【ショートショート】逆デジャヴ
今日は、この間の飲み会で知り合ったケイコちゃんと、仕事終わり飲みに行った。
ケイコちゃんは、旅行業の会社で働いているらしく、旅行が趣味の僕とは、とても話が合った。
楽しい飲み会も終わり、駅までケイコちゃんを送った。
「今日はありがとね。楽しかったよ。また飲み行こう」
ケイコちゃんも、
「私もすごく楽しかったです!ぜひまた行きましょう!」
と言って、改札を抜けていった。
そして僕の方を振り返り、手を振った。
振り返った時のケイコちゃんは、髭がボーボーだった。
さっきまでツルツルだったケイコちゃんの口周りには、草むらのようにびっしりと髭が生えていた。
そこで僕は声を上げる。
「ケイコちゃんに髭が生えている」
“ピンポンピンポンピンポン!!”
クイズの正解を示す音が鳴り、突如、マイクを持った司会の男が現れる。
「いやぁ、これで7日連続クリアですよ!どうですか?」
僕は、「いやぁ、まさかケイコちゃんに髭が生えるとは。楽しかったです、はい」
と答えた。
そこで目が覚める。
これが、僕が最近夢で見ている『逆デジャヴ間違い探し』だ。
夢であったことが実際に起こるというのが一般に言われるデジャヴだが、僕の場合はその逆。今日実際にあったことがその日の夢で繰り返される。
ただ、1つだけ現実と違うところがあり、そこを指摘すると、クイズ番組のような正解音が鳴り、司会が僕に感想を求めに来る…というものだ。
なぜこんなことが起きているのかはわからないが、これがなかなか楽しい。眠りにつくのが毎日楽しみになっていた。
今日も1日が終わり、眠りにつく。
夢の中の僕は、仕事終わりに駅のホームで電車を待っていた。
今日実際に僕が見た情景だった。逆デジャヴ。
しばらくすると、一匹の猫が線路に入っていってしまった。
これも今日現実であったことだ。
電車はすぐそこまで来ていた。
僕はいても立ってもいられなくなり、線路に飛び込み猫を助けた。
間一髪で猫を助けた僕は、猫の無事を確認するために、腕の中の猫に目をやる。
すると、僕が抱えていたのは猫ではなく、お笑い芸人の猫ひろしさんだった。
僕は、「猫じゃなくて、猫ひろしになっている!」と声を張り上げた。
すると、
“ピンポンピンポンピンポン!!”
と正解音が鳴り、司会の男が現れる。
「さすがです!8日連続正解!今のお気持ちは?」
「そうですね、今日は割りと簡単でしたね。まあ楽しいですけどね、これ」
目を覚ます。
その日も難なく一日を終え、眠りにつく。
夢の中の僕は、最寄りの駅から家に向かって帰宅していた。
今日は特に予定もなかったので、オリジン弁当でお弁当を買って、家に帰る。
無論、今日現実の僕がとった行動と同じ行動をとっている。
スマホをいじってゴロゴロしていたところ、突如司会の男が現れた。
「どうですか?今日はちょっと難しいですか?」
司会の男がマイクを僕の方に向ける。
「え?どこか間違いありました?」
どうやら既に間違い探しは始まっていたようだった。
ただ、至っておかしいところはなかった。
今日の僕の現実の生活と何ら変わりのない夢だった。
司会の男は、
「あー、流石に9日連続は難しいですかねー」
と、ニヤニヤしながら僕の顔を覗き込む。
僕は何か変なところはなかったかと思い返してみる。
ただ、どれだけ考えても、おかしなところは一つもなかった。
「…何か、ヒントはないですか?」
僕の質問に対して、司会の男はニッコリと笑って、言い放った。
「昨日、あなたは何をしましたか?」
昨日…?昨日は僕は線路に落ちた猫を助けて・・・
あっ・・・
そこで僕は気づいた。
「・・・昨日で、僕、死んでます?」
司会の男は僕の方にマイクを向け、
「はい!ということは!?」
と声を張り上げる。
僕は、ゆっくりと答えた。
「今日の夢は・・・全部が間違い。昨日死んだ僕は・・・現実がなかった」
すると、
“ピンポンピンポンピンポン!!”
けたたましい正解音が鳴り響いた。
「正解です!9日連続クリア!素晴らしい!!」
そうか、僕は昨日で死んでしまっていたのか。
司会の男は続ける。
「ただここで残念なお知らせ!あなたが死んでしまったということで、もうあなたに現実の世界はありません!よって、これが最終問題となり、この『クイズ!逆デジャヴ間違い探し』は終了となります!・・・今のお気持ちは?」
マイクが僕に向けられる。
僕は、
「いやぁ、なんか寂しいですね」
と、部屋の天井を見上げながらため息をついた。