【ショートショート】酔拳
おれは最強の武闘家になるため、拳法の達人リー・チェンスに弟子入りすることになった。
弟子入り初日、リー・チェンスは、自慢の白い髭をいじりながらおれに言った。
「わしはお前に、酔拳を教えよう」
「…酔拳?なんですか?それは」
「酔拳とは、酒を飲めば飲むほど強くなる拳法だ…まあ、わしと組手をすればわかる」
そう言って、リー・チェンスは腰から下げていた瓢箪水筒の栓を抜き、ぐびぐびと飲み始めた。
「ふー」
飲み終わると、リー・チェンスの顔はだんだんと赤みを帯びていった。
そして、おれに向かって構えた。
「さぁ…ひっく…どこからでも…ひっく…かかってこい」
おれはリー・チェンスに飛び蹴りをした。
しかし、
「ひっく…」
リー・チェンスはしゃっくりをしながら、ひらりとおれの飛び蹴りをかわした。
そしてふらふらしながら、着地するおれに足払いを仕掛けた。
バランスを崩し、おれは倒れ込んだ。
リー・チェンスは頬を赤らめ、倒れるおれを見て笑っていた。
(すごい…!これが酔拳か…!)
おれは起き上がり、
「リー師匠!おれに酔拳を教えてください!」
と、リー・チェンスに頭を下げた。
リー・チェンスは
「まずは酒を飲め」
と言って、持っていた瓢箪水筒をおれに向かって放った。
おれは瓢箪をキャッチし、栓を開け、瓢箪水筒の中に入った酒を飲んだ。
カシオレだった。
瓢箪水筒の中身は、カシオレだった。
リー・チェンスの飲んでいた酒は、カシオレだった。
なぜだか、おれは一瞬で、リー・チェンスが弱く見えてきてしまった。
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