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【連載】残された人生は大学卒業まで!? #193 ホラー小説

 ある日突然、自分の中のうまくやりきれない、いつも中途半端に終わる自分が中から飛び出してきて、自分の前に対峙した。
 両手にはナイフを持っていて、自分の腕と耳を切り落とそうとしている。恐ろしい呻き声を上げながら、自分の方にニヤニヤしながら近づいてくる。
 「お前の腕と耳があるからそんなに浅ましい考えが出てくるんだ。さっさと落としてやるから待ってろ」
 青年は自分の腕と耳が切り落とされることを想像し震えた。もし自分の腕がなくなったら、料理もできなくなるし、ピアノも弾けなくなる。耳が聞こえなくなったら、大事な人の声も聴けなくなるし、音楽も楽しめなくなる。

 そこでふと気づいた。自分の中で、何より先に芸術が出てくることがないと。自分にとって大切なものが音楽や創作活動をするもの以外にまず何かが出てきて、その後に出てくるおまけみたいなものが自分の追求したいものだと。
 怪物は自分の前にどんどんと押し寄せてくる。鋭いナイフはもう目の前にまで迫ってきた。聞こえるはずのない音が刃物からキリキリと聞こえてくる。自分が大事にしたいものを考えたときに、芸術ではなく自分が本当に大事にしたいと思っている他のことが出てきたことにハッとさせられた。そのことに戸惑って、涙は出てくるものの、怖いのではなく悔しかった。

 なんで自分が追求したいものが、自分の日常から一段下がったところにあるのだろう。周りに理解してもらおうとしていないのだろう。もちろん音楽はやりたいし、演劇もやりたい。その一方で、自分の大切にしたいものやこの立場にあるから大事にしなきゃいけない時間がたくさんあって、それに費やすことは別に苦じゃない。
 だからこそ、なぜその努力をしていないのだろう。自分の思いを突き詰める作業はいつの間にかどこへ行ってしまったのだろう。
 今まで追求していなかった中途半端な自分が足元の地盤へと変わり、みるみるうちに崩れ去り、人並みという地獄に落とされる。
 それがどれだけ幸せなことかはわかっているはずなのに、まだ崖にしがみついている自分がいる。

 怪物が手にした刃物は音もなく、いつの間にか自分の腹を切り裂いていた。

 傷口から溢れ出したのは、血でも涙でもなかった。
 そこから噴き出したものは、何もなかった。

 このまま地獄に落とされるんだと、浮遊感に駆られて崖から落ちていると、すぐに地面に落ちた。自分が戦っている地面は地獄からそんなに遠く離れたところにはなかった。
 あんなに高く見えていた自分の立っているところが、地面に横たわっている自分の目と鼻の先にある。

 そこに、ふと背中が熱くなっていることに気付いた。

 落ちた地面にはさっきの怪物が落とした刃物が突き立っていた。

 背中からは温かい赤水がこぼれ出した。

 そこに駆けつけた、いつもそばにいる人によって支えられて、明日も呼応やって地獄を這いつくばって生きるのだ。

 平々凡々。


 BU(◎)DOH

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BUDOH
あなたの一存で、これからの旅路を一緒に作っていけたらいいと思います。

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