名もなき湖
いや、本当は名前はあるんだろうけど、僕はこの湖の名前を知らない。
観光として湖に行く時、ガイドマップやネットで調べていくことが多い。
当然名前を知った上で、だ。
アルゼンチンの最南端ウシュアイアという街を旅していた。
南極の起点にもなったり、夜22時になっても外は明るいという場所だ。
そのウシュアイアで泊まっていた宿帳にこの湖の地図が書いてあった。
なんて書いてあるのかわからないくらいクソ汚い字で、最低限の情報しかない。
映画「天国の口、終わりの楽園」の世界観のような、あるのかどうか不確かなものを探し求める旅にワクワクした。
翌朝、宿を出ると途中からワンコが二匹ついてきた。
登山口に入ってもついてくる。どこまでついてくるんだろ、と疑問に思っていたが、それは私の勘違いだった。どうやら先導してくれる様子をしている。
そう、今日のトレッキングガイドはこのワンコ達なのだ。
「こっちだよ」と言わんばかりにワンワン吠えて先導してくれる。
途中、毛並みがとても美しい馬にも遭遇した。桃源郷みたいだな、ここは。
4時間30分くらい歩いただろうか。
エメラルドグリーンが美しい何もなき湖に着いた。
ありがとう。君たちのおかげでガイドブックにものっていない湖に出会える最高のトレッキングになったよ。
何かわからないことがあればすぐにスマホで調べられる現代は、
とかく答え探しをしてしまいがちになる。
たまには何も調べずに、名もなきものを求めて風の吹くままに歩いてみるのもいいのかもしれない。