【ショートショート】力が欲しいか…
青葉中学2年3組の柳田タカシは、放課後、体育館裏で同級生達にいじめられていた。
4人掛かりで殴る蹴るの暴行を加えられ、かけていたメガネも割られ、鞄の中の教科書、ノートはビリビリに破られていた。
いじめっ子達が去った後、タカシは泣きながら呟いた。
「くっそ…僕にもっと力があれば、あんな奴らにいじめられなくて済むのに…。力が欲しい…圧倒的な力が欲しいよ!!」
空に暗雲が立ち込める。
そしてタカシは、脳内に語り掛けてくるような声を感じた。
(力が欲しいか…!!)
タカシは驚き、辺りを見回す。
「だ…誰?誰かいるの?」
すると、空の上から黒いマントに身を包んだ1人の男が降りてきた。
タカシは驚き、腰を抜かした。
「空から…人が…!!」
黒いマントの男はそのまま地面に降り立ち、タカシに近づき、口を開いた。
「私は邪悪の化身カイザー。力を欲する者の下に、私は現れる…。貴様が力を欲するならば、与えてやろう…。再び問う…力が欲しいか…!!」
「あっ大丈夫です」
タカシは即答した。
「・・・いらないのか?」
カイザーは目を見開いて、タカシを見る。
タカシは割れたメガネをくいっと上げながら話し始めた。
「暴力に対して暴力で返しても何も意味がないと思うんですよね。僕は僕をいじめる人達に、暴力の無意味さを伝えるべきなんだな…って思いました」
カイザーは再び問う。
「・・・いや、さっき、力が欲しいって…」
「いやよく考えたら、違うなってなりました」
タカシは再び即答した。
カイザーはしっかりとタカシの目を見て言った。
「・・・あの、おれ、けっこう遠くからわざわざ来たんだけど…」
「すみませんでした」
タカシはまたも即答した。
「・・・そっか。・・・じゃあ、帰るわ…」
カイザーは再び空へと帰っていった。
黒いマントの男は、どこか寂しそうな背中をしながら、高く高く舞い上がっていった。