住む場所の力はあなどれない・倉庫に住んでボロボロになった体験から
住宅の建築設計の仕事をしているにもかかわらず、住環境が心と身体に与える影響について、長い間あまり深く考えていませんでした。身をもって体験するまでは。
1.場から受ける影響はあなどれない
「場の力」それも自分が一番長い間いる場所、つまり家や職場のことですが
その場から受ける影響はあなどれません。
五感で感じるものは気持ちに大きな影響を与えます。心理的に影響があるということは、身体にも影響があるということになります。
窓の外に木々や空が見えて、居心地よくリラックスできて、深呼吸をしてしまうような空間なら、セロトニンが分泌されて幸せな気もちになれる。逆に、窓の外が隣家の家の壁だったり、床に物やゴミが散乱している空間なら、ストレスを感じてイライラしたりする。ストレスは病気を引き起こす要因の一つです。
日々の暮らしの場がストレスを感じるような空間ではなく幸せを感じられる空間にすること。それがどれほど大切なことかは、ちょっと考えてみれば誰でも分かることですね。
2.建築士でも無知なんです
仕事の中で普段から、家のデザインや動線、耐震や断熱について真剣に考えていても、住まいの環境・空気の質がどれほど心理的・身体的に影響を与えるのかについては、何年か前まで深く考えることがありませんでした。「自然素材は健康にいいね」程度で実に表面的だったのです。
住まいと健康のことに関しては、建築の学校でも施工会社でも誰も教えてくれません。こういうことは、たとえ建築業界にいたとしても(いや、いるからこそ)能動的に学ぶしかないのですね。
3.倉庫をリノベしてシェアハウスに
以前私は倉庫に住んでいたことがあります。300㎡ある倉庫の2階部分を住居としてリノベし、シェアハウスにしました。キッチン、ユニットバス、トイレ、洗面を新設し、壁で各部屋を仕切り、扉をつけました。倉庫の中は新築と同じ状態になりました。
こうやって写真で見ると楽しそうな生活に見えますが、そこでの生活は心が暗くなる日々でした。
4.見た目だけじゃ分からない生活の質
ボロボロになった倉庫生活の実情
・一日の大半、自然光が入らない
・かなりの閉塞感
・窓の外は隣の工場の錆びれたトタン壁
・クロス貼りたての化学物質の臭い
・断熱がなく隙間が多い空間だったので夏はサウナ、冬は外と同じ気温
その倉庫に住んでいた時期は仕事や人間関係のストレスも加わり、ひどい頭痛があったり、病気になったり、お金がすっからかんになったり・・・と踏んだり蹴ったりの日々でした。その倉庫には2年近く住んで引っ越しました。
倉庫での暮らしで多くのことを学びました。体感、実感として痛烈に。
自然光を取り込むことがどれだけ大切か。窓の外に見える景色がどれほど幸福度に影響を与えるか。
キッチンや壁紙を新しくピカピカにしても、断熱がまったくない隙間だらけの倉庫は人が暮らす場所ではないし、工業製品の建材はストレスが高く、自然素材に囲まれた方が幸福度が高い、という結論に至りました。
それからというもの家づくりで使う建材はもちろん、窓の外に見える景色や開口部の方角、光の入り方もより意識して設計するようになりました。
5.土壁の空き家をリノベして、はじめて自然素材の家に住んでみた
ビニールクロスに合板のフローリング、40歳を過ぎるまで「ザ・格安仕様」の賃貸生活を続けてきました。毎日の暮らしの中で住空間の質を体感的に比べることができるようになったのは、3年前に空き家だった土壁の家を手に入れて自然素材でリノベしてからでした。
自分自身が自然素材の家に住んではじめて、実感として分わかったことがたくさんありました。QOL(Quality of Life)・生活の質が天と地ほど違う、ということを心の底から実感することになりました。
空間を構成する材料って身体にいい悪いだけでなく、心にもこれほど大きなインパクトがあるということも、実感として分かるまでには様々な形態の住まいの比較が必要でした。
「賃貸VS持ち家」議論では見えないQOL
こういう日々の幸せ・生活の質は、賃貸と持ち家どっちが得かでは見えてこないものです。確かに持ち家だと根本から手を入れやすいですが、賃貸の住まいでも、快適な暮らしの場をつくるためにできることはたくさんあるはずです。
ストレスが大きく、運が下がり病気にだってなってしまうような場があり、心穏やかで幸せを感じる場がある。場の力というのはあなどれないのです。
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