【ショートショート】ランプの社員
おじいちゃんちの物置小屋の中には、古めかしいランプがある。
おじいちゃんは昔から
「あのランプをこすってはいけないぞ…面倒くさいことになるからな」
と言って、小さい僕の手の届かない高さの棚の上にランプを置いていた。
僕はそのランプのことがずっと気になっていた。
きっとアラジンの話のように、ランプをこすると願いを叶えてくれる魔神が出てくるのだろうと思っていた。
そして中学生になり、背が伸びた僕は、背伸びをすればそのランプを手に取ることができるということに気づいた。
だから僕はおじいちゃんに内緒で、ランプを手に取り、こすってみたんだ。
すると、ランプの口から煙が出てきて、物置小屋全体が煙に包まれた。
そして、30秒くらいしたら、ランプの中から人が出てきた。
全身黒いスーツに身を包み、七三分けでメガネを掛けている。よくいるサラリーマンのようないで立ちだった。
そしてその人は僕に名刺を渡し、言った。
「お世話になります。私、株式会社ランプ、営業担当の佐々木です」
僕は何が起きているかわからなかったが、とりあえず名刺を受け取り、
「あの…願いを叶えてくれる、ランプの魔神…ではないんですか?」
と、営業担当の佐々木に聞いてみた。
すると佐々木は、
「あっお願いをご注文いただくことは、もちろん可能でございます!どんなお願いで?」
と、胸ポケットからメモ帳とペンを取り出した。
思っていたのとだいぶ違うが、どうやら願いは叶えてもらえるみたいだ。
僕は、
「じゃあ、100万円を僕にください」
とお願いをしてみた。
すると佐々木は、
「なるほど…ちょっと私の一存では決め兼ねるので、上司に一度確認させていただきます」
と言って、ランプの中に戻って行ってしまった。
確認…?一存…?
よくわからないが、とりあえずそのまま待ってみることにした。
しばらくしたら、ランプの口から再び煙が出てきて、その後に先程の佐々木が出てきた。
佐々木は開口一番僕に向かって、
「上司に確認しましたが、はい、ご希望の100万円のご融資なら可能でございます!」
と得意げに言ってきた。
僕は、
「あっ、いや…融資とかじゃなくて、100万円欲しいんですけど…」
と何か勘違いしている佐々木を正すように言った。
佐々木は渋い顔をしながら、
「なるほど…ちょっと私の一存では決め兼ねますので、上司に確認させてください!」
と、再びランプの中へと戻って行った。
また確認…。
少し苛ついてきた。ランプから出てきて、願い叶えるっつって、こんなに確認必要なやつがいるか?
しばらくすると、また煙と共に佐々木が出てきた。
「上司に確認しましたが…100万円差し上げるというのはちょっと難しく…例えば100万円相当のものを担保に入れていただけたら、それを年利2%で増やしていくということでしたらなんとか…」
僕は面倒になり、
「あっ、もういいです。ありがとうございました」
と冷めた目で佐々木に返した。
佐々木は、
「かしこまりました!また何かございましたら、そちらの名刺から私の方までご連絡ください!」
と、ランプの中へと戻って行った。
おじいちゃんの言う通りだ。
なかなか面倒臭いやつだった。
僕は、ランプをさらに一段高い棚に戻し、佐々木の名刺をゴミ箱に捨てて、物置小屋を後にした。