【短編小説】THE MOMOTA-LOWS
昔々、あるところに、ライブハウスを営むおじいさんがいました。
おじいさんは退屈していました。
「最近のバンドは、なんてゆーか、面白みに欠けるなー…」
おじいさんは、セックスピストルズやクラッシュのような荒々しくも人の心を惹きつけるバンドを求めていました。
そんなある日、おじいさんは自身のライブハウスで、とんでもないバンドを見つけることができました。
“THE PINK HEARTS”というバンドでした。
中でもボーカルの少年は、しゃがれた声で歌い、荒々しいパフォーマンスで観客を盛り上げる、最近のバンドでは珍しいタイプのフロントマンでした。
ライブ後、おじいさんはTHE PINK HEARTSのボーカルに話し掛けに行きました。
ボーカルは『桃田太郎』という少年でした。
ライブ中の印象とは全く違い、岡山弁で話す朴訥な少年でした。
そして、桃田少年は、THE PINK HEARTSがその日のライブで解散することも話してくれました。
おじいさんは桃田少年に、どこか昔の自分と重なるところを感じ、
自分の過去について話しました。
おじいさんは、昔、バンドマンでしたが、
『オーガ・ランド・レコーズ』というレーベルに目の敵にされ、
バンド解散にまで追い込まれたという話を、桃田少年に話しました。
それを聞いた桃田少年は、
「許せない…おじいさん、僕が『オーガ・ランド・レコーズ』を退治します!」
とおじいさんに宣言しました。
それから桃田少年は、新バンドのメンバーを探しました。
桃田少年は、ライブハウスのおじいさんから、かつてのおじいさんのバンドの未発表の音源、『Keep Beating, Dancing and GO』という曲を譲り受けました。
そしてそのデモテープを腰につけて、様々な伝手を辿ってメンバー探しに奔走しました。
すると、3人のメンバーが集まりました。
ギターの犬飼、ベースの猿渡、ドラムの雉林でした。
3人とも桃田太郎の腰につけた、『Keep Beating, Dancing and GO』に惹かれ、バンド加入を決めたのでした。
こうして、桃田、犬飼、猿渡、雉林の4人で、
“THE MOMOTA-LOWS”が結成されました。
THE MOMOTA-LOWSは、おじいさんのライブハウスを拠点としながら、全国各所で精力的にライブ活動を続け、
ノープロモーションながら口コミだけでライブキッズ達の間で話題となりました。
そして、遂に、岡山県で開催される夏フェス『岡山大作戦』への出演が決定となりました。
THE MOMOTA-LOWSは、この『岡山大作戦』の3rdステージのトリを任されていましたが、メインステージのヘッドライナーは、『オーガ・ランド・レコーズ』の期待の若手バンド”THE 鬼ーズ”でした。
桃田少年は、この『岡山大作戦』での動員数で”THE 鬼ーズ”に勝つことで、『オーガ・ランド・レコーズ』を退治しようと考えていました。
しかし、MOMOTA-LOWSの出演する3rd ステージの収容人数は500人、一方の鬼ーズの出演するメインステージの収容人数は1万人と差があり、動員で勝つことは非常に難しいことです。
そんな状況の中、両バンドのライブは始まりました。
すると、ライブの途中から、見る見るうちに、3rdステージに観客は集まって行きました。
そしてその多くは、メインステージから流れていた観客ということがわかりました。
メインステージの鬼ーズの観客はマナーが悪く、何度も演奏を中断することになり、中断中にモニターに映し出された3rdステージのMOMOTA-LOWSのパフォーマンスを見て、観客は移動を始めていたのです。
MOMOTA-LOWSはライブハウスのおじいさんから受け継いだ『Keep Beating, Dancing and GO』を演奏して観客を盛り上げ、観客は「キ・ビ・ダ・ン・ゴ!(Keep Beating, Dancing and GO)」と大熱唱していました。
結果、3rdステージの観客数は1万人を越え、 MOMOTA-LOWSは『岡山大作戦』における、1番の観客数でライブは終了しました。
桃田少年は、鬼ーズに勝ち、『オーガ・ランド・レコーズ』を退治することに成功しました。
それから、THE MOMOTA-LOWSは誰もが認めるモンスターバンドとなり、MOMOTA-LOWSを生み出したおじいさんのライブハウスも大盛況になり、みんな幸せになりましたとさ。
ファッキンめでたし。ファッキンめでたし。