【ショートショート】ブレインストーミング
我が社の経営会議は今日も白熱している。
営業部長の袴田が意見を述べる。
「我が社の在庫管理システムは販路拡大をすべき段階に来ています。既存の取引先だけでなく、新規の顧客をもっと増やしていくべきではないかと思いますが、いかがでしょうか」
マーケティング部長の野口が続ける。
「確かに、今までは自動車部品メーカーを中心に販売していましたが、小売業、飲食店などにも販路拡大は見込めそうな感じはしています」
営業1課長の笹井が疑問を投げ掛ける。
「商品自体のアップグレードなどは可能なのでしょうか。例えば、顧客管理も可能になったり、それに伴ってエンドユーザー向けのアプリ開発なども出来たら、美容室や歯科医院などの小規模法人にも売れそうな気がするのですが」
この疑問に対し、商品開発部長の松本が口を開いた。
「充分に可能だと思います。多少時間は要しますが、遅くとも今月中には試作品といった形でリリースはできるかと思います」
営業部長の袴田が声を上げる。
「さすがですね!では、現在のお客様にもその旨お伝えしておきます!そして来月から、段階的に新業種に向けてアタックしていくというのはいかがでしょうか。…柳田さん、アプローチする業種のリスト作成お願いできる?」
営業補佐の柳田がうなずく。
「かしこまりました。今月半ばまでにリストを作っておきますので、順次精査をよろしくお願いします」
営業部長の袴田の顔が一気に明るくなった。
「それでは、来月から、新業種へのアプローチを行うということで・・・村田社長いかがでしょうか」
私は、一つ咳払いをし、皆に向かって言った。
「うん、その方向で良いと思う。みんなの頑張りがあって、我が社は売上を上げてくることができた。これからも君達の思うようにこの会社を進めていってほしいと思っているよ」
みんな各々、満足気な顔を浮かべた。
私は、話を続けた。
「・・・それで、まず、何から取り掛かろうか」
商品開発部長の松本が口を開く。
「まずは、商品のアップグレードから行いたいのですが…」
営業部長の袴田が声を上げる。
「いえ、まずはお客様への説明が先でないと売上が・・・」
袴田の発言を遮るように営業補佐の柳田が口を開く。
「私はいち早くリスト作成に取りかかりたいのですが・・・」
マーケティング部長の野口が私に問い掛ける。
「社長・・・どうします?」
私は腕を組み、天を仰いだ。
「いっつもここだよな・・・身体は一つだからな」
沈黙が続く。
私は重い口を開いた。
「・・・とりあえず、まずは商品開発から行っていこうか」
営業部長の袴田は納得いかないという表情を浮かべていたが、
「…わかりました」
と最終的には、首肯してくれた。
こうして、多重人格である私の、他の人格達との経営会議は終わった。
私の中の人格達は皆優秀だから、会議はスムーズに進むのだが、いつも実行段階で二の足を踏む。所詮私達は多重人格のうちの一つの人格。身体は一つだから、同時進行ができない。
まあでも、この多重人格で会社を経営しているおかげで人件費が削減されて、尚且つたくさんのアイディアを得ることができるので、助かってはいるのだが。