えるメディアが聴衆にもたらしたのは「パン」そのものではなく、いわば実態のないまま膨らませられた「パンの夢」であった。(略)現在そして今後とも、我々が政治家の演説を目にし耳にするときはには、膨らまされた「パンの夢」に踊らされ熱狂している自分がいないかどうか、歴史に学んで判断できる我々でありたいと思う。”

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