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【徒然草 現代語訳】第百六十二段

神奈川県大磯の仏像専門店、仏光です。思い立ってはじめた徒然草の現代語訳、週一度程度で更新予定です。全244段の長旅となりますが、お好きなところからお楽しみいただければ幸いです。

原文

遍照寺の承仕法師、池の鳥を日来飼ひつけて、堂のうちまで餌をまきて、戸一つあけたれば、数も知らず入りこもりけるのち、おのれも入りて、たてこめて、捕へつつ殺しけるよそほひ、おどろおどろしく聞えけるを、草かるわらは聞きて、人に告げければ、村の男どもおこりて入りて見るに、大雁どもふためきあへる中に法師まじりて、打ちふせ、ねぢ殺しければ、この法師をとらへて、所より使聽へ出したりけり。殺す所の鳥を頸にかけさせて、禁獄せられにけり。基俊大納言、別当の時になむ侍りける。

翻訳

遍昭寺の某雑役僧が、広沢の池の鳥を日頃から飼い慣らしていた、ある日池からお堂へそしてその内側にまで丹念に餌を撒き、一枚だけ戸を開けておいて、狙い通り夥しい水鳥たちが入り込んできたところで、自分も最後に入ってぴたりと戸を閉ざし、片っ端から鳥を捕らえては締め殺していた、その殺戮の阿鼻叫喚があまりに凄まじく聞こえてきたのを、草刈りの少年が耳にして注進に及んだため、村人たちが大挙して押し寄せ、お堂に足を踏み入れて見れば、狂乱状態の大雁たちの中に例の坊主が交じって、手当たり次第に鳥をねじ伏せ縊り殺していたので、皆してこの坊主をひっ捕らえ、検非違使庁に突き出したのであった。結果、坊主は殺した鳥たちを首にぶら下げられて、牢屋送りとなったそうだ。基俊の大納言が検非違使の長官であられた頃の話にございます。

註釈

○承仕法師
じょうじほうし。雑役僧。

○基俊大納言
九十九段に登場した、美男でリッチな堀川相国こと藤原基俊。


700年前の方が、今よりずっと人間たちがまともだった証の段です。

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