MBAのこと③(グループシンクとは?)
神戸大学MBAに通い出してから様々なことを学んでいます。その学びを深めるために特に印象に残った学びをアウトプットしてきたいと思います。
今回は組織行動論の中の「グループシンク(集団浅慮)」です。グループシンクとは、集団で何かの合意形成をするに当たって、意見や結論に対して正しいのかやリスクなどを適切に判断・評価されることなく愚かな決定をしてしまうことです。
アービング・ジャニスという心理学者が提唱したもので、集団であるがために「三人寄れば文殊の知恵」の全く逆の効果となってしまうことを指しています。
チャレンジャー号の事故
この理論を学ぶための有名なケースとして「1986年のNASAのスペースシャトルチャレンジャー号の爆発事故」が挙げられます。私も当時小学生でしたがテレビのニュースでチャレンジャー号が爆発する映像を見てショックを受けたことを覚えています。
しかし、この事故について実は以前からNASAとロケットブースター製造を請け負うチオコール社の間で低温度下での発射時における部品の耐久性についてリスクが上がっていたにも関わらず、打ち上げを強行した結果、事故が起こった。未然に防止することが可能だったと言われています。
当時の背景としてはNASAは国からシャトルプログラムの削減や度重なる発射の遅れによって、出来るだけ早く打ち上げをしたいという思惑がありました。ロケットブースター製造を請け負うチオコール社も次の予算を獲得するためにもこれ以上遅れさせることはできない状況という「時間的プレッシャー」が両社にありました。
しかし、打ち上げ予定の前日、NASAとチオコール社の最終決定会議の時にチオコール社のエンジニアが打ち上げ当日の気温が低く、ロケットブースターの一部品が正常に働かないリスクを説明しますが、NASA側はそのリスクのエビデンスのなさや過去の打ち上げの成功例などを上げるなど過小評価し、NASAの強い意見が通ってしまい、会議の雰囲気が一気に「大丈夫」「打ち上げよう」となり、最終的に打ち上げが決まりました。翌日打ち上げますがチオコール社のエンジニアが提唱したようにロケットブースターから発火し、爆発に至ってしまいます。
このNASAとチオコール社の最終決定会議にグループシンクが起こったと言われています。グループシンクの症状は以下の通りです。
グループシンクの症状とは?
・自分たちは正しい、大丈夫だという幻想・思い込み
・自分たちは道徳的だと思い込む
・外部からの注意や警告に耳を傾けない
・ライバルの弱点を過大評価し、強み・能力を過小評価する
・異議や都合の悪い意見に圧力をかける
・自分の考えや意見を抑えて、周囲に合わせる
・過半数ほどの意見・同意だとしても全員一致であると思い込む
・自分たちに都合の悪い情報を遮断・無視する
最終会議でも「翌日打ち上げること」ということを前提に議論されており、チオコール社のエンジニアが危険性を提唱しても、NASA側が猛烈に批判して取り入れることはありませんでした。最終的にチオコール社の上層部も打ち上げに同調してしまいます。会議の空気に合わせるしかなかったのです。グループシンクに陥ったのはなぜでしょうか?
グループシンクの陥る要因とは?
・時間的要因:時間がない時は決定することが優先されてしまう
・専門家の存在:自分よりもその領域に詳しい人がいるとその人の意見にしたがって、自分の頭で考えなくなる
・利害関係:何らかの利害関係が発生する場では、自分に有利になるようにしてしまい、内容自体への考えが浅くなる
まさにこのケースでは度重なるシャトル打ち上げの遅れや予算の制約などによってNASAもチオコール社も時間的プレッシャーがあり、リスクよりも打ち上げることが優先されました。またNASAとチオコール社は利害関係があり、仕事を請け負うチオコール社はNASAの強い要望に最終的には従うしかありませんでした。ではグループシンクを防止するにはどうすれば良かったでしょうか?
グループシンクを防止するには?
・議論ではわざと批判をする側の役割を作る
・AかBかの議論の時にC案を考える役割を作る
・全員が異なる意見を受け入れるように心がける
・外部からの意見を積極的に取り入れる
・リーダーや立場が上の人が議論のファシリテートを行いメンバー同士で議論できるようにする
打ち上げるか打ち上げないかというAとBのみの議論ではなく、低温時に発射した場合のリスクについてエビデンスを得るために検証する時間を取るというCの選択肢があれば、打ち上げを延期できたかもしれません。またNASAとチオコール社の利害関係がある2社のほかに技術者などの外部からの意見を聞くということも会議の中で行って入れば結論が変わっていた可能性もあります。
このケースからいえることは、会議の場において多くの人の意見に流されることなく、小さな意見でも取り入れて検証する姿勢を持つこと、重要な意思決定ほど十分に時間をかけてリスクの検証をすること、自分たちの判断と反対の立場で検証することなどが誤った判断に陥らないポイントです。