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ゴスペラーズの方ですか?

先日遭遇した女性の話をひとつ。

 田舎から東京へ帰る為、ボクは高速バスの停留所でバスを待っていた。しばらくすると、女性が一人停留所にやってきた。
その女性は“ふくよか”という表現では到底コーティング出来そうもない、あり余る霜降り肉とパッションの所有者で、その眉毛の細さと体格から一見して常人の感性では決して辿り着けないであろう場所から世界を見ている方なのだということがわかる。

彼女はその能登半島と見紛うばかりの眉毛をさらに鋭角に尖らせながらあたりを見回して、おもむろにバッグの中からiPodを取り出した。

そして、イヤホンを耳にするなりスタートボタンを押したかどうかすらわからない位早くイヤホンから流れているであろう音楽にノリ始めた。

早い・・・。スタートボタンを押したかどうかすら定かでない。

と、早くも僕の両の眼球はその女性にロックオン。凝視モード開始である。

僕の観察した感じでは、イヤホンが耳につくや否や、縦ノリが始まった。

“as soon as 縦ノリ”

なわけだ。

チョット待ってくれ、たまに電車の中でも異様なほどノッている人を見かけるが、目の前の“霜降り女”は早すぎだ。俺に「ちょっとイタイ人を見る」という心の準備をさせてくれ・・・。

霜降り女のノリ方はと言うと、よく映画に出てくる、恰幅のいい黒人女性がゴスペルを歌う時の縦ノリそのものだった。
 霜降りゴスペラーズの彼女は、大げさに「V」の発音の際の下唇を噛む作業をし、おそらく日本語ではない発音を連想させる唇の動きでイヤホンから流れているであろう曲をクチパクしながら、小さくその場でステップを踏み、同時に一本立てた人差し指でリズムを取る。時折、能登半島の下の目で周囲を見回し、
「アタシ、イケてる洋楽にノリノリの女ですのよ」
感をムンムンに醸し出す。誰か心やさしい人が突っ込んであげれはいいものだが、ボクはその眼光にやられてダメージが足にきてしまい一歩も動けない状態。もし襲って来たら、十字を切りながらそのゴスペルに身を委ねて彼女に喰われるのを待つしかない。

幸い、喰われる前にバスが到着し、僕は2号車、霜降り女は1号車に乗って新宿への途に就いた。

・・・と言っても、実際はボクのiPodのイヤホンから流れていた曲のラインナップの方がカオスなのかもしれないが、そこには敢えて触れないことにする。


#エンジンがかかった瞬間


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