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哀れな牛丼のお話

※お食事中の方には大変申し訳ございません。

 とある日の深夜、帰宅しようと道を歩いていると、向かいから明らかに千鳥足の酔っ払いが歩いてくる。大学生かもう少し上くらいだろうか。強烈に酔っ払って帰る時と言うのは記憶もテンションも自分のする行動もよく分からなくなってしまうもので、通りすがったコンビニで普段は買わない高めのスイーツを買ってしまったり、お腹いっぱいなのに食べたい気分になってしまって無駄にラーメン食べてみたり。かく言う僕もそういう経験があって、朝目が覚めたらおそらく帰り道のコンビニで買ったであろうチキンラーメンが、帰宅中いたる所で無数に転んだ事を物語るかのように粉々のベビースター状態になって枕元に置いてあったりしたものだ。

 向かいから歩いてくるおにいちゃんもまさにその状態で、おそらく自分の意思で行動していない。動物的な帰巣本能なのか体が憶えている家までの道順ををフラッフラになりながら歩いていて、右手には何か袋をぶら下げている。
 よく見るとそれは某大手牛丼チェーン店の袋で、たぶんお持ち帰りの牛丼セット的なもの(牛丼、サラダ、卵、味噌汁)が入っている。
 上記で「たぶん」と書いたのは、もうその原型がないからだ。
彼の右手に握られた袋の中は、千鳥足による揺れと無意識の振り回しによって完全に各容器が開封され、なおもその遠心力によって撹拌を続けている。洗剤と衣類を放り込んだら高い洗浄力を発揮するだろう。
 数分前まで牛丼セットだったであろう袋の中のそれは、もはや誰がどう見てもゲロにしか見えない。完全に「ゲロ袋を振り回しながら徘徊する酔っ払い」という構図が出来上がっていて、もしそれをカメラで撮って写真展にそのタイトルで出展しても疑うものはいないだろう。

 彼は家に帰ったら手に持っているよく言えばリゾット、悪く言えばゲロの存在など忘れてすぐに寝てしまうだろう。そして翌日目が覚めたときに枕元におかれたゲロ袋を眺めてどう思うのだろう。

 さらに最悪なのはそれを購入する際、券売機に千円札を入れて、酔っぱらっているもんだからお釣りを取り忘れるケース。
 ちなみに僕はそれを万券でやったことがある。

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