【ショートショート】走馬灯

暇な休日だったんで、ベランダの柵の掃除をしていたら、過ってベランダから落ちてしまった。
運が悪かった。
本当に運が悪かった。

僕が住んでいるのはマンションの10階。
悟った。助かる見込みはないと。

猛スピードで落ちていく中、僕の頭の中では、映画のように過去の情景が蘇っていた。

（走馬灯ってやつか…。本当に見るんだな…）

最初の情景は、幼少の頃によく通っていた駄菓子屋で、ガリガリくんの当たりを引いたところだった。

（懐かしいなぁ…。ガリガリくん、よく当ててたなぁ…）

走馬灯の映像が切り替わる。

次に出た情景は、中学の時にコンビニでチョコボールを買ったときに金のエンゼルを当てたところだった。

（懐かしいなぁ…。金のエンゼル、よく当ててたんだよなぁ…）

再び走馬灯の映像が切り替わる。

次に出た情景は、大学の時にたまたま買ったホームランバーで当たりが出たところだった。

（懐かしいなぁ…。ホームランバーもよく当たったんだよなぁ…）

僕は思った。

（おれしょうもないところで運使っちゃってたんだな…。だから、こんな大事なところで運悪くなって死んじゃうんだろうな。）

もし人間の一生で使う運の総量が決まっていたとしたら。
僕の場合、大したことのないところで運を小刻みに使っちゃったもんで、運がなくなってしまって。
で、今回、運悪く命を落とすんだろう。

（まあ、しょうがないか…）

走馬灯はそこで終わり、僕は自分の運命を悟り、そっと目を閉じた。

＊＊＊

「お昼のニュースです。昨日正午頃、会社員の山中裕介さん32歳が、東京都杉並区の自宅マンション10階から転落しました。

しかし、幸いなことに、その日、山中さんの自宅マンションの前で、『日本一大きいこんにゃくを作る祭典』が開催されており、山中さんは、27㎥のこんにゃくの上に見事着地し、一命を取り留めました。

事故後、山中さんは、『いやぁ、昔から、運だけは良かったんですよね』と、怪我もなく、意識もしっかりしているとのことです。」